俺の作戦開始。その3
夜中過ぎまで各所に起こっていた激しい閃光や爆音が今は嘘のように静まりかえっていた。
あたりが明るくなるにつれて、朝もやのなか静かに殺気をはらんだ空気がピリピリと肌に刺さる。
固唾を飲む音さえ響き渡りそうなその静寂を破るかのように、南の方角の空におびただしい数の黒い影が爆音と共に近づいて来ていた。
敵味方共々ざわつきだした。
「あれは宇宙防衛軍陸戦隊所属の攻撃ヘリ部隊だ。あれらの攻撃が始まり次第全隊に突入命令を出してくれ。」
俺はにやりと片側の口角をあげた。
朝もやにてうっすらと見えている50機からなる戦闘ヘリのスコードロンはまっすぐこちらに向かってきている。
―それにしても50機でよくぞ敵の防空圏を突破できたな…
―50機という少なさゆえか?
一抹の不安に駆られつつも、俺は次の指示をオペレーターに伝えた。
オペレーターは、暗号文をどこかに向かって打診し始めた。
そして間もなく始まったヘリからのミサイル攻撃によって、敵陣地は阿鼻叫喚の渦の中に陥っていた。
ヘリは相手の対空兵器を警戒しつつ、距離をとって攻撃していた。
地響きと砂埃をおおいに巻き上げ、戦車や歩兵が相手の陣地へとなだれ込む。
敵兵は逃げ場を失い撃たれ、弾かれ、倒れていった。
そして多くの兵が投降してきたのであった。
こうして数時間の戦闘の結果、あっけなく横手の街は陥落した。
続けざまに湯沢の街も降伏を申し出てきた。
「よし!このまま北上・奥州の両市も開放するぞ!」
2時間前青森市郊外―
上空より大量のヘリ部隊が飛来し、大量の武装した部隊やトラックを降ろした。
ヘリの側面には自警団の文字が見える。
宇宙防衛軍の戦闘ヘリの侵入を陽動として、航空用通路から侵入してきたのであった。
「よし、我々はこのまま八戸に向かうぞ。エレベーター前で踏ん張っている味方と呼応して敵を挟撃するぞ。」
おびただしい数の車列が数千の武装した兵を乗せて東に向かって走り出した。
同時刻会津若松市郊外―
こちらも大量のヘリに武装した兵やトラックを満載して降下してきた。
更に一部のヘリはそのままやや西側に進路をとり北上していった。
「我々は、いわきのエレベーターに向かう!」
砂塵を巻き上げ東へと進路をとった。
八戸郊外のエレベーターを包囲していた敵部隊の後方に先ほどの部隊が到着し、迫撃砲やロケット砲にて攻撃を開始した。
それと呼吸を合わせる様に、エレベーターから新たな部隊が投入され、地勢と数の劣勢を挽回したのであった。
挟撃され不意を突かれたのもあって、敵の包囲網は呆気なく破られた。
時同じくして、いわき市郊外のエレベーター前の戦場でも包囲網は破られたのであった。
次々と突破され蹂躙されていく敵陣地。投降兵は万を超えていた。
更に西へ飛び立ったヘリの群れから、パラシュート降下で空挺団が酒田市郊外の敵陣に襲い掛かった。
こちらの包囲網も崩れ、能代郊外の敵陣も相次ぐ訃報に戦意を失い投降したのであった。
俺の部隊も、補給を終えた攻撃ヘリの援護の元、悠然と北上市に向かって東進していた。
次々とどく朗報に完全に慢心していた俺は、気付かないといけないことにすら気付かずにいた。
小一時間前に奥州市を陥落させた部隊と合流し、北上市を東西から挟む形で俺の部隊とボタンたちの部隊が隊列を整えた。
北上の敵の防衛陣の抵抗は苛烈を極め、なかなか中に踏み出すことが出来ないでいた。
ここの防御部隊の士気は異様に高かったのである。
ここの防衛ラインを突破出来れば、本拠地の仙台まで一直線である。
その事で気が急いていたのかもしれない…
突如、北上市を取り囲む四方の山々から数百機の攻撃ヘリが飛び立ち姿を現した。
激しい砲撃の爆音にて、ローターの音に全く気が付かなかった…
攻撃ヘリは、機関砲や対戦車ミサイルによる正確な攻撃を開始した。
更に山々の中腹部辺りからおびただしい数の迫撃砲の砲弾が降り注がれた。
連戦連勝で浮かれていた俺たちの部隊は、大混乱を起こしてなす術がない。
俺たち「WD機関」も力を振り絞ってシールドを張り光の矢で応戦したが、物の数ではなかった。
とは言え、3個師団以上の大軍団である。
そう簡単には壊滅はしないのだが、混乱が激しすぎる…
「それぞれ一旦部隊を後退させる!多少の犠牲はやむを得ない!速やかに各所に連絡を…」
「閣下!大変です!北方より大軍団が迫っていると報告が入りました!」
「閣下!南からも大軍団が迫っているようであります!」
俺の指示を打ち消すように次々と凶報が舞い込んでくる。
どうやら、能代方面と八戸方面の後方に控えていた予備戦力が盛岡に再集結していた部隊と合流し、南下したようである。
同じく、酒田方面といわき方面の予備戦力も仙台にて、秋山の本隊と合流して北上し、我々を逆に包囲しようとしていたのである。
―戦闘ヘリといい山の中腹にあらかじめ配置されていた迫撃砲といい…
―俺は最初から秋山の掌の上で踊らされていただけだったのか!?
俺は背中にそら寒さを感じつつ、力なく砲弾乱れ飛ぶ空を仰ぎ見た。




