俺の壁探索。その3
この空間、というかこの巨大な通路は最低限の照明で薄明るく保たれている。
通路の床面は、一般の道路のように白線が引かれていた。当たり前だが、ここでも左側通行の様である。
数百メートル進んだところでT字路になっているのだが、この通路も広いし先がかすんで見えるくらいに長そうだ。それもそのはず端から端までは、少なくとも700キロはあるだろうから。
その通路の手前側は、先ほどのように白線が引かれ車両が通るようになっている。奥側にはリニアモーターカーの線路が4本分くらい通っていた。線路と線路の間は広めのホームのような形になってる。その上を巨大な高架橋が通っており、そこには多数のクレーンのようなものもついていた。
これは貨物用のリニアの駅になっているのか??
良く見ると、地下に降りていくための道路まである。看板の表示からするとこちらの先にもリニアモーターカーの駅があるようである。多分、東西をつなぐものだろう。
しかし、長らく使われた形跡がないのは、この先で行われている戦闘の為なのだろうか…
「その通路を南の方に移動して。そこから約10キロのところに詰所があるはずよ。」
ハクのインカムカメラの映像を見ていたボタンが、指示を出しつつ腕時計型端末にその情報を送ってきた。
この場合の南とは、船でいうところの進行方向にあたる。
「10キロかー。また飛んでいこうぜ。」
うんざりした様子でハクが言った。
「飛んでいくとさぁ、疲れるじゃない?俺がいいものだしてあげるよぉー。」
そう言うと、タケゾウはリニアの線路上に薄っぺらい箱型の「何か」を創り出した。
「これなら楽だよぉー。」
そう言うとタケゾウは線路上に降りてそれに触れると蓋が空くように天井部分が開いた。
それの中は、車の座席のようになっていた。
促されるままに運転席にタケゾウ、助手席に俺。後部座席にタマキを真ん中にハクとアユハルが座った。
座ると言うよりも半分寝てるような感じではあるが…
ボタンを押すと天井部分が閉まって、車内の壁全てがモニターとなり周りの景色を映し出した。
タケゾウが言うには、これは重力発生装置を利用した反重力で動く乗り物だそうだ。
リニア並みの速度も出せるらしいこの乗り物は、とても静かに走るのである。しかも薄っぺらいので、一段下がって引いてあるレール上なら通路からは視認されにくいのである。
一気に詰所と呼ばれている場所に着いたが、ここにも誰もいなかった。
戦闘をしているであろうエリアは、多分ここから100キロくらい進んだところであろう。
そこまで一気に進むことになって、タケゾウは「ステルスモード」と書かれたボタンを押した。これは車外のモニターカメラを利用して車体本体に周りの景色を写り込ませることによって、周りから見えないようにする装置らしい。
再び動き出し、一気に加速する。50キロ地点を過ぎたあたりから、ちらほらと詰所に人影が出てきて、その先ではその人数が増えていっていた。
80キロ地点に差し掛かったところで、この線路をリニアの車体を使って作られたバリケードで塞いであった。道路側にも強力なバリケードが築かれて頑丈そうなゲートも設置されていた。
そこにはタイヤを履いた戦車、いわゆる「機動戦闘車」が無数に停まっていた。
良く見ると、数人の負傷したのであろう自警団の人たちが運ばれてくる。
そういや、ここから10キロほど戻ったところにも俺たちが侵入したのと同じような横穴通路があって、そこに赤十字マークの大きな旗が立っていたな。多分そこに搬送されていくのであろう。
アユハルが言うには、今は無人兵器同士の戦いが主なので、負傷兵が出るのはまれになっているらしい。
まあ、そうじゃないと18年間もドンパチやってられないわな。
しかも、この限られた通路内での戦闘だしね。
そう言えば、この通路からみて宇宙船の反対側にも同じような通路があるんだよな。
向こう側でも戦闘やっているのだろうか?
「おそらく、この地点が自警団にとっての絶対防衛ラインなのだろうな。本日はここまでにして引き返した方がいいだろうな。」
アユハルの提案に従い引き返すことになった。
この箱型の乗り物が加速しながら進み、ものの10分とかからず元の場所に戻ってきたのであった。
―普通に考えたら500キロ以上のスピード出てたことになるぞ…
到着して、車外に出るとタケゾウは惜しげも無くその箱の乗り物を消してしまった。
そして、俺たちはジープを隠してある場所に戻り、元来た林道をドライブインのパーキング目指して走り出したのであった。
―暗くなる前に撤収しないと不審に思われちゃう。
―ただでさえ変に目立つ感じなのに。
小高い丘の上の別荘まで戻った俺たちは、晩御飯を食べた後、それぞれシャワーを浴びて、これからの打ち合わせと本日の検証は明日に持ち越すことにして寝ることにした。
今日は、ちょっと疲れたからな。
俺たちは、これからこの戦いにどういった形で干渉していけばいいのだろう…
そんな事を考えながら深い眠りの中に落ちて行ったのであった。