俺の作戦開始。その2
「隊列を整えよ!俺があの攻撃を防いでやる!」
俺は渾身の力を振り絞り広範囲に巨大なシールドを展開させつつ、無数の光の矢で応戦した。
―もっともこんな芸当あと何回も披露できないが…
―ざっと見て、敵の規模は3個師団って所だな。
こちら側も主力を持ってきていたのだが、相手の方が数も火力も勝っていた。
「ほう、そんな芸当ができるとは。和泉、来たな?」
広く横陣を張る敵の中央の奥に奴がいた。
「秋山。どうした?お前はいつもそんな後方からの指揮をする奴だったか?」
敵の総帥を前に安っぽい挑発を行ってみた。
「和泉。そういったセリフは最後まで立っててこそ言えるものだぞ。陸戦のプロフェッショナルで、しかもこの私が鍛えたこの部隊を突破できるかな?」
そう言うと秋山は右手を振り上げ、その先に大きな鈍く光る物体を創り出した。
その物体はみるみる左右に分裂して増殖を始めたのであった。
俺の創りだしたシールドに沿って創り出されたそれらは、秋山が右手を振り下ろすと同時に一斉にシールドに向かってきた。
―まずい!
咄嗟に新たなシールドを重ねる様に張ったが、秋山の創りだした物体に最初のシールドもろとも破壊されていった。あるものはシールドと相殺されていったが、一部はそのまま部隊に襲い掛かってきた。
あちらこちらで爆発が起こり、多数の犠牲を出してしまった。
「左右両翼は、そのまま押し出し敵を殲滅し敵中央を包囲せよ!」
秋山の号令と同時に敵の左右両翼が前進を開始した。
こちらも必死に持ちこたえようと応戦しているのだが、火力の差がいかんともしがたく相手の勢いを殺すに至らなかった。
「閣下!このままでは我が隊の左右両翼が崩されてしまいます!」
「閣下!ここはこの中央の部隊も一旦後方に下げられては!?」
周りの大隊長たちが口々に進言してきたが、俺はそれらを手で制した。
「中央部隊は、このまま錐行の形をとり敵中央に総攻撃を開始する!味方の両翼への支援及び後退は考慮することは無い!」
一瞬あっけにとられたように周りの側近たちが固まった。
「戦車砲の一斉射撃の後に前進を開始せよ!迅速に各隊に伝えよ!」
ハッと我に返った各部隊がせわしなく動き始めた。
戦車砲の一斉射撃の後前進を始めた中央部隊は、敵中央に断続的な砲撃を加えつつ殺到した。
敵は予想に反する行動に出た相手に戸惑い混乱を起こしかけていた。
「うろたえることは無い!こちらも少しずつ後退しつつ応戦せよ!寧ろ敵が我らの包囲の中に飛び込んできてくれているのだぞ!」
―よし!かかったか!?やはりお前は秋山だ!
その時、左右の後方より大きな火柱が上がり始めた。
左右両翼に攻勢を仕掛けていた敵軍の動きが止まり、混乱を起こし始めた。
尚も火柱は断続的に上がっていた。
こちらの左右両翼にはハクとタケゾウを配置して、敵の攻勢に合わせて渾身の攻撃を放つように指示をしていたのだった。
「俺たちが目指すのは、目の前の敵本隊のみだ!ここで終わらせるぞ!」
こちら側の部隊の指揮も大いに盛り上がり、相手との距離を詰めにかかった。
相手の陣形が崩れかかってきた。
秋山は舌打ちをした。
「大型戦車を前面に押し出せ!それを防壁にしつつ後方からも砲撃せよ!敵の動きを止めるんだ!」
さすがに統制のとれた部隊である。
一瞬のうちに混乱を収めつつ反撃の体制を整えつつあった。
それから2時間にわたって一進一退を繰り返していた。
さすがに大型戦車の装甲は分厚く、容易に抜けるものではなかった。
「そろそろ、自警団連合の方からの連絡がありそうだな。第三段階の準備は整っているか?」
「はっ!先ほど連絡が入りました。後は指示を待つのみとのことであります。」
俺は、正面の敵の更に後方に目を向けていた。
俺たちが侵入してきた西側の多目的通路と正反対の東側の通路より、自警団連合が押し出して来ているはずなのである。
―ボタンなら大丈夫だよな。アユハルもタマキもついているし…
約10分後―
「スサ元帥閣下!大変です!只今釜石方面に展開している部隊からの報告によれば、多目的通路より殺到してきた敵部隊により包囲を突破されたとのことです!」
「…やってくれるではないか。」
「閣下、このまま後退しつつ後方にて部隊をまとめ上げ対処いたしましょうか!?」
「…いや、だめだ。和泉はまだ奥の手を隠していそうだ。右翼部隊には大仙まで後退し、態勢を整え次第横手まで移動し、そこから湯沢まで死守するように連絡せよ!」
「左翼部隊には湯沢経由で北上及び奥州まで後退させ、そこを死守させる。横手から湯沢のラインと北上から奥州のラインで敵の挟撃を受けるのだ。この中央部隊は、そのまま後退しつつ横手から湯沢を経て仙台まで後退する。」
「宮古、釜石、気仙沼ラインの突破された部隊には、部隊をまとめて盛岡まで撤退させよ。」
「よいか!左右両部隊には、こちらに秘策があるので乱れずに防衛ラインを死守するように念を押させろよ!」
秋山は素早く状況を判断し、部隊それぞれに命令を下した。
後程明らかになるのだが…
この時秋山が仙台まで後退しなければ、ここで決着がついていた事であろう。
そして数時間後には、俺の部隊は横手と湯沢の街を包囲し、自警団連合が北上と奥州の街を包囲した。
―いよいよ第三段階だな。
「よし!第三段階の合図を出してくれ!仕上げに入るぞ!」
俺は、おぼろげながらに勝利を確信しつつあった。




