俺の神頼みからの奇跡。その1
倒しても倒しても次々湧いてくるように現れる敵兵…
弾いても弾いても止まず飛んでくる無数の砲弾…
何度もくじけそうになりながらも、自身を鼓舞して戦い続けてきた。
奮闘空しく倒れていく俺の兵士たち。
それをあざ笑うように俺たちを見下ろす無数の戦闘ヘリの群れ。
―いい加減、神様にでもすがりたい気分だぜ。
あまりにも下らない発想に失笑しながらも、奇跡を期待する自分もいた。
「お前らまとめて潰れてしまいやがれぇ!」
空に向かって思わず叫んだ。
どこからともなく空気を切り裂き耳をつんざくような轟音が響き渡った。
次の瞬間、目の前の戦闘ヘリが爆発し吹き飛んだ。
更に謎の轟音が数を増し、次々とヘリを落としていったのであった。
これには秋山も面を食らったように狼狽していた。
「何事だ!」
「正体は分かりませんが、東の彼方よりミサイルらしきものが飛来してきております。」
秋山は、目を凝らし空を凝視した。
飛来してくるその物体を見て、秋山はハッとした。
「500式空対空誘導弾…空軍のものか!?」
すると今度は、超低空飛行してきた飛翔体の群れが一旦上昇して、秋山の部隊の頭上に降り注ぎ始めた。
それらは戦車を始め車両や付随する兵士たちを次々吹き飛ばし始めた。
「今度は海軍の対地巡航ミサイルか…」
秋山は歯噛みしながらも部隊を散開させた。
「え?え?えー!?」
まさに狐につままれたかのような俺は素っ頓狂な声を上げるしかなかった。
―な、なに?なに?神様??
今まで猛攻撃を続けていた敵軍が、次々来る謎の攻撃によって壊滅状態に陥っていた。
「フユくーん!生きてるー!?間に合ったかなー!?」
突然、通信用のインカムのスピーカーから聞き覚えのある声が飛び込んできた。
トウカであった。
「え?あ、うん。い、生きてる…??」
何がどうなってるのかさっぱりワカラナイ…
「後はこちらにお任せー。」
スピーカー越しのトウカの声は、あまりにも場違いに明るかった。
敵の戦闘ヘリが全滅し、それを確認したかのように上空を無数の戦闘機が超高速で飛び去っていった。
呆然としながら壊滅した敵の大軍団の方を見やると、おびただしい業火と真っ黒い煙に包まれ、生命力を失ったかのように動きを無くしていた。
その炎を背負うように一人、近づいてくる影があった。
逆光により姿を確認できなくとも、それが秋山であることはハッキリと認識できる。
「和泉。お前にこんな切り札があったとは…残念だが、私の負けのようだな。」
「秋山…もう投降しろ。残りの部隊もじきに投降するだろう。」
秋山は、大きく息を吸ってそして吐いた。
「この戦争には負けたがな…私の今の目的は、和泉。君を倒すことだ。」
辺りの空気が変わった。
ピリピリと伝わる殺気に体中が痛い。
不敵に笑みを浮かべる秋山の背後に飛びかかる一つの影。
「悪い人は逮捕だぞー!」
タマキが忍者のように素早い動きで秋山の背後からローブのようなものを創り出し絡め取ろうとした。
咄嗟に右手を挙げたが、秋山の体はロープに巻かれ固められた。
しかし、その態勢から瞬時に振り返り露出している右手でタマキの顔面を捉えた。
「ぐっ…」
タマキが苦しそうに呻いた。
「ふふ、君はタマキか。非常に優秀ではあるが…所詮私達「God's territory」の足元にも及ばないのだよ。」
秋山の体を拘束していたロープが一瞬にしてはじけ飛んだ。
次の瞬間、タマキの腹部に閃光が走り、タマキの体が物凄いスピードで弾き飛ばされた。
「ぐはっ!」
タマキは口から大量の血を吐きながらも、態勢を整え辛うじて着地をした。
「…フユにゃん…この人ヤバいよ…」
肩で息をしながらタマキが苦しそうに言った。
「タマキ、ありがとう。無理をしないでくれ。俺が何とかしてみせる。」
ハッキリ言って、何の戦略も考えも無かったのだが…
―俺がやらなきゃならない。
俺は右手に意識を集中し、大きな機関砲に造り替えた。
刹那、秋山が両腕を剣のように鋭く変化させ躍り込んできた。
咄嗟に左手に盾のイメージを浮かべ攻撃を防いだ。
秋山の攻撃は凄まじく、盾ごと後方に吹っ飛ばされた。
盾で防いだにも拘らず手がビリビリと痺れていた。
間髪おかずに秋山は打ち込んでくる。
激しい連打に防戦一方で、攻撃を繰り出す隙はない。
「和泉。お前のその右手のモノは飾りなのか?」
凄まじいプレッシャーに言葉さえ返せない。
秋山はひときわ大きく右手を振りかざし、剣を巨大化させた。
「これで終わりにしよう。」
ガキッ!
ズンと重い衝撃波に包まれる。
しかし、俺の左手には衝撃が来ない。
ボタンが、俺と秋山との間に割って入り、あの一撃を受け止めていた。
「私を無視して戦うのは、ちょっと…アレだよね。」
―アレってなんだよ…
ボタンもちょっとバツが悪そうだ。
セリフ位ちゃんと考えとけよ。
赤面しながらボタンは自らの体を発光させ、八つの光の塊を秋山にぶつけた。
秋山は辛うじてダメージを回避しながら後ずさった。
ボタンの体を中心に八つの龍の頭のような触手が揺らめいていた。
「秋山さん、いえ…スサノオ。神話の大好きなあなたにプレゼントよ。私がヤマタノオロチになってあげるわ。私から草薙の剣を奪うことが出来るかしら?」
ほう…と、秋山は眼をまるめ嬉しそうに微笑んでいた。
「嬉しいね。イザナミは神話を知っているのだね。神話通りだと私の勝ちなんだが…一筋縄には勝たせてもらえそうにないね。」
ボタンの表情が険しくなり、八つの龍が秋山に襲い掛かる。
秋山は防ぎ、かわし、切り伏せながら前に出ようとしていたが、ランダムに襲い来る龍の攻撃に打たれ地面に叩き伏せられた。
―おお、ボタン凄過ぎる!
―このまま勝っちゃいそうだなー。
ふと見ると、ボタンは顔中に冷や汗をかき顔面蒼白になり、今にも倒れそうになっていた。
秋山は飛び起きざまにボタンに飛びかかる。
龍の頭も次々切り伏せられ、刃がボタンに迫る。
ズンッと重い衝撃。
アユハルとハクとタケゾウが、必死で防いだ。
その衝撃でボタンの体は、ふらついて後ろに倒れ込んでいった。
俺は咄嗟にボタンの体を支えた。
タマキが力を振り絞り、秋山に速攻を仕掛ける。
スピードでは、タマキに分があるのだが重さが足りないようである。
アユハルらと共に吹き飛ばされてしまった。
「ボタン。無茶すんなよ。俺が何とかするって言ってんだろ…」
「フユ…」
ボタンは、今にも気を失いそうな勢いであった。
が…
「あんたがもたもたしてるからでしょ!セリフばっかカッコよくたって意味が無いんだからね!!」
食いつかんばかりに罵倒し、意識を失ったようだ。
―こえぇ…
ボタンを静かに横に寝かせて、俺は最後のサプリメントを口に放り込んだ。
「秋山。スサノオは、イザナギの怒りを買って追放されるんだったよな…」
「さあ、どうだったかな。」
不敵に笑いながら、右手を草薙の剣の形に造り替えた秋山が立ちはだかっている。
―甘さを捨て去らなければ…




