俺の地下迷宮探索ツアー。その3
眼前に雄大にそびえる「壁」がハッキリと見えてきた。
左手にそびえる壁と正面の壁の丁度角にあたる場所に、天空までそびえる筒状の構造物が確認できる。
更に近付くとその構造物の大きさに一同目を見張る。
直径150メートルほどの筒状の構造物は、どうやら巨大なエレベーターのようであった。
これで上層や下層に物資を運搬するのであろう。
それを目の当たりにした一同が思った事をハクが口走る。
「こんなにデカいエレベーターがあるなら、なんで軍のやつらはこれ利用して制圧してこないんだ?」
確かに不思議ではあった。
2層目の沖縄までを制圧した軍部が、3層目の森林エリアはともかくこの耕作地エリアまで進出していないのは、あるいみ不自然な気がした。
ジープの後部座席でジュースを飲んでいたボタンが、何か思い出したように「おぺれーしょんるーむ」に潜り込んでいった。
高性能端末に接続されている大型モニターの3つの小窓には、先ほど飛ばしたドローンからの映像が映し出されている。その映像ウインドウを隅に移して何かを調べ始めた。
「あ…そういう事か…」
キーボードを激しくたたいていた手を止め、ある画面を見つめながらボタンはつぶやく。
そして、無線でみんなに呼びかけ1号のリビングに集めさせた。
自分はジープの「おぺれーしょんるーむ」からは移動せず、1号のテレビ画面にモニター画面を転送させていた。
「私はこの耕作地エリアについての政府の情報ファイルを見ていたのだけど、この「輸送について」の項目を必要ないと思ってとばしていたの。だって字が多くて読むの面倒だったんだもん…」
ボタンが無線で引き続き語り始める。
一同画面に注目しながらその話に耳を傾ける。
「そして気になって今確認してみたのよ。そしたら森林エリアも耕作地エリアも魚介類養殖エリアも全て、一般居住区エリアの政府管轄になっていたのよ。」
「でも、神戸を始め兵庫の国の情報ファイルにも一切出てこない内容なの。で、いろいろ調べていった結果、私たちがいた近畿エリアは一般居住区エリア全5層のうちの4層目なんだけど、2層目にある関東エリアの「中央政府」ていうところで最終的に管理されていたようなのね。」
「でも、そちらのアクセスコードないからハッキングしてみたら、結構似たり寄ったりのセキュリティとプロテクトだったので何とか成功したの。」
「そしたら、有事の際に備えて基本的に軍事力を持たない一般居住区エリアの中央政府がこれらのエリアを管理していて、軍や宇宙防衛軍に対する食糧関係の搬出を止める権限を持たされているみたいなの。」
「宇宙防衛軍にはリニアのトンネルを、軍にはこのエレベーターの筒状のトンネルを、それぞれ多数の分厚い防護壁で閉ざすことが可能になっているらしいの。更に強引にそこを突破しようとした際には、自動防衛システムが作動して、政府がスイッチを入れなくても自動的に防護壁が降りる仕組みになっているようよ。」
なるほどとみんなは頷いていたが、俺は何か違和感を覚えていた。
「でも、ちょっと待てよ…なんだか違和感がないか?その…なんていうか…」
そう、俺は説明が下手なのである。
そうしているうちにアユハルも何か気づいたようである。
「ああ、フユ。もしかしたら…ボタンの説明ではこのエリアが制圧されなかった理由は納得できるけど、一般居住区の側壁裏での戦闘についてまでは説明が付いていない…ってことかな?」
―そう、それだよぉー。
ああ確かに…と、一同また頭を抱えだした。
「フユにゃん、フユにゃん。中央政府の人たちがスイッチを押してないから軍に食べ物が今も行き渡ってるんでしょう?」
「そうだよ。だから何でかなーって、みんな悩んでるんじゃないか…」
「えー!簡単だよー。中央政府のエライ人と軍のエライ人が多分なかよしなんだよー。」
天使のような笑顔でまたアホなことを…
「って、それだ!!!」
一同素晴らしいハーモニーをみせた。
「あっ!?」
無線のインカムからボタンの短い叫びが聞こえた。
「どうした?ボタン。」
「いえ、ドローンの映像が一つ消えたのよ。あっ!こっちも!…」
俺は突然嫌な胸騒ぎに襲われた。
―なんだ!?
―なんかヤバい感じがする…
刹那、周囲から激しい殺意が湧いてきた。
俺はそのピリッとした感覚を感じ咄嗟に1号の外に飛び出し、巨大なドーム型のシールドを張った。
ガンッ!
チュン!
カカンッ!
シールドにあらゆる方角から何かがぶつかる音がした。
背の高いトウモロコシ畑の中から迷彩服にプロテクトスーツを着込んだ集団が現れ、俺たちは完全に包囲されていた。
すると後方からも無数の機動戦闘車を始め、戦闘車両の群れが出現したのであった。
「中央政府自警団東京支部!?」
続いて1号から降りてきたハクが、素っ頓狂な声をあげ敵を睨み構える。
戦闘車両の側面や戦闘員の持つライオットシールドには、確かにそう書かれていた。
「君たちは完全に包囲されている!無駄な抵抗をやめおとなしく投降したまえ!」
後方の機動戦闘車の上部ハッチから上半身を出したこの部隊の隊長と思しき人物が拡声器で言った。
「あなた方は東京の自警団の方々ですね?我々に何の容疑がかかっているというのですか?」
アユハルは一歩進みでて訊いてみた。
「それを君たちに説明する義務はない!投降する意思がないのなら仕方がない!その場合は殺傷しても構わないとの許可を得ている!」
「くっ!」と俺たちが冷や汗交じりに構えていると…
「ちょっとー。さっきからごちゃごちゃうるさいわよー!!」
不機嫌そうにボタンがジープの上部ハッチから顔を覗かせ怒鳴った。
―やべえ!とてつもなくやべえ!!
―ボタンが完全にキレてるかもしんない!!
「お前ら逃げろーー!!」
と、俺が相手に叫ぶのと同時に、俺の張ったシールド周囲に眩い閃光が立ち込め幾条もの光の矢が放射状に敵集団めがけてほとばしり出した。
次の瞬間、近くにいた自警団の隊員は吹き飛び戦闘車両は激しく転がり始めた。
「う、撃ち方始めー!!」
どうやら、戦いの火ぶたは切って落とされたようであった。