第三話 あなたは誰ですか?
どうもみなさん、鈴音です。
あの後、家というか寮みたいなというかかなり豪邸な家に戻ったら、同い年くらいの男の子が倒れていました。
なんといか、服はボロボロで浮浪者かな?みたいな感じに思えたんですが。
よくみるとわたしたちと同じ研究着を着ていたのでこの子も実験体のひとりなのだろうことはわかりました。
まあ、それだけじゃないんですけどね?
「鈴音。この子狼の耳と狼の尾が生えてるよ? その因子でもいれられたのかな?」
「そうじゃないとこんなへんぴなところにいないでしょう」
と、わたしは映奈に答えました。
映奈とはパピヨン犬の因子を埋め込まれた子です。
「おおかた獣好きが母体から取り出したときに片方をそうなるように遺伝子を組み替えたんだろ」
「はためいわくですね」
「まったくです」
わたしがそう言うと玉藻前にとりついた狐と同じ因子を埋め込まれた珠城ちゃんがうんうんと頷いていました。
ほんと、どこにでもいるんですね~。獣好きな人って……。
というか、妲己のとか玉藻のとかほんと、どこから取り寄せたんですよ。
「どうする、連れて行く?」
「そうするしかないでしょ。 ほっとくわけにもいかないだろうし」
茜さんの問いに千秋さんがめんどくさそうに男の子をかつぎあげて家に入っていく。
あの後、体を拭いてお布団に寝かせてしばらくして様子を見に行ったら起きていて。
犬歯をむき出しにしてこちらを警戒してました。
まあ、そうなりますよね?
「てめえらは誰だ!」
「あんたみたいな被害者をかくまう会社の者だよ。 その警戒からするとよほど嫌なめにあったのね」
と、淡々とした様子で話す千秋さん。
さきほどのめんどくささは抜けているみたい。
まあ、真面目になっているだけかもしれないだけかもだけど………。
「嘘だ、あのへんなやつみたいに耳とか尾とか触りまくるんだろ! すきでお願いしたわけじゃねーのに!」
「触りたいけど、無理やりに触る気はないわね~」
と、茜さんがぽわぽわとした様子で話す。
うん、そうだね。
「千秋さん、ふしぎなんですけど。 彼からはシンクロというかなんかのシンパシーみたいなのを感じます」
「ふむ、なら、母体は同じだけど卵子だけを摘出されて他の狼との精子との融合でもさせたんだろうね」
そうなのですか、だから同じ感じがちろちろとするわけですね。
「まあ、とりあえず……オシオキだな」
「ぐはっ!?」
あ、げんこつで昏倒させた。
しつけられるな、彼はこれから……。 まあ、頑張って名も知らない男の子よ…。
チョーカーをつけられた彼はおとなしくなった。
獣系にはああいうチョーカーをつけるとおとなしくなるらしい。
「ねえ、鈴音の名前を考え直さない? 真っ白な髪で日本人な名前は無理があるかもだし」
「そうだね。 安直でエンジェル系でいくとか? アンジェリークで愛称はアンジェでいくか」
と、千秋さんはわたしの真っ白い髪をきれいにすいてくれる。
本当なら切りたいところだけど、もったいないと言われたのでそのまま伸ばすことに。
真っ白い雪のような肌に真っ白い髪………確かにこの見た目であの名前はないか。
鏡を見ながらぼんやりとそう思っていた。
「んで、あんたはアンジェの兄みたいなもんだろうから、ウルフェンで愛称はウルだ」
「同い年だしね~、見た目も似ているようなものだから双子でとおりそうね~」
千秋さんと茜さんはそんな会話をしていた。
え、食事はしたよ? ウル兄は狼だからかなり多く食べていたけどね。
ちなみにウル兄も丸洗いされて衣服とかはあの似非神父さんからもらった服を着てる。
わたしもそれをもらっているけどね。
今夜もみんなを起こさないように屋根の上で月を眺めるわたし。
ヘッドホンで音楽を聴きながらの月見は楽しいかもしんない………。