20.
アルファポリスに投稿していた分をこちらに持ってきました。また続きを書けたらなと考えています
大丈夫? なんて緊張でガッチガチになる中隣にいるマティスから声がかけられるが、正直だいじょばないです。
「は、はい……」
なんとも情けない声を返しながらちらりと出て行く予定であるカーテンの隙間を覗けば、……見えてしまったのはたくさんの人。
いくらなんでも、この人数をじゃがいもの群れだと誤魔化すのは難しい。
「このくらいの規模のものに参加するのが初めてだっけ? でもまぁ、言ってもただの婚約発表だからそんなに緊張しなくていいよ」
励ます様に、ーー実際励ましてるのだろうーーマティスが言ったが「そんなわけないだろ!」っていうのが俺の心の叫びだった。
ただのって言ってしまえるその図太い神経が心底羨ましい。俺はもうストレスやらなんやらで胃がキリキリしている気がする。
ちなみに俺がする事といえば、まだ幼い事もあって簡単なものだ。……実際それが簡単とは言えないが。
王様が俺達の婚約話をした後にマティスと共に出てお辞儀をする。そもそもこんな大勢の前に出たくない事を考えると、台詞が一言もないのが唯一の救いと言ってもいいだろう。
そしてその流れのままホールに出て挨拶回り。
これに関してもマティスが話すのに合わせて良い感じに会釈というか、一つ挨拶するだけでいいからほんと助かっている。
「……そろそろ出番だね」
エスコートするべく、マティスが手を差し出してきた。さらっとこういう事ができるあたり、さすが攻略対象。なんて感心している間に「行こうか」とマティスが小さく呟いた。
* *
ーー今すぐお家に帰りたい。
もっと具体的にいうなら、暖かい羽毛布団に抱きしめられて眠りについてしまいたい。
無事につつがなく王様からの紹介が終わり、挨拶回りに出ているのだがそろそろ表情筋が死にそうだ。案外笑顔を保っているのは難しく、心なしか頬のあたりの筋肉がぴくぴく、……いや、びくびくしかけてる気もしなくもない。
話すことが少ないと表情筋を休ませる時間がないという事実について、はっきり言って盲点だったのが現状だ。
話す相手が変わる短い間に疲れを少しでも癒すべくほっと一息ついていれば、急にゾッっと何か嫌なものを感じた。
「お初にお目にかかります。私、ーー」
人好きされる様な笑みを浮かべてイーサン・ホワイトと名乗った新たなる人物に目を向けてみれば、一見特にいままで挨拶していた人達と変わらず無害そうなのだが、……何かが違う。
どこかねっとりしているというか、若干の敵意が混じった、……まるで重箱の隅をつつく様な粗探しをされているような気分になる。
先程までとは違いどこか庇うように俺の一歩前にマティスが立った事から、もしかすると要注意人物かもしれない。
とにかくこういった笑顔の裏での腹の探り合いはいまだ分からず苦手だから、ほんと勘弁してほしい。
「ああ、そう言えば、……クレアノーラ様」
いきなりこっちに話題を投げかけるのはやめてほしい。
なんでしょう? と小首を傾げてみれば、イーサンが後ろにいる誰かを手招きした。
「こちら、娘のアリシアです」
そう、この他には見ない特徴的なピンク頭に俺は記憶があった。
「アリシア・イーサンともうします」
にっこりと笑顔で礼をされたが、俺は目を見開くばかり。どうにか返すように自己紹介できた事を褒めてほしいくらいだ。
ふわっとしたどこか癖がある俺とは違い、どこかグラデーションが掛かった綺麗なストレートの桃色の髪。
その髪色にも負けず華やかな黄金色
どちらかというと綺麗系ではなく、可愛らしく整ったその顔は明らかにーー俺が転生してしまったこの世界の元となった、乙女ゲームのヒロインを幼くした姿そのものだった。
「年がクレアノーラ様と同じですので、よければ、……と思いまして」
「よろしくおねがいします」
そういって差し出された手を恐る恐る握ってみれば、可愛い顔とは打って変わって見た目ではわからないよう、ーーマティスが目を離した隙を狙って絶妙な力加減で力を込められた。
声を上げるような事は防げたが、握り締められた手から再度目線をアリシアに戻してみれば、口元は綺麗に弧を描いて笑っているのに、目は笑っていない。
思わず笑顔が引きつるが、相手はさもどうかしたかと言わんばかりに小首を傾げる。
目に見えた敵意に心の中でこれあかんやつや……なんて遠い目をしつつ、思わず謎に関西弁でツッコミを入れてしまった。というか、こうでもしないとやってられない。
ーー出会いは最悪。しかもどうやら敵意MAXなヒロインも、俺と同じく転生者らしい。