3.
ここで俺の間違いがある。なんとあの目が覚めたパニックの中、赤ん坊、赤ん坊と連呼していたのだがあの時既に俺は2歳だったのだ。
身体が動きにくかったのは、目が覚めていた時に熱が出ていたことから既にその時体調が悪かったのだと思われる。そこから導き出すに、声は喉をやられていたからのようだ。
なにせ熱が下がった後は意味のある言葉を発することもできたし、ピンピンしていたからな。
で、そのままふっつうに過ごしていたんだが、冷静に考えてみればあれ? 赤ん坊にしては身体でかいよな? てか俺歩けるよね? となった訳だ。
どちらにせよ、2歳児と赤ん坊なんて似たようなもんだと俺は思ってるから問題なかったけど。
ちなみにクリストフと俺は2歳違い。
* *
「クレア、今日は天気がいいから庭に行こう」
頷き、伸びてきたクリストフの手を握れば、ゆっくりと幼女である俺のペースに合わせてクリストフは歩き出す。
普通このくらいの年齢ならば自分のペースで歩き出していそうなものなのだが、流石攻略対象に選ばれたというべきか、齢5歳にしてーー実は俺が目覚めてから既に1年が経過しているーーフェミニスト精神がしっかり染み付いてきているようだ。
「おいで」
庭に出る時の俺の定位置は丁度よく木陰ができる木下。そこに座ったクリストフに後ろから抱きかかえられるように座るのが定番となっている。
………。
こういうのもなんだが、あれから1年でここまで心を開くとかお兄様ちょっとちょろすぎない?
思わずそう思ってしまう。
何をやってこうなったかといえば、あの目覚めて歩けるようになった次の日からカルガモの親子よろしく、ひたすら俺がクリストフの後ろをついて回ったのだ。
……一度頭の中に思い浮かべてみてほしい。可愛らしい幼女妹が小さな歩幅ながら一生懸命追いかけてくる姿を。もちろん俺がいうのもなんだが登場人物なだけあって将来有望な幼女である。
というか俺がされて嬉しいことをやっているのだから当たり前の反応なのだろうが。
そんな事をつらつらと考えていれば、さらりとクリストフが子供らしく細い俺の髪を手櫛でといていくのが気持ちがいい。
身体が幼女だからか、頭を撫でられたりといったことをされると素直に嬉しく思うようになった。というか、純粋にクリストフは頭を撫でたりするといった行為が上手い。
俺直々にテクニシャンの称号を与えてやろう。
もっとよきにはからえとばかりに、そのまま力を抜きクリストフに身体を預ければ、眠たくなった? と聞かれたのでとりあえず眠くはなっていないが頷いておく。
この眠った後に俺の日々の楽しみが始まるのだ。
ちなみに余談だが、俺が幼女になるにあたって、自分の理想の幼女といったように振舞っている。てかいきなり可愛らしい幼女が立ち上がるときに「よっこらしょ」とかおっさんくさい動作や言動をしてみろ、百年の恋も冷めること間違いなしだ。
俺だってそんなもの見たくない。
かといって俺がすぐに理想の幼女となれるはずがなく、今は言葉遣いに慣れていない為に頭の中で変換してから返事をするか頷きとかで返事をしているせいか、無口な奴と思われている。ま、笑顔はちゃんと振りまいているので愛想がない奴と思われてはいないし、下手にヘマを出すよりかいいから放置決定だな。
「……もう眠っちゃったのかな」
これに対して俺は無反応。そうすればクリストフは最後にもう一度俺の頭をひと撫でしてから、横に置いてあった魔法に関する本ーー来るときに俺と手を繋いでいた反対の手で抱えていたーーに手を伸ばした。
キタキタキタ待ってましたよファンタジー!
……ここで少し魔法について説明しようと思う。属性が5つあることは言わずもがな、その自分がどの属性に適しているのかを調べる儀式とやらは5歳になってようやくできるのだ。……つまりクリストフはもう魔法の勉強を始めているってことで。
こうやってちょろいクリストフは妹である俺が可愛くてしかたがないらしく、庭に出たりとか部屋で遊んだりとか常にといっていいほど一緒だ。
そういう時に俺が疲れて眠ってしまったフリをすれば、俺と同じく常に持ち歩いてる魔法の本を出して勉強を始めるのだ。真面目だなぁ、と思いつつ妹優先だけど勉強も怠らないとかどんな超人だよ! とも思っている。
だがしかし! そのおかげで俺は寝たフリをして魔法の本を盗み見ることができるのだ。
やっぱりこういうファンタジーには心動かされるよね。なんたっておっさん、少年心忘れないタイプだったから。
ちなみに文字に関してはチートはなかったから死ぬ気で勉強した。だって俺魔法使えるようになりたかったんだもん。……もんっておっさん使うとやっぱきもいわ。まぁ、それは置いておいて。
どことな~く途中で起きて、興味深めに「にいさま、これなんてよむの?」と聞きまくったらーーまだ舌ったらずなので『にいさま』呼びーーやっぱり可愛がってる妹に教えたりするのって楽しいのか嬉々として教えてくれたおかげで、幼女俺はやる事なくて暇だったこともあり、すぐに文字を習得することができた。
ありがたや、クリストフ。
なので俺の日常はクリストフと遊んでから、クリストフの魔法の本を盗み見る事で構成されていた。