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第4話 意外な結果

 無事に走破し、汗だくのままみんなが整列しているところに並ばされた。

「二人とも、ふざけすぎないように」

 月島さんにも怒られてしまった。

 猛省しながら呼吸を整えていると、先生が今日のフライト内容を説明し始めた。聞き逃すまいと耳を傾ける。

 先生は説明を終えた後、わたしと槙田さんの方を向いて「二人を組に入れてもらえるところあるか?」と聞いてきた。

「先生、私たちのところは二人分空いてます」

 月島さんが、わたしたちが入れるように空けておいてくれたらしい。

「ありがとう、月島さん」

「だ、だってさやかを他のグループに突っ込んだら他の飛行機に突っ込みそうだし、ゆかりは周りに合わせて飛ぶのがやたらと上手だし……そりゃあ、この四人で飛びたいし……」

 月島さんは照れたようにそっぽを向いた。思わず頬が緩む。

「さあさあ、みんな乗って乗って。今日はエキサイティングなフライトが待ってるんだからぁ」

 そういえば、今日は非常事態のときでも落ち着いていられるように、アクロバティック飛行をするんだっけ。どこまで機体を攻めさせてくれるんだろうか、わくわくしてきた。

「さやか、編隊を組んでアクロバットするんだから突っ込まないように気をつけてよ」

「突っ込まないって!」

 槙田さんは口を尖らせた。

「そういえば、槙田さんて衝突事故やっちゃったことってあるの?」

 ふと疑問が湧いてきたから聞いてみた。

「一回、着陸の時にやらかしてるよ、後ろから主翼を持っていかれた」

 月島さんが、遠い目で思い返すように言うからなんだか怖くなってきた。

「大丈夫だって、私もうまくなったんだから! ていうか、あの時は着陸するのが難しい天気だったじゃん!」

 だ、そうで。今日は気候も穏やかだし、大丈夫だと思うんだけどね。うん。

 あんまりまた長々やってると先生に怒鳴られるので、適当に切り上げてそれぞれの上記に乗り込んだ。

「いいか、今日はかなり編隊を組んだまま激しい機動するからな、衝突しないように僚機の位置をしっかり把握しておくんだぞ」

 先生から、今日のフライトの注意点が伝えられる。ぐるっと辺りを見回すと、月島さんと坂井さんが槙田さんの方へちらっと視線を向けたのが分かった。それを見て、思わず笑みがこぼれてしまった。

 わたしは槙田さんの方を向いて思わずサムズアップしてしまった。


 各編隊が順繰りに滑走路に進入して、編隊を組んで次々飛び立っていく。練習機とは言え、いつ見てもかっこいい。思わず見とれていると、わたしたちに順番が回ってきたのに気付くのが遅れてしまった。

 慌ててスロットルを押し、機体を走らせ始める。エンジンの回転数が上がり、機体が進み始めた。……大丈夫大丈夫、誤差の範囲内に収まった。

 一列になって、誘導路を走っていると先頭の月島さんが一時停止のところに着いた。管制塔から離陸許可が出るまでの間、離陸する他の飛行機に目を向ける。

 やっぱり、飛行機ってかっこいいよねー。ジェット機だと、耳が壊れそうなくらいの爆音がまたそそる。飛行場の近くに住んでいる人には申し訳ないけれど、ジェット機特有の迫力は音にもあるんじゃないかって。ただ、いざ乗り込んじゃうとあんまり音は聞こえないんだけどね。

 機内に響く、ジェットエンジンの甲高いアイドリング音を聞きながら待機していると、管制塔から滑走路に入る許可が下りた。

 月島さんが動き始めるのを見て再び機体を動かし、滑走路上でばっちり編隊を組んだ。今回は、わたしは最後尾に入る。

 離陸許可が下りるのを待つ間、みんなの機体を眺めていると、月島さんが槙田さんに何か合図を送るのが見えた。位置が悪くてあんまりよく見えないけどね、角度とか。

 視線を上に向けると、先に上がったみんなが編隊を組んで旋回しているのが見えた。ひとつ前の編隊が旋回して、滑走路の先の上空が空くと離陸許可が下りた。

 月島さんが機体を前進させ始め、それに合わせてスロットルレバーを押し込んでいく。

 ぴったりと息の合った加速で機体が上昇できるくらいまで速度を乗せると、月島さんが上昇する兆候を見せた。当然、見逃すわけもなくしっかりと追従して編隊離陸をばっちりと決める。

 ……やった、多分決まった!

 そう思って槙田さんの方を見ると、ちゃっかり微妙なところをふらふらしていた。まじですか……。

 少し残念な思いをしていると、月島さんが少し機嫌悪そうに旋回して先生の率いる大編隊の方に合流するコースに乗った。月島さん、意外と感情がストレートに出るんだなぁ……。

 ていうか、あんまり急に旋回されると槙田さんが余計に付いてこられなくなるんじゃ……?

 と多少の不安を抱えながら自分の位置をキープする。ちらりと槙田さんの方を一瞬見ると、編隊から思いっきり離れてしまっていた。あらら……。

 なるほど、これが編隊飛行苦手な槙田さんのいつもの姿なのか……。と思ったら、ちらほらと二、三機ほどおんなじようなことになってる飛行機がいた。先生、このまま激しい機動やって大丈夫なの……?

 と一抹の不安を抱きつつ、わたしたちは無事に大編隊に合流できた。槙田さん以外。

「おーいはぐれ組、無事に帰ってこいよー」

 先生が間の抜けた声で呼びかける。はぐれ組って……。

 押し寄せてくる小さな笑いの波を押し殺しながらリード機の月島さんを見ながら旋回を続ける。『はぐれ組』は無事に合流できるんだろうか。

 先生が旋回してぐるぐる回るのから直線飛行に移行した。多分、槙田さんたちが合流しやすいようにだと思うんだけど、むしろ離れていってない?

 一抹の不安、どころじゃないかも。絶対機動中に槙田さんたち編隊からはぐれてどっか行っちゃうよね。もうこれは確信を持って言える。

 編隊飛行苦手組がきちんと位置に付くまでのんびりと飛んでいる間、時々機体が横風に揺られるのを楽しむ。なんか、がたがた揺れるのが楽しいんだよね。分かってくれる人少ないけど。

 編隊が直線飛行し始めてから、槙田さんたちはぐれ組がちょっとずつ寄ってきて、するすると本来いるポジションに近づいている。直線飛行のときの合流はやたらとうまい。さては、しょっちゅうしくじってやり直してるな?

 くだらないことを考えている間に槙田さんたちも合流できたので先生が編隊ごとに間隔を取って飛ぶように指示を出した。

 みんなはまちまちなタイミングで散開していく。ぱらぱらと編隊ごとに広がったのを見届けた先生は、全機を見渡せる辺りに上昇していった。

 先生がアクロバット機動を始める合図を出すのを待つ間深呼吸をして、首を回して肩から力を抜いた。ふう。激しい機動の前にいつもやっているから、これをやらないと落ち着かない。余分な力は抜いていかないと。

 少しすると、先生から各隊決められた演目を始めた。月島さんも、機体を引き起こしてループ機動を始めたから付いていく。操縦桿を引き続け、目の前から水平線が遠のいてまぶしい太陽が一瞬視界を奪った。

 再び眼が映像を捉えると、機は円弧の頂点を過ぎて地上の景色がキャノピー越しに見えた。

 ちょっと首を上に向けると月島さんの機体が見える。位置はずれてない。左右に視線を振ると、槙田さんと坂井さんの機体がちょうどベストな位置にあった。完璧なループが決まりそうだ。よっしゃ。

 そんなにGをかけずに飛んでいるから、ぬるぬると機体を水平に戻しながら月島さんたちとの位置関係を調整していく。やっぱり、だんだんずれるし。

 水平になった時に若干編隊を乱しつつ、次のフォーポイント・ロールに備える。槙田さんがふらっとどこか違うところに飛んでいっちゃいそうになってるのが気がかりだけど。

 槙田さんが帰ってくるまで、若干間があったからちょっとだれてしまう。

「さやか、ちゃんと付いてきてよ」

 月島さんが檄を飛ばした。

「が、頑張る!」

 槙田さんからは、既にいっぱいいっぱいな雰囲気が漂っているけれど大丈夫なんだろうか。無線を通じて、月島さんがため息をつくのも聞こえてきたし。槙田さんと坂井さんが空中衝突やらかさないか不安になってきた。

 一抹の不安を感じる中、月島さんがロールを始めたのを確認したからわたしも操縦桿を右に倒した。

 これ、個人的に得意な機動じゃないんだよね……。なんか、ちょっとバンク角がずれるし。

 視界の上下と左右が入れ替わるほんのちょっと前に、一瞬左に操縦桿を動かしてロールを停める。ラダーとエレベーターを動かして編隊内での位置が変わらないようにするけど、この操作もいまいちフォーポイント・ロールが好きになれない理由だったりする。四回もこんな微妙な操作したくない。正直言ってめんどくさい。ついでに言うと、ナイフエッジも好きじゃない。

 と思いながら四回きっちりロールして停めるのを決めた。バンク角がズレッズレだったけどまあいいか。

 槙田さんがやっぱり編隊からずれていっちゃってるから、いびつな隊列になっているのは相変わらずだ。




 いろいろと激しい機動を一通りやった後、それぞれの編隊ごとに順番に着陸していくのを眺める。本当疲れた。

 アクロバット飛行を、編隊を組んでやるのは神経をすり減らしながら飛んでいるようなものだから本当に疲れた。

「ゆかり、次は私たちの番だよ」

「え、あぁ。うん」

 ぼうっとしていると月島さんに呼びかけられた。ちょうど真後ろにいるのになんでぼうっとしていたのがバレたのやら分からないけど、自分の意識を呼び戻した。

 編隊からずれた場所を飛んでいないかチェックして、ほぼ完璧な位置にいることを確認。月島さんがトラフィックパターンに乗っているから特に考えることもなく付いていく。


 特に何の問題もなく着陸して、飛行機から降りたところで槙田さんが絡みにきた。

「ゆかりん、私だってちゃんと編隊飛行できるんだよ!」

 ……あれか。転校して間もないわたしが槙田さんの編隊飛行スキルをまったく信用してないからちゃんと飛べるよってアピールしたいパターンか。

「分かってるって、離陸したすぐ後は変なところかっ飛んでたけど」

 アピールされたら、ネタにするのは当然だよね。

「う、うるさい!」

 槙田さんは顔を紅く染めてそっぽを向いた。かわいい。

「そういえば、最近編隊着陸がうまくなってないですか?」

 坂井さんがぼそりと呟いた。確かに、槙田さんが変なところを飛んでいるのは離陸した後くらいな気がする。

「確かに着陸はうまくなってるよね、なんで?」

 月島さんが食いついた。

「なんていうのかな、離陸の時は上がった後変に力入っちゃって安定しないんだよね」

「いや、そこは力抜こうよ」

 思わず突っ込んでしまった。わたしは悪くない。

「離陸直後は緊張するんだよね、なんでか知らないけど」

 なにゆえ着陸の方じゃなくて離陸なのか、と思ったけど離陸の時も緊張はするから分からないでもないような。うむ。

 やっぱりよく分からないや。

「私の場合は、直後じゃなくて最中なんですけどね。あ、でも浮いた瞬間って時々怖いですねー。バランス崩して墜落、みたいな事故もありますし」

 確かに、ちょっと速度に乗り切れた気がしない時とか横風が強い時とか、条件が悪いと不安なことはある。たまにだけど。

「なるほど、槙田さんは離陸が苦手と」

「そうそう、離陸は一発勝負だからね」

 でも、事故がよく起こるのは着陸だからね。ていうか、槙田さんも一回着陸でやらかしてるからそっちのが怖いんだと思ってた。人って案外分からないんだなぁ、と再認識した。

「そんじゃ、全員集合」

 わいわいと雑談していると、先生が空から帰ってきていたようだ。いやいや、全然気付かなかったんだけど。ジェット機だからすごい音がするはずなんだけどなぁ……。

 まあいいや。そんなことより集合の号令がかかってる。


 クラス全員が整列したのを見届けた先生は、今日のフライトから見つけたいいところと悪いところをわたしたちに教えてくれた。やっぱり、第三者の視点から見てもらえると、コックピットの中からだけじゃ分からない所まで見てもらえるからいろいろと捗るんだよね。飛ぶ時の、旋回のタイミングとかロールの角度とか、傍目にどう映ってるのやら自分じゃ分からないし。

 で、今日のフライトを見る限り、一部編隊を組んだまま激しい機動を行うのがへたくそな人がいたらしく、編隊飛行の基本的な部分をしっかり復習するように言われた。槙田さんは大丈夫だったらしいからよく分からない。

「ゆかりん、前の学校で毎日編隊飛行してたって言ってなかったっけ? なんで今日私よりも先生の評価低かったの?」

 槙田さんがねえ今どんな気持ちしてくる。うわあ、腹立つわこれ。精神的になんか来るよね。

 槙田さんに一発お見舞いしたいのを頑張ってこらえ、今日まずったところがなかったか、飛んでいる間の動きを思い返してみた。旋回がいまいちうまくできてなかったのかな。位置が若干ずれてたらしいし。いや、ホークとタロンで僚機の見え方が違うんだろうか。うむむ、これはもう一回教本を読んでおかないと。

「ねーねー、ゆかりんの反応薄かったんだけど……」

 ふと我に返ると、槙田さんが月島さんに泣きついていた。わたしってなんかしたっけ? 身に覚えのない疑問が浮かんできたから、坂井さんに助けを求めるためにちらりと目を合わせた。ちらりちらり。

「……いや、わたしに聞かれても分からないですって」

「ですよねー」

 そりゃそうだ、槙田さんのことは槙田さんが一番詳しいんだから。とりあえずの方策としては、ねー今どんな気持ち事件はひたすらスルーしていくっていうことで。……ただそれだけ。


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