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生徒会と俺  作者: リュート
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狼会長と俺

桜に囲まれ鮮やかだった校庭は、徐々にいつもの姿に戻りつつある。

その景色を校舎二階の生徒会室から眺めながら深いため息をついた。その姿を見ていたらしいため息の元凶が俺に指示を飛ばしてくる。

「おい何手ぇ止めてんだ。ちゃっちゃか仕事しろ、ちゃっちゃか!」

机を挟んだ俺の正面から聞こえる、急かすような怒鳴り声。視線を向ければ、そこには俺と同じか、それ以上に手を動かして仕事を終わらせていく女子の姿が目に写った。

城澄真城きすみ ましろ。俺の通う芝学園の生徒会長であり、二年生。さらに俺のクラスメイト。文武両道にして超美人。にもかかわらずその美しさに似合わない乱暴な口調で話すのが特徴であり残念ポイントだ。

いや、見た目に似合わないわけでもないか。寝癖なのか少しボサボサ気味の肩まである黒髪は、犬っころを想起させるし。

まあこの獰猛さを見る限り犬ってよりは狼かもな。

「はあーあ。なんでこれと二人で生徒会やらなきゃならないんだよ……」

「ふん、他の役員が全員用事なんだから仕方ないだろ。だから働け」

「俺は役員じゃなくてただの手伝いだし……」

俺と城澄の間に位置する無駄に豪華な机に広がる紙の山を見る。

煩雑に置かれているわけではなくむしろ整頓してある七つの巨大な紙の山。綺麗に置かれてしまっているせいで、「汚いから多く見える」なんて逃避すらできない。

右の山から一枚ずつ紙を取っていき、無心になってホッチキスで止める。紙一枚分薄くなった山からまた一枚ずつ取っていき……

「だあー!やってられるか!どう考えてもおかしいじゃん!二人だけで全校生徒分の冊子作れとかどんな罰ゲームだよ!」

「文句言うじゃねえ。先生がやりやすいようにプリントを順番に並べてくれたんだ。なら、それをホッチキスで留めるくらい……私たちがやるべきだ」

「ちょっと溜めてかっこよく言うな!明らかにプリント並べる方が楽だろ!」

絶叫しながら手は自然と冊子を着々と作り上げていく。

ああ!さっきから無心でやり続けてたせいで体に動きが染み込んできている!

「せめて友達呼ぶなりしろよ……」

「はっ。お前はバカか?私に雑用を頼めるほど親しい友達がいるわけないだろ」

堂々と言うな。

「お前人付き合い苦手そうだもんなー」

「そういうお前はなんだ?友達呼ばなかったのか?それともいないのか?いないんだろう?いないんだよな!」

「みんな部活で忙しいんだってさ。この時期は後輩と仲良くなることに必死だから」

「と、友達つっても男友達だよな?どうせそうだよな!?」

「何を焦ってるんだよ。少ないけど女子の友達もいるに決まってるだろ」

城澄の手からプリントが落ちる。ホッチキスで留められていないそれは、床の上を面白いように滑りながら散らばっていった。

「そ、そんな……」

「訳分からないことで驚くな。ちゃっちゃか仕事しろ、ちゃっちゃか」

ついさっき言われたことを同じように言ってやる。別にちょっと根に持ってたからじゃない……根に持ってたからじゃない。

大事なことだから二回言っといた。

「はあ……」

生徒会室に重い空気が流れる。そんな中でもちゃんと仕事をしている俺たちは案外真面目なのかもしれない。

「…………」

時計の刻む音がさっきよりも遅くなったように思うのはきっと俺の気のせいだろう。多分静かになったせいで俺の中での一秒と時計が示す一秒がズレているのだ。

数分、数十分、数時間。時間が進んでプリントの山が減っていくにつれ、気が楽になったおかげか俺と時計の一秒が再び噛み合っていく。

時計とのズレがなくなると次はまた別の物が気になってくる。

例えば、さっきから話しかける機会を窺うようにチラチラとこっちに視線を向けているどこぞの会長のこととか。

「……なに?」

「えっ!ああ……いや」

珍しい。あの乱暴な、ともすれば噛みつきさえしそうな狼のごときこいつが、こんなに歯切れが悪いなんて。まあ大して話したことないから、実はよく知らんけど。

「言いたいことあるなら普通に言え」

「…………お前ってあいつと仲いいよな?」

両手が塞がっている城澄は顎でくいっと副会長の席を示した。

今年度の生徒会唯一の男子。こいつは、偶然にも美少女の揃っている生徒会の女子たちになんら興味を持たないせいでホモじゃね?と疑われているらしい。ちょっと可哀想だ。

ちなみに今日の仕事もそいつに頼まれたから来た。

「仲いいっていうか……他の奴らが話さなすぎなだけだろ?俺は普通に…」

「ふ、普通なのがおかしいんだろ!あの内申点と効率にしか興味のないような奴が普通の会話をするなんて……普通すぎて異常だ!」

と言われてもなあ……友達と話すことがおかしいって言われても困る。ていうかお前らだって仕事中は話してるんじゃ……ああ、そういやあいつ、仕事中の雑談は集中力回復のためだとか言ってたな。

「……なんだよお前、あいつのことが嫌いなのか?」

「別に嫌いじゃねえよ。あいつは大切な生徒会メンバーだからな。そういうお前はどうなんだ?」

「俺は好きだ。友達としても……それ以上としても」

「ふーん…………!?」

またもや城澄の手からプリントが滑り落ちた。そんなに落とすんじゃねえよ……。つーかさっき落としたプリントも拾えや。

「お、おまっ!え!?ちょ!……はあああああ!?」

「……なんだよそんなに取り乱して」

本当は分かってる。こいつが取り乱してんのはさっきのが原因なことくらい。でもあえてぶっきらぼうに会話をしなきゃこっちが爆発しちまいそうなんだよ!

「え?は?そ、それってつまり、あいつのことが……マジで?」

「……言わせるな」

俺をすごい目で見てくる城澄から目を逸らしながら残り少ないプリントの山を処理していく。この調子ならあと少しで終わりそうだな。

何回もホッチキスをパチパチしているとほんの少しだけ余裕ができた。落ち着いてからチラッとだけ、あいつに目を向けると口をパクパクさせながらいまだに停止していた。目は虚空を泳いでる。

処理落ちすんなよ。

まあ、この話題は俺から振ったんだし責任くらいは取るか。

責任つうか宣戦布告だけど。

「……俺は素直に言ったからな」

「……へ?」

「俺は恥ずかしいの我慢して、お前にそんな風に変な目で見られんの覚悟してちゃんと言ったからな!だからお前も逃げるなよ!」

「い、いやちょっと待て。お前何の話してんの?」

「お前がもしもあいつを好きになったときのための予防線だ。こうでもしないとお前は同じ土俵に立とうともしないからな」

「わ、私があいつを好きにって……ないない、それはない!」

「もしもの話だ……気にするな」

「いや無理だろ」

軽口を叩きながらプリントに手を伸ばす。白い紙の下にあったのは次のプリントではなく茶色の机だった。

「やっと最後……」

感慨深い想いに存分に浸りながら最後の冊子を作り上げる。

パチッ。

「終わったー!!!」

城澄がさっきまでの重い雰囲気を吹き飛ばすように叫んだ。正直俺も思いっきり叫びたい気分だったが、今のテンションで叫ぶと収拾がつかなくなる気がするから控えておいた。

「あーだるかった。じゃ、俺帰るわ。……さっきの話は……」

「言われなくても誰にも言わねえよ。私はそんなに口軽くねえ」

「言う相手がいないだけじゃないのか?」

「うっ!」

城澄にさりげなく大ダメージを与えながら生徒会室の扉に手をかける。窓の外をチラリと見れば、空は完全に黒に染まりきっていた。うわ、早く帰んないと。

扉を開け、「じゃあな」と城澄の方見ることなくひらひらと手を振りながら帰ろうとしたとき。

最後の最後に狼が牙を剥いた。



「やーい、キャラ作りのために一人称『俺』に変えたがさつ系女子なんて振られちまえー!!!」



「子供か!」

さっきのことを根に持った城することでから子供みたいな反撃を喰らいながら扉を全力で閉める。

まあ、あの程度の攻撃、気にしなくてもいいだろ。

………………………………………………。

き、気にしなくていいよな?あの鈍感副会長も「お前とは気軽に話せて楽だ」って言ってたし……あれ?もしかして俺、女として見られてないんじゃね?

た、確かにこの性格のせいで男友達の方が多いけどさ……みんなに「男と話してるみたい」って言われるけどさ……。

「う、うわああああああああ!」

ここが学校だということも忘れて叫びながら廊下を脱兎のごとく駆け抜ける。



狼会長の一撃は思ったより深く突き刺さった。

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