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17.(マティスside)

「そういえば今日、噂の妹君がきているらしいね」


 溺愛しているって聞くし、きっと可愛いのだろうね。丸い机に肘をついて顔を支え、だらけきった姿で横目にそう言葉を付け足せば、クリスの顔がわかりやすく嫌そうに歪む。

 まぁ、気を許しあった僕ら以外誰もいないところだけで見せる表情だから気にする事などないのだけど、一応それ不敬だから。なんて文句を言ってやりたくなるような表情から、


「……それで?」


 あなたに一体どんな関係が? なんて副声音がありありと聞こえてくる。


「そりゃあ、未来のお嫁さまらしいし、……気になってもいいと僕は思うんだけど」

「王家に嫁ぐなんて決まっていないし、そもそも婚約者候補に名前が挙がっているだけでは?」

「それでも、第1候補であることには変わりないよね?」


 すぐさま返ってきた反論にそう返せばチッという舌打ちが返ってきたのだが、年々クリスは自身の父親に似ていっているという自覚はあるのだろうか? 親子揃って恐ろしいものだ。


「私を挟んでのそのやりとり、ほんとやめてほしいんですけど……」


 おずおずと手を挙げて存在を主張しながら、しかしうんざりとした顔を隠しもせず言ったのは宰相の息子であるレヴィ。


「あぁ、そういえばいたのか」

「クリス弄りがやめられないのだからしかたない」

「……どうやったらこの位置にいる私を忘れられるんですかねぇ?」


 クリスから僕へと続いた言葉を聞いて、ほんっと不思議ですね。なんて今度はげんなりとしたレヴィが言う。

 そんなレヴィがいる位置は、僕とクリスが並んだ三角形の頂点にあたる位置と言えばわかりやすいだろうか? つまるところ目の前なのである。


「毎度のことながら、2人のその冗談は冗談かわからないから恐ろしいんですよ。あなた達下手にお互い力があることわかってます?」


 僕は言わずもがな王家の第一王子。クリスは王家同党の力を持つと言われる魔法一家のクリュッグ家次期当主。

 『ヘビカエル』と言うよりか、『蛇と蛇』と言ったところか。お互いがお互いを喰らいつこうとせんばかりの関係で、下手にシャレにならないことを言ってしまえば大変なことになる事間違いなし。


 そんな2人の戯れで起こされるーーもちろん、時と場合は考えているーーちょっとした悪戯あくぎに付き合わされるレヴィが苦労人である事には変わりない。


「でも僕はマティスの婚約者候補に可愛いクレアの名前が挙がっている事がどうしても許せない」

「そこまで言うのは流石にひどいと思うのだけど?」

 

 本心から嫌そうと言わんばかりの言葉にそう返せば、


「まぁ、マティスの事だからそう言われてしまうのも仕方ありませんね」


 なんて追撃がきてしまった。


「……レヴィ。レヴィは一体誰の味方だっけ?」

「……さぁ?」


 日頃の行いを振り返ってみなさい。という言葉を付け足されてしまえば反論できないあたり、自業自得といったところか。

 ……弄って遊んでいたつもりが追い詰められてしまった。


「でも妹君が第1候補に上がるのもしかたないでしょうね。亡き母親に似て美しく聡明だと聞きますし、何より魔力量と適正属性は王家にとって喉から手が出るほどのものではないのですか?」


 クリスの溺愛具合から予測する限り、美しく聡明である事は間違いないだろう。といってもまぁ、予測せずとも1度目にした事があるのだが。確かに可愛らしい容姿をしている。

 魔力量はクリュッグ家に生まれたとだけあって期待できるのと、一番重要なのは現当主でさえ予測できなかった全属性への適性。


 魔法に関してたまに勘違いをしている輩がいるのだが、別に属性に適性がなくとも使おうと思えば魔法を使う事はできる。

 ただ、適性属性に比べて魔力消費量が莫大になる上に、人生の半分を適性のない属性魔法それに費やしたとしても適性のあるものには到底かなわないため、そもそも使えないとされている。

 どれほど使えないかと火属性で例に出すとせいぜい火種が松明にかわる程度で、その変化に対する時間の代償があまりにも大きすぎる事がわかる。


 まぁ、だからこそ常日頃から研究者の間でなぜ魔法の行使は難しいが一応誰にでもできるというのに、適性と言う名の才能が必要になるのかという議論が交わされ続けている。


 そんな中全属性に適性がある妹君の価値は破格のものとなっていた。なにせ王族の僕ですら4属性への適性しかないのだから。


「否定はしないよ。肯定もしないけど」


 そう僕が返せば既にこの話題に対しての興味をなくしたのかへぇ、といった空返事と共に、レヴィの視線がいつの間にやら窓の外を眺めているクリスの方へいく。


「何か見えるんですか?」


 普段無駄な事を嫌うクリスにしては珍しく窓の外を見続けている事にレヴィも気になったのだろう。

 そう聞けば、ふふ、と僕らが見ても薄気味悪いだけだが、しかし世のお嬢様方が見ればうっとりとするだろう笑みを浮かべた。


「……下の庭にクレアがいる」


 僕も庭を見てみれば、顔までは見えないが白くふわふわとした髪の少女が赤髪の少年の手を引いていた。

 なるほど微笑ましい光景だ。これなら笑みを浮かべるのもわかるが、横にいる滅多に人前で見せる事のない笑みを浮かべるクリスによって全てが台無しになっているような気もするが。







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