4.
あれからさらに1年が経ち、俺は4歳、クリストフは6歳となった。
そんな中、例のごとく俺が部屋でクリストフと一緒に遊んでーー俺がこの世界では貴重な絵本を読んでもらってーーいると、普段俺たちに接触してこないお父様、『ティメオ・クリュッグ』がやってきた。
「クレア、後で話があるから私の部屋に来なさい」
なんだなんだと身構えていれば、たったそれだけ、俺が返事をする間も無く去っていく。
「……クレアはなにか心当たりある?」
思わず顔を見合わせたクリストフがそう聞いてくるが、わからないので俺は顔を横に振った。
* *
ティメオが後でと言っていたのに甘えて、あれから絵本を読み終わって部屋に訪ねているところだ。
コンコンとドアを小さな手でノックし、「おとうさま」と声をかければなんと内側からドアが開いた。
てっきり、自分で開けなければならないと思っていた俺は予想外のことにびくっとしてしまう。
それはなぜかというと、父親であるティメオは良くも悪くも典型的な魔法使いだから。
この家の使用人の立ち話ーー主に侍女達のもので、やはり女性がおしゃべり好きということは変わらないーーを盗み聞きして集めた情報によると、なんとお父様、塔と呼ばれる国の魔法を研究する機関の最高権力者なのだそうだ。
力がモノを言うこの風潮の中、とてもすごいことだと思う。
おかげで日がな贅沢をさせてもらっている事には感謝してもしきれない。
……だがしかし、そんなところにデジャブを感じるのがうまい話にはなんとやら、だ。
なんとお父様、ガッチガチな典型的な魔法使いであるが故に魔法優先思考の持ち主なのである。
聞いたところによれば、会った事も見た事もないが為実感はあまりないのだが、俺を産んで死んでしまったという母親も、身体は弱いが魔法使いとして優秀だったから結婚したのだとか。
この世界に写真はないけど、大概代わりに似顔絵的なものを残すものだが、……それさえもないのが証拠といえよう。
おかげで俺は母親の姿を知らないのを少し残念に思う。
それは何故かって? なんたって俺は母親に似ているらしい。
使用人達曰く生き写しなのだとか。
つまり、母親は俺好みの少女クレアノーラが大人になった姿をしていたという事。
別に少女の姿に不満を持っているわけではない。
屋敷の使用人達の中比較的侍女達の方が少ないが為に、野郎どもに囲まれ日々の癒しが少ない俺にとっては悲しい事だった……。
話が逸れてしまったが、そんなこんなで俺の憶測だがクレアノーラの陵辱エンドにはティメオが一枚噛んでいると考えている。
自分自身の嫁さんさえ魔法重視で考えるのだから、俺にとってはありがたくない話だがそれくらいやってのけそうだ。
ーーしかもお父様、お兄様と違ってちょろくない。
クリストフにつかったカルガモ親子作戦を決行しようとしても、ほとんど仕事があるからと言われ何もする事ができない。
俺は分別がつく幼女である。食わせてもらっている身だからこそ、流石にそこらへんはわきまえている。……心の中でお父様というあだ名をつけるくらいいいだろう。
しかしこれまで何も進展していなかったのだが、とうとう動きが出たということなのか。
部屋に呼ばれるなど覚えてる限りなかったから緊張していたのだが、……何故だか俺はティメオの膝の上にいたりする。
しかも向かい合わせで。
この親子は幼女を膝に乗せるのが好きなのだろうか?
そんな疑問を浮かべていれば、ティメオがぎこちなさを感じさせる手つきで俺の頭を撫でてきた。うーむ、クリストフには負けるな。まぁ、俺の頭を撫でたりといったスキンシップが少ないのだから致し方ない。
……でも美丈夫がぎこちない手つきで俺の頭を撫でていると考えたら、なかなか面白い。
しかし今回は多分、真面目な話をしようとしている場面だろう。俺がティメオに話があるなんて呼ばれたのは初めてだから、流石に笑いそうになる顔を引き締める。
そうしてしばらく頭を撫でられながらティメオの顔を見つめていると、ようやく口を開いた。
「……今度王宮で茶会があるのだが、クレアに招待状が届いている」
「……お茶会?」
嫌な予感がするんですがこれは……
「そこには第一王子であるマティス様も出席なさる為、断ることができない」
これが強制出会いイベントのちから。
そうといえばそうだが何かが間違っている解釈をしつつ、会いたくもない野郎に会わなければならないという事に俺が嫌そうにしてれば、何に対してかはわからないが、とにかくどことなく嫌そうにしているのがわかったのだろう。
ティメオがフォローするかのように言葉を続けた。
「茶会は一週間後にあるのだが……、最悪マティス様と顔合わせをするだけでもいい」
そんなこと言ってるけど、お茶会で王子様と顔合わせとかどう考えても集団お見合いじゃないですかやだー。
確か第一王子のマティスはクリストフと同い年で6歳のはずで。……こんな時期からこんな話が出てくるなんて王族は大変だなと、素直に思う。
しかしそんな事と今回のことは別話だ。俺にとって唯一の救いは、顔合わせさえすればすぐに帰れるという事。
誰がいけすかない野郎と喜んでお見合いぱーちーしなきゃいけないんだ。
とりあえず、了解という意思を伝える為一つ頷いておきながら俺は考えを巡らす。
こうなったら一層の事開き直ってやろうと。
せっかく招待状をもらったのだ。お茶会らしく王宮の美味しいお菓子とやらをいただきつつ、他の参加者であるお嬢様を鑑賞してやろうではないか。