俺の作戦開始。その4
四方を飛び交う無数の砲弾と轟く爆音。
挟撃作戦のつもりが逆に挟撃されている現実。
俺は立場を忘れ呆然と立ち尽くしていた。
「なにやってんのよおおおおおぉぉぉぉっ!」
真正面から音速のような勢いで飛んでくる何かが叫んでいた。
バッチーーーッン!
頬を平手で叩かれ数メートルほど飛ばされた俺。
「こんなところでボーッとしている暇なんてないのよ!!」
タマキにおぶさったボタンが目に涙を浮かべながら叫んでいた。
俺はハッとしながら辺りを見渡した。
統率も秩序も無く闇雲に逃げ惑う兵士たち、それを容赦なく襲う敵の攻撃。
でも何故か目に映る風景が斜めになっているような…
吹っ飛ばされた勢いで首がおかしくなっていたようだ。
ガキンッ
タマキに後ろから強制的に首を戻され痛みで悲鳴を上げた。
が、その際に背中にあたる2つの大きな肉まんの感触は、まんざらでもなかったのはナイショである。
俺は咄嗟に大きな拡声器を創り出した。
「全軍!慌てるな!西側の道路伝いに横手まで転進する!負傷した者を優先的にトラックや戦闘車両に載せ、動けるものは対戦車砲を持ち敵の追撃を阻むんだ!」
「敵の戦闘ヘリが補給の為に離脱する隙に総員撤退する!戦車隊を殿に私が指揮を取る!態勢を整えたらまた反撃に移れるぞ!四方のエレベーター付近の部隊を動かして、また逆に包囲してやろう!」
不可能に近いと思いつつも味方を鼓舞する。
俺は視線を下げボタンとタマキの方に向き直った。
「ボタン、ありがとう。タマキも助かったよ。」
タマキは、うんうんと頷きながら満足そうであった。
「あー!向こうでアユにゃんとタケにゃんとハクにゃんが必死で敵を防いでくれてるんだったー!早く助けに行かないとー!」
タマキは、ハッとしたように叫んだ。
俺は懐から例のサプリメントを取り出し、口の中に放り込んだ。
そして渾身の力を込めて味方を包み込むようにドーム型の巨大なシールドを張った。
敵の戦闘ヘリが補給に戻り、北から来る敵の増援部隊が合流する瞬間の混乱に乗じて、俺は全軍に後退の命令を出した。
その頃、北上市街には盛岡からの増援軍が到着していた。
増援軍の司令官がそのまま軍を再編成して、追撃態勢を整えだした。
一方、秋山率いる仙台からの本隊は、奥州を経て北上には向かわずに西進して湯沢方面に向かったのであった。
「ふふふ、北上で決着をつけようと思ったが…和泉の奴め存外にしぶといな。よし、あの手でいこう。」
狩りを楽しむかのように秋山は、さらに次の手を指示した。
ボロボロになった敗残兵を引き連れ、俺たちは一路横手に向かっていた。
その中で、八戸と能代の部隊には八幡平にて合流する事と、酒田といわきの部隊には仙台を攻撃して牽制する事を伝えた。
その時、西の空からこちらに向けて無数のロケット砲が飛来してきた。
「まずい!散開せよ!」
とは言っても、山間部の川沿いの一本道である。
WD機関のメンバーで総力を挙げてシールド張ったが、ロケット砲の数が多すぎるので全てを対処しきれないでいた。
あちらこちらでロケット砲が着弾して地面ごとえぐるように破壊していった。
破壊された車両とえぐられた道路にて後続の車両軍は立往生を余儀なくされた。
「しまった!止むを得ない…後続の車両は破棄しろ!けが人の搬送を優先しろ!」
俺は素早く判断を下した。
「フユ。この先に北に抜けれる街道があるようだぞ。」
「そちらに逃れるしかないな。秋山の事だから罠を張っていそうではあるが…」
アユハルの助言に従い北上することを決めた。
少し先に進むと道路が和賀川の手前で北に分岐していた。
この道を北上すると、和賀町を経由して雫石に至るのであった。
そこから東に行くと盛岡に出るのである。
盛岡の北側の八幡平には、味方の部隊が集結しているはずであるので、そこまで行けば態勢が整うはずであった。
俺たちは失った分の車両を補うために、多数のトラックを創り出し進軍速度を速めた。
―先ほどのロケット砲の攻撃で手痛いダメージを負ったが…
―むしろ敵の追撃を鈍らせることにもなったはずだ。
だが、この展開も秋山の思惑通りだろうとも思った。
しかし、先ほどの戦闘で戦闘ヘリをすべて失い、こちらにはもう奥の手が残されていないのであった。
―ここで俺が秋山なら、戦闘ヘリでこの谷あいの道を長蛇の如く進む隊列を完膚なきまでに叩くのだろうな。
俺は、アユハルとタケゾウと相談の上、戦える兵士に携帯型の対空ロケット砲を配った。
もっとも、目視できない位置からの攻撃が来るだろうから、ほとんど意味をなさないであろうが…
それでも両側の山の尾根伝いに100名ずつ砲兵を移動させて、警戒にあたらせていた。
約10分後、谷あいの街道の南北から戦闘ヘリから放たれたと思われるミサイルが飛来した。
それに対しては、隊列の前後の車両に軽くて丈夫な大きなシールドを張っていたので、被害を最小限に抑えることが出来た。
だが、もはやここまでで進むも引くも出来なくなったようである。
両側の山の尾根に配置した兵たちも、狙撃手により次々と倒され、俺たちは丸裸の状態にさせられたのであった。
東側の尾根の向こうから、シールドで覆われた1機の戦闘ヘリが現れた。
「和泉よ、ここまで良く頑張って来たな。罠だと知りつつも進まざるを得なくなった境遇には少々同情するよ。ここで私からささやかなプレゼントとして、君たちがここで投降するのなら、君たちの身の安全は保障することとする。」
「これより1時間の猶予を与えることにする。それまでに精々議論でもして考えてみたまえ。返答が無ければ、その後に総攻撃を開始する。」
そう言い残して、秋山の乗ったヘリは尾根の向こう側に消えていった。
―完敗だ。やはり秋山にはかなわないのか…




