62.過去話 in ティータイム
前回のあらすじ:神竜王国大使館内に招待されたバアル達。一部の一般人が青い顔している中、いつもと変わらない魔王と四天王達はティータイムを楽しんでいた。そこにスコット君が戻ってきて情熱的にバアルを口説き、彼の過去を探ろうとしたのだった。
ス「相当ドライな聞き方だったと思いますが。」
スコットの申し出は、部屋に微妙な沈黙を及ぼしていた。盗聴した内容から、スコットは大使に言われた情報収集の為にバアル達の過去についての情報を聞き出そうとしている様にも考えられたからだ。
スコットも今更、しかもこんな場所でバアル達の過去を聞き出そうと言うのは強引に過ぎたし聞き方も悪かった、と言ってから気付いたが、もう後には引けなかった。それに、友人の事について殆ど何も知らないという負い目を今朝認識したばかりである。スコット自身も知らず知らずの内に自らの好奇心が高まっていたのだった。
「俺達の過去か、ならば俺から話すとしよう」
そしてバアルは、これが情報収集かも知れないと言う可能性を飲み込んだ上で、友情に応えた。
「バアル様……」
アナトーが心配そうに声をかけるが、バアルは笑顔でそれを制す。
「何、大使殿が来るまで今しばらく時間がかかるだろう。それまでの退屈しのぎだ」
バアルは正面に向き直ると、ソファーに深く座り直した後、茶を一口含み、香りを楽しみながらスコットを見つめる。
「さて、何から話そうか……、何がいい、スコット?」
いきなり選択権を渡されたスコットは動揺してお茶を零しかける。
「おわっと!? あー、えーと、……、ではバアルさんの子供時代の話しでも」
本当はバアルが居た世界の話しや治めていた国、統治体系やバアル自身の詳しい能力等を聞くべきと分かってはいるが、後ろめたさと焦りがスコットに無難な選択肢を取らせた。
バアルは子供時代の話しと言われて、頭を人差し指で支えながら、考え込んでしまった。
「子供時代か…そう言えば余り考えた事が無かったな」
「俺も聞いた事が無かったな。精々ファフニールと出会った後くらいからの話しか知らねぇ。…てかうめぇな、このパイ」
マグナダインは食べたパイに感心して、調理法の考察に意識を向け始めていた。カルニウェアンは完全にパイに集中していた。興味を持っているのはアナトー、エミリー、カミラ、スコットである。ファフニールは目を閉じて黙したままだった。
バアルは顎を摩りながら頭を傾けて記憶を掘り起こしていたが、突然ポンと膝を叩いた。
「おお、一つ思い出したぞ。多分一番古い記憶だ」
「ほ、ほう、何でしょうか?」
スコットは罪悪感を紛らわそうとバアルの言葉に前のめりになって耳を傾ける。
「うむ、『火山の噴火スゲー』だ」
「……は?」
「いやそんな呆けた顔をされてもな。俺が思い出せる一番古い記憶は火山の噴火の映像と、その感想だ。あとその火山は熱帯の密林地帯にあったな」
ブフゥッ!と後ろの方から誰か吹き出す音が聞こえた。犯人は、壁を向いて必死に笑いを堪えてウェーブのかかった赤毛がフルフルと震わせているエミリーだった。
「『スゲー』って…、『スゲー』って…」
「わーお、エミリーちゃんのツボにクリティカルヒットしたみたいですよ、やりますねバアルさん」
後ろの様子を確認したバアルは苦笑しながら肩を竦める。
「エミリーが過呼吸にならん様に気をつけて喋らんといかんみたいだな」
「はあ、火山の噴火がバアルさんの子供時代の記憶ですか…」
困惑顔で繰り返すスコットだったが、バアルは悩みつつそれを否定する。
「あー、すまんが、体は既に今と同じ状態だったから、正確には子供時代では無いかも知れん。千年以上前だとは思うがな。スコットには言って無かったが、俺は生まれた時の記憶や親の顔とかを覚えておらんのだ。そもそも親がいるかどうかも分からん」
「え、バアルさんは魔族の方では無かったんですか?」
そこでカルニウェアンが手を上げて会話に割り込んできた。
「私の曾おばあちゃんの研究では、バアルは魔族に見えるけど魔族ではない存在である、と結論付けられました。正直バアルみたいな能力を持った魔族とか私達の世界でも見たことありません。無論他の生物にもいません」
カルニウェアンはそれだけ言うと、次ぎのパイの攻略に移った。スコットはどう返したものか分からず、沈黙してしまう。その間もバアルは次々と思い出話を披露してくれた。
「そうそう、その火山の噴火の記憶は大層驚いた事でよく覚えている。噴煙が顔が真上に向くくらい高くまで上がってな、しかも暫くしたら降り注いで来るだろう? それがひどく嫌でな」
バアルは次々と発掘される古代の記憶を上機嫌に語り続ける。
「その噴煙や降り注ぐ岩石が鬱陶しくてな、どっか飛んで行けと思ったら風を操れるようになったのだ」
ブーッ!!
今度はカルニウェアンがお茶を吹き出した。カルニウェアンは、バアルを大きく見開いた目で見つめながら問い詰めた。
「初耳ですよ? 私が聞いた話では、『いつの間にか使えるようになっていた』って言ってたじゃないですか!」
「その時は思い出せんかったのだ。許せ」
「曾おばあちゃんも絶対同じ事聞いたはずなのに!!」
「その時も思い出せんかったんだ、まあ早く聞き取り調査を終わらせたくて適当に答えた可能性もあるが……」
「……もういいです」
カルニウェアンは拗ねてまたパイを食べ始めた。その横ではマグナダインが布巾で一生懸命カルニウェアンが吹き出したお茶を拭いている。
「それで、風を操れると分かってからは能力制御の練習がてら、火山灰や岩石などを全部火口に戻す作業をしてたな」
「危なくないですか!?」
スコットが思わず突っ込むと、バアルは後頭部をポリポリ掻きながら恥ずかしそうに笑う。
「うむ、今思うと相当無茶をやった。火口を塞げば火山が大人しくなると思ったんだ。実際、その後しばらく噴火や地震が収まったんだが、数日後に前よりでかい噴火が起きて二度びっくりしたな」
「文明圏から離れたところにバアルが生息していて良かった……」
「同意だわ。異世界に居てくれて良かった……」
カルニウェアンとエミリーは揃ってバアルを半眼で見つめる。その眼の奥には『もうそんな事はしないよな?』という願いと『するかも知れない』という疑念が渦巻いていた。
バアルは居心地悪そうに座り直すと、咳払いをしてまだまだ話を続ける。
「その時に大きな地震もあってな、大地が揺れるのがまた鬱陶しかったんで地震が止まらんかなーと思ったら止まったんだ。その時に大地を操る力も手に入れたんだと思う」
「へー、じゃあその噴火で起きた火事を止めようとして火と水の操作も思いついたんですか?」
カルニウェアンが適当に無茶苦茶な理論を言い出すと、バアルは感心したようにカルニウェアンに向かって頷いた。
「おお、よく分かったなカルニウェアン。その通りだ。火事で火というものを間近で見る機会を得たからだと思うが、自在に火を出せたし、逆に沈静化も出来た。水は雨が火を消したところから思いついたな」
「もういいです……」
ついにカルニウェアンはパイを食べる手を止めて俯いてしまった。バアルが、実は思った以上に適当な感じで最強の能力を手に入れていたと知って虚しさが去来したらしい。
「氷は、偶々気が向いて北上した時に川に張った氷を見て面白そうだったから踏み抜いた時だったな、そこで水が氷になると知って氷を操る事もできるようになったのだ」
「大自然から様々な知識を教わっていたのですね」
スコットは笑みを浮かべながらそう返す。荒唐無稽に聞こえる話だったがスコットには不思議と信じられた。バアルの規格外さは、今までの付き合いで十分知っているからだ。
バアルはにこやかに微笑みながらスコットの言を訂正する。
「知識だけでは無いぞ、他にも大事な事を沢山教わった」
「ほう、例えば?」
そこでバアルは黙る。適切な言葉を探しているようで、何かを呟いては否定する事を数回繰り返す。そして納得の行く言葉が見つかったのか、顔を上げる。
「そう、哲学だな」
……
「哲学ですか…?」
スコットだけでなく、他の全員も首を捻る。
「俺もそこまで分かっているわけでは無いから、簡単にしか言えんぞ。俺の中で哲学は、『己の目的の為に考える事』だ」
そこでバアルは言葉を切り、微かに沈んだ表情を浮かべる。そして考え、区切りながら自分の経験を語りだした。
「ある時、美しい鳥に出会った。その鳥は見た目が美しいだけでなく、鳴き声も実に見事なものだった。俺はその時、初めて食べる目的以外で物を『欲しい』と思った」
「俺は飛んだり跳ねたりして鳥を捕まえようとした。何回も逃げられたが、ついにその鳥を捕まえる事が出来た」
「それは良かったですわね」
アナトーは純粋にバアルを祝福した。だが続いて発せられたバアル言葉に凍りつく。
「その鳥は俺が捕まえた瞬間事切れた。強く掴みすぎたんだろうな」
沈黙が部屋に降ちた。
「俺は死んで鳴かなくなった鳥をそこら辺に捨てて、また別の同じ種類の鳥を捕まえに走り出した。鳴かない鳥に興味が無かったからな。その後また何回も同じ種類の鳥を捕まえた。そして同じように何回も握り殺した。ようやく俺は強く握り過ぎていた事を知った」
バアルは皆が沈黙している事には気づいている様子だったが、変わらず淡々と喋り続ける。
「更なる試行錯誤の末、やっと生きたままその鳥を捕まえる事が出来た。苦労したからな、今までに無い程の達成感があった。……だが、捕まえた鳥はいつもの様に鳴かなかった。耳障りな、甲高い声で鳴くだけだった。苛立った俺は苦労して捕まえたその鳥を握り殺した」
「その時、『俺は何の為に鳥を捕まえようと思ったんだ?』という疑問が湧いた。……俺はその時初めてまともに頭を使ったんだと思う。考えた末、『美しい鳥を見ていたい、美しい声を聞いていたい』という欲求にたどり着いた。だが、今までの行為を振り返ると、俺は徒らに鳥を絞め殺し続けただけで、その欲求を叶えていない。やり方がまずかったのか、捕まえる事そのものがいけなかったのか、また思考の迷路に俺は迷い込んだ」
「思考の過程で、俺は『何故鳥が死ぬのか?』『鳥が弱すぎるからだ。』『鳥が弱いのか、自分が強いのか?』『おそらく自分が強い。』『何故自分は強いのか?』『そういう風に生まれたから』など、もはや元も欲求の事なぞ忘れて様々な思考を行う事に没頭した。まあこの頃はまだ言語を習得してなかったからな、もっと稚拙な論議だったろうが」
「そうして、俺は自分の目的が何であるか意識するようになった。まあ目的というか、感情だろうな。自分がどうしたいのか心の中で明確にするように努めることにした」
ここまでは大自然に教わった事だなと言ってバアルは一区切り着けた。
「ここからはまた別の話だ。その後、初めて俺と似たような形態をした、確か獣人の部族だったと思う。彼らの集落に迷い込んだりした。俺は物珍しさで入っていっただけだったが、向こうは相当警戒したな。なんせ俺は裸だったし」
「は、裸のバアル様……!!?」
後方でアナトーが鼻を押さえて壁まで後退したが、バアルは極力それに気づかないフリをして話を進める。
「俺に攻撃してくる奴らもいたが、俺は彼らへの興味が残っていたので、一旦離れて遠くから観察する事にした。すると、ある日大きな魔獣がその集落を襲った。俺は集落を助けたいと言うより、面白い観察対象を潰されるのが我慢出来ずにその魔獣を倒した。その魔獣の肉がうまい事も知ってたからな。その時から、集落の人間が俺を受け入れるようになった」
「服を貰い、言葉を教わり、習慣を教わり、子供、大人、老人、死、という命の繋がりを教わった。子供達が大人になり、老いて死んでいっても俺は変わらないままだった。そしてその間、何度も集落の危機を救ったせいか、いつしか神として祭り上げられた」
「へー神様だったんですかバアル。拝み奉りますから、食べないならそのパイ下さい」
カルニウェアンはいつの間にかパイ食を再開して、しかもバスケット一杯のパイを完食していた。バアルは自分のパイを皿ごとカルニウェアンの方にずらすと、また一口お茶を飲んだ。
「だがその集落も二百年と立たない内に滅んだ。疫病でな。俺にはどうする事もできなかった。俺だけは病にかからず生き残った。悲しみと寂しさでしばらくその地を離れられなかったよ」
「その後は各地を転々としてたな。色んな種族とあったが、一所にはなるべく留まらない様にした。別れが辛くなる前に別れるようにしたんだ。その間に多くの言語や習慣を学んだな。いい奴とも悪い奴とも出会った。多様な種族、多くの知識を手に入れたな」
そこまで目を閉じて黙って聞いていたファフニールが突如眼を開けた。
「……僕と出会ったのは、それからですね」
バアルとファフニールは互いにその時を懐かしむ様に微笑みあった。
それを聞いたエミリーは何かを思い出したのか、あっと声を上げる。
「バアルとファフニールが出会ったって……、あっ! 二人が大喧嘩した時の話!?」
「お、大喧嘩?」
エミリーが思わず発した話にスコットは困惑する。バアルに対して尊敬の念を忘れないファフニールとバアルの間に喧嘩があったとは想像もつかなかったからだ。
バアルは首を回してエミリーを見ながら解説する。
「それはもうちょっと後だな。俺がファフニールと出会った時は良好な友人関係だったぞ」
「あの時の新鮮な驚きは今でも思い出せます」
ファフニールはうんうんと頷きながら、楽しそうに口元を緩めた。
バアルは顔を戻すと、茶器をテーブルに置いて、足を組みながら、後ろ手に手を組んで頭を支える。
「とある街に寄った時に恐ろしいドラゴンの話を聞いてな。面白そうだと思った俺はつい、ファフニールの居る場所まで探検に行ったんだ」
「あの時は……、そうだ、僕が昼ご飯を食べている時でしたね」
珍しいことにファフニールが饒舌にバアルの話に加わり、語り出した。二人は仲の良い友人の様に話を続ける。
「ああ、俺が木々の合間を抜けたら、森の中にぽっかり空いた広場みたいな場所で、大きな象のような魔獣を食べている最中だった」
「僕を見ても、悲鳴を上げずにじっと見てくる人間なんて見たこと無かったから、思わず『食べる?』って差し出したんですよね」
「そうそう! そうだった。その後俺の能力で焼肉にして二人で食べたな。調味料が余り無かったのが悔やまれた」
「塩気が欲しくて、二人で山まで岩塩を取りに行った事もありましたね……」
「お前の頭に乗ってな。いやあ、楽しかったなあの時は」
はっはっはと笑い合う二人を、奇怪なモノを見る目でスコット達は見ていた。バアルはともかく、声を上げて笑うファフニールは視聴者の心臓に悪かった。
「やばい、別の意味で気分が悪くなってきた。カミラ、この空間て安全だと思う?」
「だだだ、大丈夫だよ~~、ここが既に異界だって事は無いと思うから~……」
「『魔力精査』」
「別に異界にはなっとらん!! 落ち着け、カルニウェアン、エミリー、カミラ!」
バアルが一声掛けると、一応落ち着いたのか、ザワザワと騒いでいた三人は黙る。ファフニールはちょっと気分を害した様だったが、普段の自分の行いを省みて納得はした。
「ファフニールと出会ってから、一年くらい一緒に暮らしていたんだ。その間は二人で楽しく遊んで暮らしていたな。言葉や知識を教えたりもしていた。大喧嘩したのは……、確か別のドラゴンがファフニールに喧嘩を売りに来た時だったな。大体五百年前の話だ」
「……ああ、次は私の一族の話ですね」
今度はカルニウェアンが懐かしむ様にポツリと零した。
「それももうちょっと後だな。とにかく、別のドラゴンがファフニールに喧嘩を売った。ファフニールはその喧嘩を買って、二人は争った」
「結果はどうだったの?」
エミリーが興味をそそられたのか会話に加わって来た。バアルは体を横向きにして、エミリーとスコットを視界に収め易いように姿勢を変えると、続きを話す。
「ファフニールの圧勝だった。そのドラゴンはファフニールに傷一つ付ける事が出来なかった。だが戦いが終わって、そのドラゴンがファフニールに組み伏せられた時に、苦し紛れに暴れたドラゴンの腕が、小さい岩を弾け飛ばしてな、それがファフニールの目に入りそうになった」
「それをバアル様が能力で防いでくれたんだ。……そしてその行為が僕の逆鱗に触れた」
「え……、どういう事?」
エミリーが困惑して尋ねると、これまた珍しく、ファフニールは恥ずかし気に俯いてボソボソと話し始めた。
「僕は……、バアル様の事を『自分よりか弱い友人』と思っていた。……そのか弱い友人に守られたという事が、僕のプライドに傷を付けたんだ……」
「今度は、さっきまで戦っていたドラゴンそっちのけで俺とファフニールの戦いが始まった。いや、びっくりしたぞ。思わず岩を弾いたら、しばし呆然としていたファフニールが、激怒して襲いかかってくるんだからな」
「あの時は完全に頭に血が昇っていて……、余りよく覚えていません」
「そうか? 最初はただ単純にファフニールの振り下ろす腕を避けていたんだが、業を煮やしたのか今度は炎のブレスを吐き出してな、俺も能力で竜巻を起こして火を霧散させたりした。その当たりから俺も理不尽に怒るファフニールにキレてしまって大喧嘩に発展したんだ」
「……ファフニールって、キレると一国を滅ぼせるって聞いたけど」
「事実だぞ。実際に俺達の大喧嘩で地形が変わったしな。人里離れた場所で良かったぞ、全く」
「砂漠と凍土と腐り果てた土地が共存する意味不明な土地になったってのも聞いたけど……」
「ああ、それは元々砂漠の土地だった場所に、ファフニールが大規模な極冷凍ブレスと極腐食のブレスを撒き散らした結果だろうな。極低温の冷凍ブレスであっという間に凍土は完成。腐り果てた土地は、腐食のブレスが周りの動植物を巻き込んで溶かし、腐った地形になったんだろう」
「おっかない!? ファフニールって何種類のブレスが吐けるのよ!?」
「……何種類だっけ。最近吐いて無いから忘れたな……」
「忘れないで下さいよ、ファフニール」
カルニウェアンは呆れ顔でファフニールに文句を言う。
「七種類ですよ。炎、冷気、腐食、石化、暴風、雷撃、破壊の七つです」
「……まだ吐ける種類があった気がするが……、そんなものかな」
「曾おばあちゃんの研究成果にまた穴が見つかった!?」
頭を抱えて唸るカルニウェアンを横目で見ながらバアルはエミリーに解説を続けた。
「まあ、どれもこれも危険なブレスだったが、特に破壊のブレスがきつかったな」
「何よ…、破壊のブレスって?」
「ブレスと言うより、巨大な魔術の様だったな。ファフニールの口に光が収束して、矢より遥かに早い速度で打ち出されるんだ。そして着弾地点で大爆発を起こす。爆発後の火と暴風は能力で防げたが、光弾そのものは能力でも打ち消せなかった」
「へえ、じゃあ苦戦したんだ」
「ああ、かなりしたな。光弾を避け続けていたんだが、ある時しくじって直撃を貰ってしまってな、……それから先の記憶が無い」
「? どうなったのよ?」
要領を得ないバアルの言葉にエミリーはもっと詳しくと急かす。
「結果だけ言えば、ファフニールは全身を傷だらけにして地に伏せ、無傷の俺が立っていたと言う事実だけだ」
「僕の断片的な記憶では、バアル様が何か異なるモノ変貌し、その存在の拳によって僕の鱗は散々に砕かれたという事だ」
「ブレスは効かなかったの?」
「全てのブレスが意味を成さなかった。何度直撃させても傷一つないバアル様が襲いかかって来るだけだった。そして初めて敗北した僕は、バアル様の乗騎にして貰ったんだ」
うっとりと言う言い方が一番似合う様子で、ファフニールは遠い目をしていた。その様子が余りにもファフニールに不似合いで、周りの皆は吹き出しそうになる。
それまでひたすら聞き役だったスコットは、その時にようやく言葉を発する機会を得た。
「なんと言いますか……、出鱈目ですね」
その言葉に我慢出来なくなったバアル達とスコットは、一頻り大笑いをするのだった。
バアル達の過去話を入れてみました。本来はもっと最初の方で書くべき何でしょうけど、設定が練り込まれて無く先送りにしておりました。申し訳ありません。
次回土曜日にはなんとか一話上げるつもりですが、短くなったり内容に不備が出るかも知れません。ご容赦下さい。
2013/12/10 誤字訂正 *ご報告有難う御座いました。
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