俺たちの作戦立案。その2
各地域との協議も終わり、いずれの地域も半信半疑の状態であったが、いろいろと思い当たることもあって協力を約束してくれた。
宇宙防衛軍とのコンタクトにも成功して、協力を取り付けたのであったが…
宇宙防衛軍側のWill Diverを戻して欲しいとの要求もあった。
宇宙防衛軍側のWill Diverは、俺とボタンとハクのことである。
それについては、状況を見て判断すると俺の方から伝えた。
宇宙防衛軍側の責任者は、かつての俺の部下であったナグモ准将であった。もっとも現在では元帥として宇宙艦隊司令長官に就任しているとのことであったが。
後は、軍のエリアへの侵入経路を模索することと、軍との交渉の場を持つことである。
侵入経路の選定は、アユハルとボタンに任せて、俺は軍との交渉に臨むことになった。
北海道、中部、九州の各首脳は、近畿の京都の近畿内閣連合本部にホットラインを引いて軍との交渉に臨むべく、その時を待っていた。
時間通りに軍の総本部へと通信を試みることになった。
「通信回線繋がりました。映像出します。」
オペレーターの声に一同固唾をのんだ。
それぞれの巨大なスクリーンに映像が映し出された。
そこには、一人の青年の姿が映し出されていた。
「秋山…」
思わず俺は口走った。
そこに映し出されている青年は、どうみても十代半ば過ぎの少年であった。
俺たちWill Diverは、その年齢辺りで肉体的な成長が終わり、更に老化することなくその姿を維持することが出来るのである。
「私は三軍総司令であり陸軍司令を兼任するスサ ユキオである。君たち一般居住区のお歴々が私にどのような用件であるか?」
その問いかけに対して、播磨総理は俺に目配せをして返答を促してきた。
「コードネームスサノオだな?今期はお初にお目にかかるかな。俺はコードネームイザナギだ。君は俺のかつての親友によく似ている。君のオリジナルは秋山だな?」
その問いに対して一瞬眉をピクリとさせたが、スサは平静を保っていた。
「ほう…生きていたのだな。あの苛烈な戦闘の中良く生き抜いたものだな。一般居住区にWill Diverらしき存在を確認との報告を受けていたが、君だったか。」
「ああ、なんとか五体満足さ。今日はお前に降伏を勧告するために、この場をつくったのさ。」
「ほう、何故私が屈服すると思うのか?」
「お前らと繋がっている中央政府の機能は、俺たちが掌握した。中央政府の影響力も無力化されている事だろう。このまま無駄な戦闘行為を続けると言うのなら、俺たちとしても強硬手段に及ばざるを得ないって訳だ。」
「…なるほど。補給を断つ…という訳か?」
「その通りだ。相変わらず察しがいいな。いくら強力な軍隊がいてもそれを支えるものが途絶えたのなら、行動は続けられないだろう?兵士たちの為にも善処してみないか?」
「…ふふふ、イザナギ、いや和泉よ。俺のことを良く熟知しているだろう?こういうケースを俺が想定しなかったとでも思うのかい?軍は既に自給自足を前提に開墾から独自の核融合炉による発電も行っている。更に物資等の備蓄も万全である故、このまま戦果が拡大しても30年はもつ計算になっている。それだけの期間があれば、この船の制圧は私なら可能なのだよ。」
「…そうだったな。お前が秋山と分かっていたのなら、このような手の内をばらすようなへまはしなかったろうよ。そうなると、交渉決裂と言うことになるが…俺も覚悟を決めないといけないようだな。」
「和泉よ。私にとっても君の実力は未知数なのだよ。遥か昔の戦闘では、君は全て私に丸投げだったからね。君の本気を見せてくれるかい?私も俄然やる気が出てきたよ。」
「秋山。お前は本当に戦いが好きなのだな…それを見抜けなかった俺も間抜けだった。お前の指揮能力にどれだけ迫れるか俺にもわからんが、ただではやられんぞ。」
交渉は完全に決裂の形となった。
―陸戦の経験はほぼ皆無だが、戦術の応用はきくだろう。
続けざまに行われた空軍及び海軍との交渉については、お互い干渉せずとの結果になった。
戦うべきは陸軍のみとなったのであった。
陸軍エリアへの侵入経路は、4か所の農作物搬入口と東西数か所の多目的通路と決まった。
ヘリなどの航空戦力については、上空の航空機専用空路から侵入することとなった。
ただ、相手側もそれを熟知しているであろうから、手をこまねいて俺たちの侵入を許すはずがない。
橋頭保を築くだけでも至難の業である。
秘策と呼べるものは無かったが、おぼろげながらに俺の脳裏に一つの作戦があった。
―タイミングがずれると、こちら側に甚大な被害が出て立ち向かう術が無くなる…
―まさに賭けだな…こりゃ。
宇宙防衛軍側には、俺とタケゾウとハクが向かう事になり、ボタンとアユハル、タマキは、こちら側に残留することとなった。トウカは当然普通の女の子なので、ここからは別行動になる。
そうして、複雑な思いを胸に抱きつつ18年ぶりに宇宙軍エリアに降り立ったのであった。




