俺の凱旋帰宅。その1
雲ひとつ無い澄み切った青空の元、真夏の盛りを過ぎたと言ってもまだまだ残暑厳しいそんな日であった。
俺の体も全快したが、すっかりなまってしまった感が否めない。
俺たちは内閣府に立ち寄り、播磨総理と面会して挨拶と報告を終えた。
でも、それぞれなんとなく自宅に帰り辛く感じて、六甲山の秘密基地に向かうことになった。
今まで育ててくれた肉親や家族に自分の素性をどう伝えるべきか悩んでいたのである。
―コマチ姉さん、ビックリしすぎて卒倒しちゃうかもな…
とりあえずは三人寄れば文殊の知恵って事で、作戦会議である。
家族との話し合いの為には、政府の方もいろいろと協力をしてくれる手はずにはなっている。
「それにしてもよー。どう言って両親に話せばいいんだよー。」
ハクの一言を皮切りに、ため息交じりに会議が始まった。
「タマキのパパとママも泣いちゃうかもー。」
「俺なんて高砂屋の跡取り息子だぜー。泣いちゃうってレベルじゃないっつーの。そういやタマキ。お前んとこさ、何やってるとこなの?」
「ん?うち?うちはねー。小野活心流忍術って道場やってるよー。こう見えても、そこの師範なんだよー。」
ああ…っと一同納得のようだ。
「でもね、でもねー。タマキ一人娘なのに、パパってばタマキに跡継がせないって言うんだよー。なんでだろー?失敗だってちょっとしかしないのにー。」
ああ…っとこれまた一同納得したようであった。
「そういや、アユハルとタケゾウのとこの親父さんは、公務員だったっけ?」
「ああ、そうだね。僕は次男坊だし、家を出るのはそんなに抵抗は無いかな…。総司令本部も公務員の一種だしね。」
「俺も三男坊だしぃ。アユハル同様、公務員になるって言えばぁ…問題ないかもぉ。」
「ふむ。ある意味うらやましい境遇ではあるな。ボタンの実家って、何だっけ?」
「あ、私?うちは食堂…ってか料理屋的なお店やってるよ。」
「ササヤマ ボタンだけに…篠山市でボタン鍋の店だったりしてなー。」
ハクは笑いながら冗談っぽく言った。
「あれ?言った事あったけ??そうよ。篠山が私の実家でボタン鍋のお店よ。結構流行ってるんだから。」
―まんまかよ。
「それより、フユ。お前のとこはどうなんだよ?その…なんだ…コ、コマチさんにどう説明するんだ?な、なんなら僕も一緒に行ってあげてもいいんだぞ。」
コマチ姉さんの事になると、アユハルは本当に分かり易い奴になる。
―でも、そこが一番の問題なんだよな。
「そこなんだよ。お前たちはそれぞれ内勤になるだろうけど…俺は軍人だからな。いつ死ぬか分からん立場だから困っているんだよ。」
「おいおい、俺も軍人だぞー。フユほど偉くは無かったがね。」
「そうだったな、ハク。でも、いずれにしても…いきなり今生の別れというのも…納得できるものじゃないだろうな…」
奥のキッチンから数人のメイドと共に、トウカが大きなお盆をもって現れた。
「みんな、ティタイムにしない?」
高級そうな紅茶に高級そうなお菓子が、これまた高級そうなお皿に山盛りに盛られて運ばれてきた。
「わぁ。わぁー。待ってましたー。」
タマキは、嬉しそうにはしゃいでいる。
「でもさ。でもさー。今生の別れって大袈裟じゃない?向こうのエリアとこっちのエリアを行ったり来たりしたらいいんじゃないのー?別にそれくらい構わないよねー?」
両手にお菓子をたくさん抱え、口の中にもお菓子をたくさん頬張りながらタマキが言った。
それだよぉー!!
―タマキは、何気に確信をついてくるなー。
「そうだよ。何も考えることは無かったんだよ。今までの古い習慣を踏襲する必要なんてないじゃないか!」
アユハルも目からうろこの様であった。
「そうだよな。総司令本部と宇宙防衛軍に働きかけて、このエリアとの直通のリニアを通してもらえれば、片道一時間ちょいで通勤することが出来るじゃないか!」
これなら説得できそうだと、俺も目を輝かせながら言った。
あとはコマチに説明するだけなのだが、この船の事もかなり過去に遡っての歴史から話さないと…到底理解は得られないだろうな。
説明を一番うまくできるのは、アユハルであるのだが…
コマチを前にしたアユハルは、どの誰よりも口下手になってしまうのが難点である。
なので、俺とボタンの二人で行くことに決めた。
その後で、そこにハクを加えて高砂屋に行かなくてはならない。
ハクも内勤にしてやりたいのだが、ナグモ元帥の話では極端なまでに人材不足であるとのことなので…
それもかなわないだろう。
ボタンを含む他のメンバーは、このエリアからの通勤という形で収まりそうなので、それぞれが各々説明するとのことで会議は終了したのであった。
―明日は、久しぶりの我が家だな…
―なんだか、緊張するな…




