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俺の宇宙防衛軍。

久しぶりに降り立った宇宙軍エリアの内部は、平静を装っていた。


軍エリアや総司令本部エリアとの境目で行われている戦闘を忘れてしまいそうなほどである。



複雑な心境の俺たちを迎えてくれたのは、宇宙防衛軍元帥ナグモであった。


「閣下。お久しぶりであります。」


「ナグモ…元帥でしたね。18年間ご苦労をおかけしました。」


短く敬礼をした後、ナグモに促されるままに車に乗り宇宙軍司令本部に向かった。



車の中では、軍との戦闘の詳細を聴かせてもらっていた。



司令本部に着き、ナグモの部屋に通された俺たち。


ナグモが早速あることを語り始めた。


「実は閣下。我々は軍とばかり争ってられない状況なのです。そのために閣下にお越し願ったわけでありますが…」


「ナグモ元帥、どうしました?」


「実はここ10年程前より他文明圏の哨戒エリアに引っかかってしまったようで、度々矛を交えておるのです。そこで、閣下に旗下の艦隊を率いていただき敵の艦隊と戦っていただきたいのです。」


「…そうだったんですか。だがしかし、俺が指揮を取らなくても宇宙軍の中にも優秀な士官がごまんといるでしょう?」


「数世紀前に閣下がこの船にお乗りになられた時より幾度となく他文明圏との接触があったのは、私も存じております。その中で優秀な士官も育ったことでしょう。しかし、この100年余りの間にはそのような機会も無く、士官と言えどもシミュレーションと演習でしか実績を積むことが出来ませんでした。その為、ここ10年の度重なる会戦で私の先任の提督を含め優秀な士官の多くを失ってきました。」


「…なるほど。事情はお察しいたします。しかし、今回の軍のクーデターは俺があたらなければならないのです。ナグモ元帥もかつての秋山元帥の事は知っているよね?その彼が今回のクーデターの首謀者なんだ。」



ナグモは驚きを隠せない様子であった。


「そうでありましたか…秋山元帥がお相手では、他の誰にもその役目は果たせそうにありませんな。分かりました。この度の会戦は私が指揮を取ってみます。クーデターが収まりましたら、閣下にはまた是非艦隊の指揮をお取り頂くようお願いいたします。」


「今回の敵勢力はそんなに強大なのかい?」


「はい。規模も科学力も今までの文明圏のものとは比較にならないのです。この船を幾たびもワープさせて居場所を特定させないように努めてきましたので大艦隊での侵攻をまだ許しておりませんが、時間の問題かと思います。」


「分かりました。数か月の内にはなんとか結果を出してみます。」






その後俺は、ナグモから陸戦隊の指揮権を預かり全軍を招集した。


各師団各大隊ごとに細かく指示を出し配置につかせて待機させた。



―まずは橋頭保となる拠点を築くことだな。



一般居住区とのホットラインを確保して、作戦の概要の最終チェックを行った。


WD機関のメンバーとも細かい打ち合わせを行い最終調整を行った。



作戦開始は明後日の正午とし、ボタンにタケゾウの創った複数の小型ドローンを使って軍エリアの索敵を開始させた。



敵陣営は、強固な陣地を構築し諸軍の連絡体制も万全の様にも見えた。

数時間のうちに数個のドローンが発見、爆破されしまった。


ドローンからの情報を元に地図に陣地や敵の配置を記して各隊に配布した。



「フユよ。この作戦通りに本当に敵が動いてくれるのかな?なにやら事を急いているようにも見えるのだが…」


「うーん。その通りに動いてもらいたいもんだよ。俺なりに奴の行動パターンを読んで立てた作戦のつもりなのだが、こればかりは始まってみないと分からないしね。特に急いているつもりはないんだが、相手が相手なんで、先手をとられたくないんだ。」


「ハクぅ、今更そんなこと言ったって仕方ないよぉ。なるようになるって。」




次の日の午前にナグモ率いる宇宙艦隊1万隻が、宇宙港から発進していった。


―ナグモさん、無事で帰って来てくれよ。


―秋山も宇宙軍に在籍していれば、このような事態にならなかったろうに…




数世紀前に秋山の艦隊運用能力に恐怖を覚えた当時の宇宙艦隊司令が、その時新設された陸海空の3軍の士官として秋山を異動させてしまったのである。


表向きは、惑星探索における探索隊の護衛任務や他文明圏の地上部隊との交戦の可能性も考慮しての優秀な人材確保というものであった。だが、本音は自身の立場を危ぶむ人種の明らかなる左遷による秋山封じであったのであろう。



その際、秋山は2階級特進の条件付であったため…

まあ、俺たちも表向きの理由であると、その当時は信じてやまなかったわけであるが…


それ以来、秋山とは音信不通状態であった。



―理由は何であれ、秋山、お前は超えてはならない一線を越えてしまったのだ。


―それをかつての親友であったこの俺が、止めなければならないんだ。





両陣営とも嵐の前の静けさよろしく、猛る気持ちを内に抑え込み、静寂の中で時は粛々と過ぎていったのであった。

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