魔王の求婚 余話 ―竜妃の日常録―
竜妃の日常録
これは私、ラーティア・エルカ・スレイディアの日記だ。
我が夫殿は、『馬鹿』らしい。
ふむ。こう書くと、確かに私の言い方は言葉が足りないようだ。訂正しよう。
我が夫殿は、『愛すべき馬鹿』だ。
これで、私が夫殿を愛しているのは明白となったな。
さて、何故このようなものを書いているかと言えば、一番の理由は小さな友人に、このノートを貰ったからだ。
小さな友人とは、名を『リト』と言うらしい。
会ったことはない。その内、出来れば近い内に会ってみたいと思っている。
会ったことはないが、人間であるのだから私より大きい事は無いだろう。だから、小さな友人だ。
この友人について言うなら、我が夫殿は外せない。
何故なら、小さな友人は夫殿が最近求婚したが即玉砕した相手だからな。
夫殿は私達『妖』を統べている。時には一通りの領地を見回り、問題が起きていないか視察するのも仕事の一つ。
小さな友人とは視察の帰り道で邂逅を果たしたらしい。我が夫殿には人間のような形と犬のような二通りの姿がある。どちらも翼があるが、人間型の時は隠すことも出来る。
我が夫殿は視察の帰り道、予てより興味を持っていた狭間の地を訪れた。自分には翼があると過信してか、人間は恐ろしがって森に近寄れまいという思い込みからか、どうやら愚かにも翼のある犬型で暢気に姿も消さず、低空飛行していたらしい。
これを聞いた時、私以上にメルが呆れ怒っていた。夫殿はメルに一日がかりで説教と人間についての知識及び反省文を書かされていたから、多分懲りただろう。
ふむ。話が逸れたな。
兎にも角にも、そこで愚かな我が夫殿が負傷したところを小さな友人が手当てを行ってくれたのが馴れ初めと聞いている。
翼を怪我してそれを手当てされた恩義は、確かに妻に迎える理由として値する。
私達のような翼を持つ者にとっては、墜とされる事は命に関わるのだから。
まったく。我が夫殿は……。無事で良かった。
小さな友人に会えた事は真に幸運だったとしか言えない。
そんな彼女ならば、少なくとも私は八番目の妃として迎えるのに何ら異論はなかったのだが、報告ではふられたらしい。
こういう時は何と言うのだったか……ざまぁ、ではない事は確かなのだが。
ううむ。これではリィナにもっと学べと言われても致し方ないな。
フラれはしたが、何とか夫殿は小さな友人に友人としては受け入れてもらえたらしい。
戻った夫殿は、私達それぞれに小さな友人からだと言ってお土産をくれた。
他のそれぞれのお土産の中身は聞いていないが、私にはこのノートだ。
表紙の紙は綺麗な青色で、花の匂いがした。
そうだ。今度、夫殿に頼んで手紙を渡してもらおう。
このノートの礼と、不思議にも思うから何故私にこれを贈ったのかをしたためるのがいい。
手紙のついでに、そうだな、こちらからも何か贈ろうか。何せ、我が夫殿の恩人で、友人でもあるのだから。
そうと決まれば、何が良いか考えるとしよう。
これは案外楽しいな。
日記も、初めて書いたにしては進んだと思う。
ひとまず、今日はここまでにしようか。