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第7話 体裁は整った

 この間のDACTから一週間。

 今ある戦闘機は三機。後一機は何があるのかな。

 そう思って今日も書類をぺらぺらめくる。

「湊川さーん」

 坂井さんがいつも通り飛び込んできた。

「こんなのありましたよ」

 バッと見せつけられたのは、スカイホークの書類。う、うん?

「これ、E型だからレーダーも搭載されていますよ」

 坂井さんは嬉しそうに跳ねている。

「探しに行きます?」

 こっちの様子を見ていた雪奈さんが提案してくれた。

「ぜひ!」

 坂井さんは二つ返事に。わたしも、せっかくだからと探しに行くことにした。着実に機体が見つかって行ってるからわたしとしてはすごく楽しかったりする。

 ついでに、転校してきてからもう三週間くらい経って、こっちの学校にすっかり馴染んできたから学校生活自体もすごく楽しくなってきた。

 そうか、もう三週間か。

 とても充実していたからあっという間に感じるなあ。

 ちょっとしみじみしながら部室を後にし、坂井さん先導で雪奈さんと三人、書類を頼りに格納庫の林を行く。

 ……さすがに、どこかの広場みたいなところでモスボールやら中身を抜かれて展示用やら、そんなことにはなってないよね? とわずかな不安を胸に行く。

 例によって懐中電灯装備で、適当にアタリを付けて格納庫に入った。うわ、埃がすごい……。

 懐中電灯の光が白い筋になるくらい、誰も入ってなさそうな気配を漂わせる格納庫だから、もし当たりだとしても飛べるようになるまですごい時間がかかりそうな気がする。

「あっるかなー、あっるかなー」

 ノリノリで坂井さんが懐中電灯を振り回しているのがおかしくて、思わず笑いそうになる。

 キラリとキャノピーが光を反射し、コックピット後ろのこぶが闇の中から浮かび上がってきた。

「おぉ……」

 雪奈さんが息を飲む。エド・ハイネマン設計の美しいシルエットはいつ見てもいいよね。

「やっぱりかっこいいですね、あのこぶとか最高ですよ」

 分かる人には分かる、あのこぶのよさ。かわいいから好き。

「かっこいいけどかわいい、それこそスカイホークのいいところ」

 槙田さんが好みそうな機体じゃない? ほら、アクロバティックな動きにも強いしさ。軽くて大パワー、ちっちゃくてかわいい。

「でも、これ動くまでにどのくらいかかるんだろう……」

 雪奈さんが不安そうな声色で呟く。それを見た坂井さんは力強くスカイホークの整備性の高さを力説し始めた。

 とは言っても、武装がサイドワインダー二発と機関砲だけっていうのがちょっと不安だったり。いや、それを言ったらフリーダムファイターもか。フリーダムファイターの方に至ってはレーダーすら積んでないんだった。




「え、何、ブルーエンジェルスが使ってた飛行機が使えるの?」

 槙田さんの顔がほころんだ。おっ、これは。わたしとしては槙田さんからいい反応が得られて嬉しかったり。

 とりあえず、四機揃いそうだから割当を決めて行こうという流れになった。いやいや、まだファントムしかテスト飛行できてないじゃないの。

「まあまあ、テストする時の割当になっていいじゃないの」


 ダメよー、じゃなくて。


 まあいいや。ファントム搭乗員が月島さん姉妹っていうのだけはとりあえず決まっているから、残りの三機をどうするか、だよね。

「スカイホークは槙田さんがいいんじゃないですかね」

 と坂井さん。槙田さん、やっぱりアクロやってるしスカイホークならかなり楽しく乗れるんじゃないかな。

「坂井さんは何に乗りたい?」

 そうですねぇ……、と坂井さんは少し考えこんだ。


「スターファイター、乗りたいです」


 おっ、あの素直で気難しいやつ乗るのね。

「じゃあ、わたしがフリーダムファイターに乗るね」

 すんなりとそれぞれの乗機が決まってしまった。思った以上にすんなり決まっちゃったものだから拍子抜けしてしまった。ま、お互いに特徴を知っているからっていうのもあるのかな。

 今日見つけたスカイホークと合わせて残り三機、いきなり五人で飛んじゃうのもアリかな。もう今からわくわくしてきちゃった。あ、でもいきなりは危ないか。順繰りにテストしちゃった方がいいか。

「そういえば、スターファイターの整備終わってるから明日テストしちゃう?」

 しちゃおうしちゃおう。早いうちに飛べるようにしておいた方が後々いい方に進むんじゃないかな。

「そうだ、映画とかで戦闘機パイロットが使ってるコールサインみたいなのあるじゃん? 私たちも決めない?」

 と槙田さん。曰く、武器発射のコールとか無線交信とかするときに、コールサインで呼び合ったらかっこいいかららしい。戦争じゃないし、決めなくてもそこまで問題ないけど気分が盛り上がるから決めようか。

「湊川さん、わたしのコールサイン決めてください!」

 坂井さんのコールサインか。

「坂井さんは突撃娘なところあるからマーリンってのはどう? 英語でマカジキって意味なんだけど……」

「ありがとうございます! マーリンかー……」

 坂井さん、完全に自分の世界に突入しちゃったんだけど。

「わたしはハミングバードにするね」

「あれ、湊川さんコールサイン変えるんですね」

 坂井さんが一瞬で反応した。怖い。

「まあ、心機一転ってことでね」

 月島さん姉妹は、槙田さんが「佳奈はアルテミスって感じがするし、雪菜ちゃんはスノーって感じがする」とつぶやいたのを拾ってコールサインにしてしまった。槙田さん本人は「かわいいから」という理由でキューピッドだとさ。




「さてさて、今日はスターファイターかっ飛ばすんだけど……」

 イエーイ、と飛行服でハイテンションな坂井さんと、うおおおっ、と気合い十分な月島さん姉妹と、なんでわたしが……、とげっそりしているわたしと槙田さん。何が嬉しくて、スターファイターのテスト初っぱなから二対二のDACTしなきゃならないのよ……。初っ端からDACTとかヤバい気配ムンムンだよ。しかも、よりによって坂井さんを相手に回すんだよ。あんな速くてちっちゃい飛行機を、うまく乗りこなせそうなパイロットを練習機で相手取るとか嫌なんだけど。

 槙田さんは槙田さんで、わたしが強い強いとほめた月島さんコンビと、エアコン経験者のわたしのペアを相手にするのが嫌だそうで。そんなに嫌か、嫌なのか。

 うん、嫌だね。

 いろいろとげんなりしながらコックピットに収まりに行く。やったら元気のいい三人を尻目に、槙田さんと二人げっそり飛ぶ準備をさっさと終わらせ、離陸できるまでひたすら待機する。

 なんでだろうね、元気なときよりげっそりしてる時の方が準備が早く終わるんだよね。

 少し不思議だよねー、と独り言を呟いていたつもりが、マイクが拾っちゃってた上に通信回線が開いちゃってたから焦った。うわ、これ後で笑われるわ……。


 元気いっぱい戦闘機組の準備が終わったようで、管制塔から笑いながら滑走路に入るよう指示を出された。あーあー、笑うな笑うな。

 上空に上がって、管制塔との通信が終わるまでずっと笑われ通しでひたすらつらかった。うぅ。

 今回の設定も、前回と同じくなんだけど、今回はBVR距離からだけど、中距離ミサイルを封印しての戦いをすることにした。一応、どっちもレーダーを搭載した戦闘機をリード機にしているから、最初の一手をどうするかから考えなきゃで駆け引きがすごい。

 わたしは、前回同様にRWRで坂井さんの位置を割り出しつつ、月島さんから槙田さんの位置を聞いてどういうルートを取るか、一人勝手に飛んで行く。月島さんと連絡を密にして、奇襲をぶっかまそうと思っているけど、RWRにずっと反応があるってことはだいたい坂井さんに場所バレてるよね。……とおぉ?


 RWRの反応を見ると、レーダー照射源が急速に接近してきている。


 うーむ、思いっきり狙われちゃっているような気がする。これをうまくかわせないと、なんだけど視界に入ったとたんに後ろに飛び去ってそうで……。あ、でもスターファイターの一撃離脱って、後ろから来る二回目の接近でミサイルが飛んできそうな。

 いや、もしかするとわたしを狙うと見せかけて……?

 うぐぐ、まったく読めない。

 そんなことを考えていると、正面に小さな機影が見えてきた。うわ、みるみる迫ってくる、怖い!

 じゃなくて。

 ロックオンされてもガンキルされても困るから、バレルロールとシザースを組み合わせて射線に出ないようにした。

 どうにかうまく行って、キルコールはされずに済んだようでなんとか……。いや、でもまだ次が来るし、槙田さんだっているし。

「ハミングバードよりアルテミスへ、今敵機はどこにいますか!」

「マーリンはこっち来た! 今追い回してる!」

 てことは、今坂井さんが押さえられてて槙田さんがフリーなのか。いや、でもどっちもレーダー積んでないからどこにいるのか分からないんだけど。うーん。いったん地図を引っ張りだすか。

 さっきまで槙田さんがいる予測位置と、今坂井さんたちがいる予測位置を地図に落とし込む。槙田さんは坂井さんの援護に行くと思うんだけど、多分直線的に飛ぶだろう。距離的に、会敵まで一分くらいかな。とすると?

 うまく回り込めるかは分からないけど、うまく行けば後ろ、失敗しても横から奇襲できそうなコースを決めた。

 月島さんの援護に行きたいけど、槙田さんを追い回しながらでいいか。

 機首を上げ、高度と速度を上げつつ地図と地形とにらめっこしながら、あっちこっち見渡して槙田さんの操るホークの姿を探す。忙しいけど、一分かからないくらいで終わると考えれば楽かな。いや、これ捜索の時間充分に取れないから見つけ損ねて、の可能性もあるか。うお、プレッシャーがヤバいって。

 もうルートは間違いない、そう確信してもう機影を探す方に専念した。これ、見落としたらわたしがキルコールもらっちゃうからね。

 お、発見。

 ちょうど後方上位の位置を取れる。しかも、ルートが横にずれてるのとうまく太陽に隠れられたのとで多分位置はバレてない。

 サイドワインダーのシーカーを起動して、後ろから高度を速度に変えつつにじり寄る。

 ……ちょっと、全然気付かれてないんだけど。うーん、ミサイルももったいないしガンキルするか。

 コックピットの中でわたしや月島さんを捜そうときょろきょろしている槙田さんを想像しながら、まっすぐ飛んでいる槙田さんの機体を照準に収めた。もらった!


 わたしがキルコールすると、槙田さんが「え、噓っ?」と慌てた声が無線越しに聞こえてきた。わお。

 バイザーを上げて、まだまっすぐ飛んでいる槙田さんの機体を、上からロールしながら追い越すと、背面飛行状態になった時に槙田さんと目が合った。うわ、すごく気持ちいい。

 口元はマスクで隠れているから分からないけど、バイザーをしてなかったから目がぽかーんとしているのが見て取れて、思わず笑ってしまった。

 よし、次は坂井さんだなー。

「月島さん、今どんな状況?」

 一応急いではいるけど、あの二機種だとどっちが勝ってもおかしくないし、坂井さんは確実にスターファイターの扱い方を心得ているだろうからちょっと焦っていたりする。

「まだ大丈夫です、なんとか後ろ取ってますから」

 雪奈さんが返事してくれた。息がかなり荒かったから、長いこと激しい機動を続けているのだろうか。早いところわたしも飛び込まないと、坂井さんの地力は底知れないから怖いんだよね。いや、月島さんも相当だし、そうそうひっくり返される気はしないんだけども、月島さんが話せる余裕がないのが気になるし。

 とはいえ、アフターバーナーの付いていない鈍足練習機だからエンジンを吹かしてもあんまり変わらない。うぬぬ……。

 RWRとにらめっこしながらー、と思ったらかなり激しくぐるぐる追いかけっこしてるせいで遠くからでも視認できてしまった。あらら。ていうか、月島さんがこっちに追い込んできているような気もする。いや、坂井さんが月島さんの攻撃をかわしながらわたしを墜としにきているのか。ふふ、返り討ちにしてくれよう。

 ミサイルのシーカーを起動して、正面から勝負を挑む。多分、坂井さんは正面から来ないだろうけど。

 月島さんに正面から突っ込んでいるのを伝えると、「えっ……」みたいな反応が返ってきたから多分正面衝突はないだろう。

 一回大きく深呼吸して、全速力で突撃を敢行する。……も、坂井さんは案の定旋回してヘッドオンからの勝負を避けた。まあそうだよね、今直線的に飛んだら後ろの月島さんたちから撃墜判定もらっちゃうもんね。わたしもくるりと針路を変え、月島さんの後ろから坂井さんを追いかける。二対一だから、坂井さんはかなり不利なんだろうけどすぐにキルコールできる気がしない。距離が近いから坂井さんがフラップを降ろしているのが見えた。あぁ、そんな無茶しなくても……。

 だんだんと速度が落ちてきていて、月島さんがエルロンを使いづらくなってきた。さすがにまずいな、と思ったとたん坂井さんがバレルロールで月島さんを前に押し出してしまった。

 あっ、と思ったら月島さんがパワーダイブを掛ける。それをもう半回転してスプリットまがいの動きで追従する坂井さん。わたしも操縦桿をくいっと動かして付いて行く。あの二人、練習機のわたしと違って変なクセがある機体に乗ってるのによくやるなぁ。

 すいすいとわたしの射線を外れながら飛んで行く坂井さん。しかも、わたしの射線上に月島さんが来るからたまらない。

「月島さん、月島さん、スリーカウントで下に逃げて」

 分かった、と月島さん。

「スリー、ツー、ワン」


 ブレイク! ナウ!


 っておい、マイナスG掛けたよあの人!

 唖然としながらでも手はきっちりと動いていた。一八〇度ロールして急降下して行った坂井さんを、目の前に捉え続ける。機関砲の照準にスターファイターのエンジン部分が収まった。もらった!


J隊のTACネームも適当らしいですぬ。

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