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第5話 ちょっと早すぎないですか

 放課後、わたしたちスターファイター目撃組が先生に呼び出された。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけれども」

 切り出し方が何ともめんどくさそうな案件を頼みたそうで、なんかいやだ。


 まあ、この四人だし、だいたい何言われるやらは予想できるんだけどね。

「……月島、の妹の方見てないか?」

 わたしは見てないです。

「一応連絡は入れたんですけど、まだ終わってなさそうでして……」


 月島さんがスマホで何かを確認してから言った。

「ま、連絡入れてるんだったら放課次第こっち来るだろ」

 先生もまたなんというか楽観的な発言をして、座っている姿勢を大きく崩し始める始末で、いまいち締まらない空気が流れる。



 雪奈さんを待つこと十五分。案外あっという間だった。

 ノックの音の後、「失礼します」と雪奈さんが入ってくる。

「適当に座って。で、君ら五人にちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 なんだろうか。デモンストレーションでスターファイターに乗ってアクロバット飛行をしろだとか、そういうことだったら他の人に頼んで欲しいところだけど。


「ここのエアコンやってた頃のいろんな資料と言うか文書と言うか、よく分からないもんがいっぱい出てきたのはいいけど何がなんやらさっぱり分からん。助けて」

 助けてってあーた、それを仕事に飯食ってるんでしょーが。いや、何でもないです。

 顔に出ちゃってたのか、先生が一瞬わたしをめんどくさそうににらんできた気がした。気をつけよう。

「えーと、これって?」


 槙田さんが早速何枚かぺらぺらめくって見ていた。手が早い、さすが槙田さんだ。

「えーと、事務員さん曰く『その昔この学校で運用していた航空機の一覧』らしい」

 「そ、そうなんですか……」と槙田さんが机に紙の束を戻した。紙の束のくせに、接地の瞬間「トン」って重そうな音がした!

「それにしてもこの資料、多すぎて威圧感が……」


 月島さんが目を白黒させている中、坂井さんはものすごく元気そうだ。なんて言うんだろう、多分、坂井さんは今の状況から考えられる作業内容だとどれをやっても作業効率が一番高そうだ。

「これを頼りに、今も生き残ってる戦闘機がないか当たってみようと思うんだが、どうだろうか」

「まー、他には総当たりで探索する以外の手はないですしねー」

「湊川、なんでそう棒読みみたいな……」


 先生が呆れたような笑みを浮かべた。だって、どう転んでも面倒な上に使える機体が出てくるかどうか分からない方法しか残ってないじゃん。面倒くさすぎるじゃん。やだよ、わたし。

「湊川さんて、なんか変なところでめんどく下がりですよねー」

 坂井さんの声に、軽く軽蔑の色が混じったような気がする! つい昨日までの尊敬まじりで接してくれてた坂井さんはどこに言ったの! っていうか、わたしが信用を失うまでが早すぎて笑えない。


 ま、それは陸での話。空で信用してもらえたらいいか。そういう問題でもないか。

「じゃあ、手分けして見ていきましょう」

 雪奈さんが適当な量に分けて、大量の資料を配ってくれた。もちろん、先生にも仕事は回るよ。

「えー、俺もやるのか……」

「当然ですよね?」

 槙田さん、なにゆえ勝ち誇ったように言うのか。その勝ち誇った顔が絶妙にに合わなくて、剽軽な印象しか醸し出してくれないんだけど。笑ってもいいのかな……。

「あ、使えそうなファントムが早速出てきた」


 えっ。槙田さん、とんでもないもん掘り当てないで。

「どれどれ……。おっ、J型ですか」

 あの機関砲のないやつか。うわー、これってドッグファイトのできる制空戦闘機が残ってないパターンじゃないだろうか。


 とりあえず、槙田さんが見つけたファントムの情報を追いかけてみることにした。ペラペラと紙をめくる音が響く。

 探せば、どんどん出てくる。最後に出てきた情報を頼りに、いったんみんなで探索に行こうという流れになった。

「にしても、ファントムかー」


 わたしは思わず天を仰いだ。


「あれ、ゆかりんてファントム嫌い?」

「嫌いっていうか、まあ嫌い」

 何よそれー、と槙田さんは口を尖らせる。

「意外ですね、湊川さんて言ったら、もうわたしの中じゃファントムで敵チームの戦闘機をばったばったと墜として回るイメージだったんで」


 あ、そうか。坂井さんは前の学校でエアコンやってる時のイメージが残ってるのか。

「ま、いろいろあったんだよ」

 さらりとかっこいい風に言ってみる。坂井さんは何かに納得したようにうんうんとうなずいただけだった。

「そいじゃ、行ってみますかねぇ……」


 先生が腰を浮かしたのを見て、みんなそわそわし始めた。

「ファントム目指して! レッツらゴー!」

 槙田さん、それ古いよ。



 資料にあった辺り、だいたいはもう使われてない物置みたいな格納庫なんだけど、そこを目指してぽてぽてと歩いていく。まだ残ってるのかなぁ……。ものすごく不安だ。



「あ、あれじゃない?」

 槙田さんがオンボロな格納庫を見つけた。なんというか、もう壁中ツタだらけでかなり古くさく見える。中は大丈夫なのかな。飛行機はまだ残っているのかな……。ああ、不安がどんどん膨らんできた。

 先生が戸を開き、懐中電灯片手に突入したわたしたちを迎えてくれたのは大量のほこりだった。うわ、なにこれ!


 げほげほ言いながらフリーな方の腕でとっさに鼻やら口やらを覆い、懐中電灯を振り回す。

 黄色みが買った光が、何やら金属的な鈍色を捉えた。お?

「あ、これってもしかして!」

 とりあえずの問題として、懐中電灯だけじゃ灯りが足りない。どこかに電灯のスイッチはないだろうか。


「先生、その辺に電気のスイッチないですか?」

「ちょっと待ってろー」


 かちっ、とスイッチが押される音が聞こえた。

 さすがに建物も古いし、天井のライトが灯るまでに時間がかかったが、明るくなった格納庫内に保管されていた機体を見て、思わず息をのんだ。

「……わお」


 坂井さんが鼻を押さえる。仕方ないなぁ。

「あ、ありがとうございます」

 わたしが差し出したポケットティッシュをものすごく自然に受け取ってくれた。ものすごく自然な動きだった。なんだろう、この快感。


 鼻に白くて長い詰め物をしている坂井さんを横目に、ファントムを遠目から眺めてみる。うーん、外装はぱっと見た限りじゃほこりを被ってるだけだけど、多分そのままじゃ飛べないだろうなぁ。パーツを全部とっかえひっかえしないと、この書類を見る限りじゃ最後に整備されてからかなり時間が経ってるし、保管状態もひどいし。


 これは、大事になるんじゃないかなぁ。これから、後何機か見つけなきゃいけないし、多分それらもひどい状態で保管されてるだろうから……。うっ、頭が。

 あーあ、これはどえらい手間がかかるよー……。


 軽く頭を抱えていると、先生もおんなじことを思ったようで頭を抱えていた。

「とりあえず、この機体どうします?」

 坂井さんが困ったように呟いた。

「とりあえず、向こう引っ張っていって整備に回すか……?」

「どうやって向こうまで持っていくんですか」

「うっ」


 坂井さんが先生と漫才してた。まあ、実際どうやって持っていくやらだからねー……。重いし、半分壊れてるようなもんだし。

「整備科に頼んで、トーイングカーで引っ張って行ってもらうとかはどうだろう」

 先生の頭の上に電球が三つくらい浮かんだのが見えたような気がする。あくまで、気がするだけだけど。うむむ、整備科がトーイングカーを出してくれるかな、あっちはあっちでめちゃくちゃ忙しいって聞いてるんだけど。


 そもそも、これが飛べるようになるかさえ怪しいっちゃあ怪しいんだけど。まあ、それは整備の人たちに聞いてみなきゃだね。



 そんなこんなで、戦闘機捜索一日目が終わった。





「いやー、それにしたってまさか初日から見つかると思わなかったよねー」

 暗くなった帰り道、槙田さんがため息まじりに呟いた。

「あの紙の束めくって終わるかと思ってたから、驚いたよ」

 あくびまじりに月島さんが返す。やー、疲れたわ。あてのない資料漁りがあそこまでつらいとは思ってなかった。肩凝っちゃったよ。


 首をぐるぐる回し、固まった筋肉をほぐしていると坂井さんが「えいっ」と言いながらピンポイントでつぼみたいなところをゴンっ、と突いてきた。


「あうっ」


 わたしの灰色の脳みそに衝撃が走る。なに今の、ものすごい効き方したんだけど。

「坂井さん、今の何!」

 一呼吸置いてから(ていうか、置かざるを得なかった)、坂井さんを問いただしにかかる。

「なんか、グイッて奥の方の筋肉をほぐされるような、凄まじい快感だった」

 問いただす、っていうか感想になっちゃった。


「そうですね、なんていうか、この辺のつぼを……」

 今度は、さっきと違ってぐいぐいと押し込まれる。

「あだだだだ!」

 思わず声が出てしまった。肩だけじゃなくて、首や頭にまで電気が走ったかのような感覚で凄まじい痛みが。

「――ってやったんですよ……て、大丈夫ですか!?」

 だ、大丈夫じゃないです……。肩が破壊されたかと思った。あ、でもなんか動かしてみると動く範囲が広くなってる。


「ちょ、ちょっと痛かったけど大丈夫。肩も軽くなってるし」

 おっさんか、と槙田さんに突っ込まれた。おっさんじゃないけどおっさんだよ! もうおっさんでいいよ!

「でも、一応華の女子高生だから」

「なんでか分からないけど、その言葉までもが古く感じられちゃうんだけど」

「槙田さん……ひどいっ」

 ちょっとわざとらしくしおれてみたら、みんなに笑われた。

「ちょっと、それいつの時代の人ですか!」


 雪奈さんまで、へそでお茶が湧かせそうなくらい笑い転げている。そんなバナナ……。

 ……危ない危ない、また槙田さんにおじさん言われるところだった。セーフ。

「ていうか、わたしってそんなに古くさく見える?」

「古くさいっていうか、おじさんの皮被った女子高生じゃない?」


 槙田さん、逆! 逆!


「それじゃあゆかりが中身だけ女子高生のおっさんになるから逆じゃないのか?」

 突っ込みきれなかったわたしに代わって、月島さんが突っ込みを入れた。さすがに、この超絶美少女ゆかりんを前にして……って痛っ。

「どう考えても中身がおっさんだからアウトです」


 雪奈さんにチョップされた。

「やっぱだめかー……」

 うん、分かってた。まあ、あれだけやりたい放題やってたらねー。

いやあこいつらポンポン進むねえ。

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