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11.

 場所は屋敷の中庭。

 いつもの木下に座っていて、隣にはテディがいる。


 そこで俺が何をやっているのかというと、かなり前に試そうと言ってから出てきていなかった魔法を使っていた。

 実はあの後結構早めに試していて、今ではもう無茶な魔法を使ってみようとしない限り大体の魔法を使える様になっていた。


 今までの間に一体何があったんだ? と聞かれれば難しい事でもなんでもなく、案外魔法ってイメージだけでなんとかなるもんだったのだ。


 何言ってんだコイツ。って思われてしまうのを避けるために補足説明をすると、ティメオが説明した関数的な方法はプログラマーが精密に一から組み立てていくのを想像してもらいたい。


 そして俺の場合はイラストレーターとでも言えばいいだろうか? 絵を頭の中に思い描くように魔法をイメージすれば魔法が使えるのだ。

 コップの中に水が入っているのを浮かべてほしい。……できた? それができたらもう魔法が使えちゃうんだよなぁ……。


 どういった仕組みなのかともっと簡単に言うと、プログラマーが関数を使って文字として組んでいくものを、イラストレーターは絵として組んでいくのだ。

 先程の例をプログラマーは、【水、位置コップの中、量】。

 イラストレーターは【コップの中に水が入っている図】と、プログラマーと違って絵のイメージによって全部一括で関数の部分を補うことができる。


 でもやっぱり楽な話にはデメリットがある。

 イメージ頼りなだけあって、関数方法とは違い精密な魔法を行使することはできない。

 それにどこかあらが出てしまうし、その分余計な魔力を使ってしまうから急いでいる時向けかな? と言った具合になる。


 まぁ、そこを俺は今前世で補った想像力でなんとかしようと練習中という訳だ。

 


 失敗してしまっても安全な様に、いつも大体使うのは水属性の魔法。

 今回は水でできたクラゲを、ぷかぷかと目の前に浮かばせている。


 あと説明し忘れていたのだが、こういった物を浮かせたり綺麗にしたりする生活魔法や転移魔法などは、魔力を持っていれば誰でも使うことのできる無属性として分類されている。


 浮かんでいる水クラゲをつんつんと指でつついてみれば、ぷるぷるとしたゼリーのような感触がしてなかなか楽しい。

 ひんやりとしているから夏場のお供として良さそうだ。


 そうしてある程度感触を楽しんでから、浮遊魔法を解除する。

 するともちろん、重力に従ってばしゃんっとクラゲの形が崩れて水が芝生の上に落ちるのだが、あっという間にパキパキと芝生を巻き込みつつ凍り始め、やがて薔薇の形をかたどった。

 何をしたのかというと、生み出した水を氷に変換したのだ。


 ちなみに薔薇にしたのにあまり意味はなくて、花を思い浮かべて一番初めに思いついたのが薔薇だったっていうだけだ。

 あとなんだかんだ言って一番ポピュラーで、細部まで想像しやすいと思う。


 パキンっと近くにあった枝を手折たおって眺めてみる。

 なかなか良い感じにできているんじゃないだろうか? 氷で出来た薔薇が、太陽の光を受けてきらきらと輝いている。


 ……なんだか美味しそうに見えてきた。


 前世でこんな感じの飴細工を見たことがある様な…。

 じ~っと見つめているうちに、なんだかいけそうな気がしてきた。


 思い切って花びらを一枚食べてみたけど、……うん、やっぱりただの氷だった。

 ……夏場になったら、ダリィに頼んでかき氷を作ってもらおうかな? 氷は俺が担当すればいいから問題ないし、この世界にはシロップがないから代わりにジャムとか載せてみるのも良さそうだ。


 そんな事を考えていると、パキッっとした音が聞こえた。氷は俺の周りにしかないから、庭の木の枝の音だろう。

 とにかくこの場に俺以外の誰かがやって来た様だ。


 慌てて俺は氷を壊して魔法を解除していく。

 5歳になって魔法を使える様になったが、まだ俺がこういった応用魔法を使える事をバレてしまう訳にはいかないのだ。


「……?」


 音の主はどこにいるのだろうと後ろを振り向けば、1人の少年がいた。

 年は同じくらいだろうか? 赤い髪は触り心地が良さそうに見える。


 どこかで見たことあるんだよなぁ、いったいどこだっけ? そんな風に首を傾げていれば、少年が口を開いた。


「はっ、はじめまして! アルチュール・シャンドンです」


 あっ、と声が漏れそうになったのを慌てて手で口を塞いだ。

 時期がいつかは知らなかったが、クレアノーラには護衛兼従者の攻略対象がいたのだ。それが今目の前にいる、アルチュール・シャンドン。


 ……どうしよう、完全に存在を忘れてた。


 まぁ、原作のクレアノーラの様にいじめなければ大丈夫だろうが……こんなに早く紹介されるなんて考えてもいなかったから、まだ対策を何にも立てていなかった。

 やらかしちゃったっぽい。というか、冷静に考えてみれば護衛の話なんて聞いてない。


 もしかしてティメオが裏で話を進めていたのだろうか? 


「はじめまして?」


 とりあえず放置はまずいと返事をしてみたけど、一体何故ここにアルチュールがいるのかわからないから無難なものにしておく。すると、


「きょ、今日からクレアノーラ様の護衛となりました。よ、よろしくおねがいしますっ!」


 ガバッとお辞儀をしながらアルチュールが言った。……どうやら護衛の件で当たりらしい。


「よろしく、お願いします?」


 そう答えたのはいいものの、またもやどうすればいいのかわからず固まっていると、ティメオがアルチュールの後ろからやってきた。


「お父様!」


 抗議と救援を求めて呼びかければ、


「遅れてすまない」


 なんて返事が返ってきた。

 この現状を打破することのできるのが、元凶である人物とはなんたる皮肉。


「ああ、挨拶はもうすませたのか」


 ゆっくりと歩み寄りながらティメオがそう言った。……つまりこの出会いは、初めから仕組まれていたものだったのだ。

 もう少し早めに教えてほしかったと思うのは、俺だけだろうか? 絶対そうじゃないと思う。


「……クレアにはまだ話していなかったな。混乱させてしまったようですまない」


 その後に続いたのは、今日からアルチュールが護衛兼従者として俺につくことが決まったとの事。

 本人から聞いて知っていたけど、どうやら決定事項らしい。


 ……もしかして運命的なアレだろうか? 思わず俺はため息がつきたくなった。

 そもそもの出会いを回避しようにも、裏でこうも話を進められていると打つ手がない。


 ……存在を忘れていた俺も俺だけど。


 そんな事なければ、もしかしたらどうにかできていたかもしれない。でもまぁ、過ぎてしまった事をぐだぐだとするのはあまり良くない。


 要は健全な主従関係を築けばいいのだ。


 でも何故だろう? 普通にしていれば簡単な事だろうに、何故か俺には前途多難に思えた。


 







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