元貴族の令嬢ですが、何か?
ドラゴン愛企画に参加しようと書いたものです。三話程度で終わる予定です。
目の前に広がる光景に、何時だって私は嬉しくなる。私のために用意された家から出たら、すぐ隣でのんびりとしている真っ赤な鱗を持つドラゴンが居る。
そして前を向けば、飛び交う小さな子竜たちも見える。子竜とはいえ、それなりに大きい。生まれたばかりの子竜は本当に小さいのだけど、数か月たつと私と変わらないぐらいには大きくなる。そんな子竜たちが、パタパタと翼を羽ばたかせて、可愛い鳴き声を上げている。
そのすぐ近くには、子竜たちの親竜である大きな竜たちもいて、数えきれないほどの竜が居る光景というのは、毎日見ていても本当に心が躍ってしまう。
此処は、ドラゴンの里だ。ウィンダ山の山奥にある、谷。そこにドラゴンの里は存在していて、竜の谷とも言われている。
この場所に、私は人間だけど、住んでいる。
この里に住んでいる人間は私一人だけ。他に人間は、ううん、人種はいない。この世界には、人間、獣人、エルフ、ドワーフなど、人と呼ばれる人種は数多く存在するけれど、此処に存在する人種は私だけだ。
「……エルフィーナ、おはよう」
じーっと、視界に映るドラゴンたちを視界に収めて、嬉しくなっていたら家の隣で寝ていた赤いドラゴンが目を覚ます。
私の、エルフィーナという名を呼ぶ。
「おはよう、シンラ」
シンラの声が好きだ。私を呼ぶ声を聞くと、本当に嬉しい。シンラが体を起こして、体の上に乗るように言ってくれる。私はお言葉に甘えて、シンラの上に体を乗せる。もちろん、魔法を使って体を浮かしてだ。シンラの身体は大きいのだもの。普通に乗るのも大変だわ。
ドラゴンの里で暮らしている私は、毎日特に何かをしなければならないという事はない。ただ普通に生活しているだけ。こうやってのんびりと生活を営んで、何も考えずに暮らすという日々を私は気に入っている。
私が人間社会で暮らしていた頃は……正直柵がおおくて、自由に生きるなんていう事は出来なかった。シンラの上に乗って、空を飛ぶ。上空から下を見下ろす光景が好きだ。沢山のドラゴンが住まうこの場所で、こうして暮らしていける生活は本当に充実している。
食べて、寝て、ただのんびりと過ごす。
ドラゴンたちは、人間の料理は食べない。食べる事もあるといえばあるのだけど……、基本的に私は自分用に料理を作っている。自分の物を自分で用意するのは当然だよね。
シンラは私をいつも乗せてくれる。空を飛ぶのが好きなシンラは、私と一緒に空の散歩をしたいんだって言ってくれる。そしてついでに食べ物の取れる場所に連れて行ってくれたりもする。
食べられる生き物を狩って、植物を集めて、自分の食料を調達する。私は女で、力はないけれど幸いにも魔法の才能があったから生き物を倒す事に関しては簡単だったけれど、解体といった事はあまりやったことなかったから、試行錯誤しながらやったの。あと食べられる植物や果実についてはこれは、ドラゴンたちの方が詳しくて教えてもらったりもしたわ。
昔は全てが用意され、与えられている生活をしていたから正直最初はこの里での生活は苦労も多かったわ。でも私はドラゴンたちが好きだったし、私を受け入れてくれて嬉しかったし、何よりシンラが居たから。
私は元々、このドラゴンの里から少し離れた位置にある国の、貴族だったの。それも公爵家令嬢という、貴族の中でも高い地位にいたわ。第二王子の婚約者という立場で、それはもう昔は我儘だったわ。我儘だった私が変わったのは、誘拐というものを経験したから。相手は飛行魔法を習得していて抱えられてたんだけど、私は暴れて、落ちたの。その落ちた先が、シンラの上で……シンラが受け止めてくれたから私は無事だった。シンラを見てびっくりして涙が止まって、最初はシンラは私を食べようとしていたし怖かった。ドラゴンにとって鹿とかも人間も一緒よ。弱いから食べられるっていうそれだけの話。そこに食料があるからただ食べるとかそんな感じ。言葉は通じるし、人間は食べると討伐隊とかがきて面倒だからあまり食べないようにしているらしいんだけど、私一人ぐらい食べてもいいかなとその時思ったらしい。
が、私が「私は食べてもおいしくない!」、「私はヒノラノ公爵家の長女よ!」と偉そうに言って、「私を助けてくれるならご褒美がでるのよ!」とまで言って、こう……受け止めてもらわなきゃ死ぬ所だったのだからお礼ぐらい言おうよ過去の私と思い返すと思うけれど昔の私はそんな糞ガキで。
人間の世界について詳しくなくても偉そうな人間を食べると後々面倒な事になる可能性があるからとなんだかんだで私は食べられなくて。食べられないと知るや否や私は我儘を発揮し、あれやこれや難癖をつけたりとかしていて。というか、ドラゴンでも私のいう事を聞く。私は公爵家の娘なのだからという思考で……結果、ぶち切れられて性格がまともになったのだけど。国とお父様にどうにか連絡がついて、国と竜の谷の間の草原で私が引き渡される事になっていたのだけど……それまでの期間、竜の谷で過ごしたの。その間に私は価値観がどんどん変わっていったわ。そしてドラゴンたちと仲良くなりたくなって、一生懸命自分から向かっていった。それまで公爵家令嬢の私の周りには誰かがいるのが当たり前だったけれど、竜の谷では自分から行かなきゃいけなくて。正直ぶち切れられた時、面倒だから食べないだけで食べてもいいんだぞと言われて恐怖心もあったけれど、何だかその後価値観が変わった後は、ドラゴンって生き物に惹かれていったというか。寧ろ、国に帰る時帰りたくないって泣き喚いていて。そしたらその頃には仲良くなってたシンラ(草原までついてきてくれていた)が「我らのもとに遊びにくればいい」と言ってくれて。
いや、もうその時は喜んだけれど後から竜の谷に行くのは危険だと当たり前の事がわかって。家のものには止められるし、竜の谷に行く力は私にはないと知って落ち込んで。でも行きたいから、自分で行く力をつけようと力をつけたの。お父様とお母様とお兄様に頼み込んで、条件を付けて認めてもらって、そして行けるようになったのはシンラたちと別れてから三年も経った頃で。忘れられているんじゃないかとドキドキして向かえば、遅いと文句を言われ。だけど、覚えていてくれたことが嬉しかったっけ。
それから私は家族のつける条件をこなしながらドラゴンたちの元へ通いながら、第二王子の婚約者という立場に相応しくあるべく必死だった。第二王子であるグラ様は、学園卒業後は王太子を内政で支えると文官になると言っていたの。私は一緒に文官を目指してグラ様と共に国を支えるとなっていたわ。
……なっていたのよ。本当に学園に入学する頃は。グラ様と私の仲もそれなりによかった。恋愛感情があるかどうかでいえばなかった。私には好きな存在が居たけれど、叶うとは思っていなかったのと、自分の立場を放棄する気もなかったから。そもそも王侯貴族は好き嫌いで婚約者を決めるものでもないし、恋愛感情があるかどうかなんてどうでもいい事じゃない。なくても、夫婦になっていくのが王侯貴族で。恋愛感情がなかったとしても、夫婦になるなら仲良くするように努力するのは当然だわ。
そんなわけで受け入れていたのだけど……、グラ様が、真実の愛を見つけたがどうのうこうの、こう、王族として頭わいてるんじゃないの? と思うような事を言い始めたのがきっかけだったわ。真実の愛を見つけて、君を愛せないとか、言い出して、婚約破棄したいと言い出して。その相手が男爵令嬢の子で、正直その子は貴族がなんたるかわかっていない印象だったわ。私はひとまず、グラ様の申し出に頭を抱えながら、「国王陛下からの王命での婚約は私たち間で勝手に破棄は出来ません。まずはお父上にそれを伝えてみてください」といったのだけど、グラ様とその男爵令嬢は何を勘違いしたのか、私がグラ様を恋愛的な意味で好きで、公爵家の権力で婚約破棄を妨害しているといわれた。国王陛下が婚約破棄を却下したらそうなったらしい。意味がわからない。
昔の私が我儘だったというのは貴族達なら皆知っていて、あんな我儘娘が突然変わったのはおかしい。やはり優しいふりをして我儘娘なのだなどと言って。男爵令嬢はなぜかグラ様だけではなく他にも男たちをはべらせていて、……グラ様と恋人なのでしょう? と驚いた。男爵令嬢は嫌がらせをされていたらしく、もちろん私でも、男爵令嬢の周りにいる男性たちの婚約者たちがやったわけではなくて、男爵令嬢をねたんでいた貴族令嬢がやっていたの。私と同様、婚約者の令嬢たちはちゃんと手順を踏んで婚約破棄をしてくださいと告げ、婚約破棄はいいけれど男爵令嬢は誰と結ばれるつもりなのかと心配していたぐらいだった。高位貴族の令嬢である彼女たちは、「真実の愛を見つけた。婚約破棄したい」と告げる婚約者に対し、呆れて一緒に夫婦になることに不安を覚えて、婚約破棄してくれるならしてほしいと思っていたらしい。
というか、男爵令嬢は誰と付き合っているの? と疑問を感じた私は悪くない。それか、男爵令嬢の周りにいる男たちは他の人に真実の愛を見出しているの? とよくわからなかった。他の令嬢たちは、周りの男性たちと婚約破棄を順調にしていった。これは、家が許可したからに他ならない。恐らく男性たちはこれで家に見放されてきているのだが、本人は気づいているのか、気づいていないのか。
私は国王陛下の許可がなかったのもあって、婚約者のままだった。国王陛下には迷惑をかけるといわれた。婚約者のままだったから、グラ様と男爵令嬢に対して「国王陛下の許可がないのならば、婚約破棄は受け入れられません。私はその方を愛人にしても問題はないとしています。ただ正当な血筋の子供が居ないのは問題ですから、子供を作ってください。その後は、私は放っておいてもらって構いません」といった。卒業と同時に爵位も陛下は与えるといっていて、後継者がいないのは問題だもの。あと「私は婚約破棄をしていただいても構いません。陛下が許可を出す価値があると認めるほどの行動を彼女がなしたならばどうにかできるので正妻になりたいなら卒業までに頑張ってください」とも言った。これは陛下も了承済みだ。私としては婚約破棄をしても良かったため、陛下に彼女に価値を見出したなら許可を与えてあげてくださいと告げていた。
これでそのままグラ様の正妻になるならそれはそれで、婚約破棄されるならされたで考えればいいだけだったから。
婚約破棄してほしいなら男爵令嬢が頑張ればいいじゃないと思っていたから。けど、何だか、変な勘違いを発動させ続け、グラ様は強行手段にでた。
呼び出されてのこのこついていってみたら、魔物はびこる地に放り出された。竜の谷によく通っていた私からすればこの程度で私を殺せると思っていたの? と驚きながら、少しだけ時間がかかってかえってきたら、私死んだ事になってた。グラ様主導でさっさと葬式もやっていたらしい。早すぎるでしょう。……私方向音痴でかえってくるのに少しだけ時間がかかってしまったけれど、それでも行動が早いわ。前々から準備をしていたのねとその時は呆れたわ。
家族は私が死ぬなんて信じていなかったみたいだけど、グラ様が王族としての権限を使ってさっさと葬式して私は死んだ事になっていたと……。とりあえず家に帰って、無事を喜ばれたのだけど、私色々疲れちゃって。
「私、行きたい場所があるの。そこで、ただのエルフィーナとして生きていきたいわ」
そうお父様に願い出たの。そもそも実は生きてましたって大変なの。王族が死んでいたとしていたのに葬式のすぐ後に生きてましたってするのもねぇ? と思ったわ。それに殺されかけるぐらい嫌われていたのねと思うと色々嫌になったわ。もう勝手にしろとそう思ったの。国王陛下に頼まれていたし、幼馴染としての情はあったけれど情はすっかり尽きてしまって。死んだことになっているならいっそと思ったの。
生きたい場所があるといった私を、両親とお兄様は許してくれた。あとはこっちでどうにかするからと黒い笑顔だったからグラ様たちどうなったのかわからないけど。家族が許可してくれたのは、私の気持ちわかっていたからだと思うわ。
それで、そのまま私はドラゴンの里にやってきて、住んでいるの。ドラゴンたちと仲良く生きているの。
今頃国がどうなっているかは、正直わからないわ。行ってないもの。両親やお兄様……あと生きてますってばらした親友とは連絡を取り合っているけれど、皆忙しいみたいであってはいないわ。もう少ししたら会いに行くってお兄様からこの前連絡がきたから会えるの楽しみなの。