俺の内閣府表敬訪問。
俺たちは連日壁での出来事について話し合った。
結局、壁の内側での戦闘に参加してもたいした進展にはつながらないだろう。とのアユハルの意見に同調する形でこの話には決着がついた。
次にボタンが調べていたこの船の中に無数に存在するであろう連絡路についてだが、どうやら壁の中で見たようなリニアの線路や通路的なものが無数に存在しているらしいとのことであった。
以前、ボタンと話していた通り国の上層部と向こう側との繋がりもあったであろうから、その連絡通路も縦横無尽に存在するはずである。しかも、自警団が戦っている以上、この内閣府がその事実を知らないわけはない。
そう思い至って、陰に隠れる様な探偵ごっこを終わりにして、内閣府に直接訪問した方が良いとの意見でまとまった。
「それなら、うちのお父さんにクチきいてもらえれば総理に合えるかもしれないわね。」
人差し指を顎にあてがいながらトウカは言った。
このお嬢様は、もはやチートの域にいるな…と誰もが思ったであろう。
とはいえ、今はどんな方法を使ってでもこの状況からの進展を望んでいる。
後日、六甲山の山頂牧場の傍らにあるログハウス風の秘密基地に拠点を移した。
その後、トウカのお父さんからの紹介と言う形で内閣府へのアポを取り付けた俺たちは、慣れないスーツ姿に身を固め、トウカの用意したリムジンに乗って内閣府の庁舎へと向かった。
内閣府の庁舎は神戸市の中心部、三ノ宮駅から南に延びているフラワーロードに面した場所に合って、神戸市役所の向かいに位置していた。神戸市役所とは、地下と広い渡り廊下で繋がる形となっていた。
地上40階、地下5階の立派な庁舎の裏手に来賓用の駐車場があった。
その入り口で、警備員にアポのある旨を伝えたが、いぶかしそうにこちらを見つめて信用してくれない。
仕方がないので、アポをとってある人に送られる首から下げる形のネームプレートを見せた。ネームプレートにはICチップが埋め込まれており、警備員はそれを確認の上でようやく通してくれた。
―まあ、見た目がまだ子供だからね…簡単に信用する方がおかしいのかもしれない。
控室に通されて30分が経過した。
「にゃー!遅いー!タマキお腹すいてきちゃったー!!」
タマキが今にも暴れだしそうだ。
「ふむ、確かにおかしいね。アカシさん、君のお父さんはどういった具合に我々を紹介したのだろう?」
アユハルは、トウカに尋ねた。
「えーっと、確か「うちの娘とその友達が総理と直接お話がしたいそうなのでちょっと時間の都合付けてくれませんかね?」って電話で言っていたような…」
トウカの答えに、アユハルとタケゾウは天を仰ぎつつ顔に手を押し当てていた。
すると突然ボタンがスクッと立ち上がり、ツカツカとフロントの方に歩いて行った。
一同ポカーンとその後ろ姿を見つめていた。
程なくして鼻息を荒げながらボタンが戻ってきた。
「Will Diverが会いに来てあげてるんだからさっさと出迎えに来い!って言ってやったわ。」
その発想は無かったわ!と一同目を丸くしていた。
そうだった。俺たちは今更「Will Diver」って事実を隠ぺいさせておく必要が無いのであった。
程なくして、慌てた様子の中年くらいのスーツ姿の男たち数人が控室に入ってきた。
「大変お待たせいたしまして申し訳ありません!何しろ総理は多忙なもので…どうかご容赦のほどを!」
平に平にと謝ってくるので逆に申し訳ないような気もしたが、そんな時間も惜しいので早速案内してもらうことにした。
案内している道中も男たちは、俺たちの方をチラチラと盗み見するように見ていた。
―信用されてねぇー。
「総理室」と書かれた大きな扉の前に案内され、中に通された。
「失礼します。」と口々に言いながら入室すると、奥の大きな窓の手前に執務用のこれまた大きなデスクがあり、その手前には高価そうな応接セットが鎮座してあった。
執務用のデスクの所に腰かけていた、白髪が程よくダンディさを醸し出している細身で長身の男性がにこやかに近づいてきた。
「やあ、よく来てくれましたね。どうぞお掛けになってください。」
この物腰が柔らかそうな男こそ、兵庫の国の総理である播磨 純一郎であった。
言われるがまま、促されるままに俺たちはソファに腰を掛けた。
すると、まもなく人数分の薫り高い高級そうな紅茶が、もつ手も振るえるぐらいの高級そうなカップに入って出された。
「さて、みなさんはあの「Will Diver」とのことですが、私にどのようなご用件でありましょうか?」
播磨総理は、優しく笑みを見せながらも鋭い眼光を向けてきた。
すると、アユハルがおもむろに眼鏡を外し、それを胸ポケットにしまうと、キリッした眼差しを総理に向け返して、
「総理、単刀直入にいきましょう。18年前から軍との紛争が続いてますよね?そこで一進一退を繰り返して、何とか戦線は維持しておられるようですが…これもいつまでもつか分からない状況です。」
そう語り始めると、タマキは頭から蒸気を発しながら目を回して倒れ込んだ。
「ああ、いつもの事なんでぇ…お気になさらず続けてくださぁい。」
目を回したタマキを支えながらタケゾウが言った。
ゴホンと咳払いをしてアユハルは続けた。
我々「Will Diver」は、元々宇宙防衛軍や総司令本部の人間であり、軍に侵攻をゆるし仕方なくこちらのエリアへ転生をしてきたこと。我々の目的と総理の目的は、同じベクトル上にあること。そして、我々の力を利用すれば現状の打破も可能になるであろうこと。
こういった話をなんだか小難しく語っていた。
「ふむ、我々にとってもメリットしかないお話のようだね。むしろ協力はこちらの方から申し入れさせてもらいます。」
静かにアユハルの話に聞き入っていた総理が笑顔で答えた。先ほどまでの鋭い眼光は今は消え失せていた。
そこで意識をを取り戻したタマキがもじもじと総理の方をチラチラ見ながら提案してきた。
「ここで親交の証しってゆうか、タマキ達の事を確実に信用してもらえるようにって…総理にゃんに何かプレゼントしたいんだけど…」
―タマキは、ダンディ系もドストライクのようだ。
「わかったよ。タマキ、お前に一任するよ。」
ハクの鶴の一声に、タマキは嬉しそうに掌を光らせ何やら創っていた。
「総理にゃん、これどうぞ。」
最高の笑顔を決めたタマキの掌には、なんともかわいらしいネクタイピンが一つ乗っていた。
「おお、これはすばらしい!これを私にくれるのかい?ありがとう。お嬢さん。」
総理は素直にそれを受けとり早速ネクタイに着けていた。
タマキも嬉しそうに見つめる。
―総理にはちょっとかわいらしすぎやせんか?
―でも案外総理も嬉しそうではあるので良しとするか。
後日改めて担当者等を交えて、地下通路網とその先のエリアについて詳しく説明してくれると言うことになった。