56.晩餐会から風呂へ
前回のあらすじ:物乞い天使マキシマに街の実情と自堕落な天使の一面を解説されたバアルは異世界文化に戸惑いつつも街を満喫した。そしてついに始まる猫耳クローディアの晩餐会。一体バアル達はどのように調理されてしまうのか?
マ「俺らが食材か!?」
一旦宿近くまで来たバアル達は、荷物を置くついでにマグナダインに伝言とファフニールの呼び出し(ちゃんとバアルは覚えてた)を頼むと、クローディアの言っていた店に向かった。その店は『犬の貴婦人』亭から二軒挟んだだけの場所にあり、ちょっと説明すればすぐ分かる位置だったので、後から来たマグナダインとファフニールも問題無く合流出来た。
クローディアの親族が経営している店は『鈴蘭』という名前の店で、鈴蘭の描かれた銅製のプレートが店内、店外問わず、目に付く場所に幾つも取り付けられていた。内部は『犬の貴婦人』亭と似ていたが、より装飾が増されており、タペストリーやベルベットのカーテンで飾り付けられていた。カミラが名前を出すと、身なりの整った初老の猫耳男性がバアル達を奥の部屋まで案内してくれた。
その部屋は中央に大きな丸テーブルがあり、その周りを囲むように椅子が十脚並べられている。白いテーブルクロスの上には既に人数分のナプキンと食器が用意されていた。食器は銀製で、陶磁器の皿が一枚置かれている。部屋の隅にある棚の上に、ガラスの花瓶に埋けられた鈴蘭が飾ってあり、奥の壁には凛々しい猫獣人の男性の肖像画がかかっていた。
「うん、実に落ち着かないな」
「やっぱりバアルもそう思うか? 俺もだよ。特にあの肖像画がなぁ…」
バアルとマグナダインは席に着きながらそわそわと身動ぎする。肖像画は縦一メートル、横七十センチ程の大きさで、猫獣人の男性の胸から上が描かれており、顔をこちらに向けた状態で描かれている。。ドアップにされた猫耳男性の絵は、静かな威圧感を持ってバアル達を見つめていた。
「そんなに気にしないでいいですよ~。別に絵から出てきて私達を取って食べたりはしませんから~。この肖像画はクローディアさんの祖父にあたる方ですから、あんまり気味悪がるとクローディアさんが怒りますよ~」
カミラはのんびりとマグナダインを注意しながら、肖像画の真正面にある椅子の一つ隣の椅子に座る。肖像画の真書面の椅子がクローディアの席らしいので、バアル達はそれ以外の席に思い思いに座ると、クローディアの来訪まで待つことにした。
「そう言えば、エミリーは面会予約は取れたのか?」
話題を思いついたバアルはエミリーに質問してみた。エミリーは渋い顔でカミラを指差す。
「そこの吸血鬼が商売根性出しちゃってね~、神殿で血の購入の値引き交渉始めたせいで結局行けなかったわ。もうちょっと妥協しても良かったじゃない」
「だって、手持ちのお金そんなに無いし、一瓶金貨八枚は暴利ですよ~。てか物価高いですよね、この街」
「あー、確かにな。俺も色々食材見たけど、結局買ったのあの種だけだったし」
頬を膨らませて反論するカミラにマグナダインが同調した。そんな会話をしていると、通路の方から足音が聞こえて来て、
バン!
と音を立てて扉が開かれた。それに合わせてバアル達は立ち上がる。扉の先に居たのは無論クローディアだ。
「あらあらあら、皆様お待たせしましたわね。でもちょっとせっかちさんですわよ、こういうのはホストが先に来ておいて皆様を迎えるのが通例ですのに、でもこうして迎えられるというのも悪くないと気づきましたからチャラにして差し上げますわ。と言うわけで、ようこそ我が晩餐会へ」
早口で捲し立てながらクローディアは一番奥の肖像画の真ん前にある椅子に向かい、その席の前に立つと頭を下げてバアル達を歓迎する。
それにバアルが代表して返礼する。
「この度はわざわざ晩餐会を開いて頂き感謝する。マナーを余り弁えぬ無作法者故、非礼のあるだろうがご容赦願いたい」
クローディアはにっこり笑ってバアルの返礼を受け取ると、皆に着席を勧めた後、給仕にワインを持ってくるよう伝える。
「今宵は精一杯のおもてなしをさせて頂きますね。まずは乾杯といきましょう」
そして給仕が全員にワインの入ったグラスを渡したのを確認すると、クローディアは高くグラスを掲げる。
「親しい知人が新たな出会いを連れて来てくれたこの良き日に……、乾杯!」
皆の乾杯! の声が唱和した。
……
クローディアの乾杯の音頭が終わってから、粛々と料理が運ばれてきた。蕪を裏漉ししてクリームを加えたポタージュスープ、数種類の野菜で造られたサラダに冷製ローストビーフ等、高級感のある料理が次々に出てきて、滅多にお目にかかれない料理にバアル達は無言で舌鼓を打った。
それらがひと段落した頃、徐にクローディアはバアル達に話しかける。
「ご満足頂けたかしら? ここは私の叔父が経営している店で、アイウーズ市でも上位に入る味を提供していると自負しているのですが」
それにバアルはにやりと笑みを浮かべ答える。
「謙遜した言い方をされるな。これは俺が今まで食べてきた中では二番目に旨い料理だ。うちの料理担当も中々の腕前だと思っていたが、これには及ばんな」
「ぐぅ…! 舐めるなよ、バアル。食材と適切な調理場があればこれ位俺でも作ってみせる……!!」
「無理でしょ。マグナダインの料理は家庭料理が基本になってますから、こう言う美食を追求した料理とは方向性が違いますもん」
普段の暴飲暴食っぷりが幻に見える程カルニウェアンは上品に食事を楽しんでいた。その気になればテーブルマナーを弁えた食事が出来るのだろう。
バアル達の会話を聞いたクローディアは耳をピンと立てて興味深げにマグナダインを見つめる。
「マグナダインさんて料理も出来るの? …家庭的な男性って見た事なかったから、一度マグナダインさんのお料理も味わってみたいわぁ」
じっとマグナダインを凝視するクローディアは、鼠を前にした猫のようにウズウズしている様にも見えた。…周りに人が居なかったら飛びかかっていたかも知れない。それを牽制する様にブリジットが無言でクローディアを睨みつける。クローディアはその視線に対抗する様に目を細めて迎え撃つ。
剣呑な雰囲気を察知したのかカミラがクローディアの横から口を挟んだ。
「ところでクローディアさん、ベネット・トライドンさんてご存知ですか?」
クローディアは ん? と首を傾げながらカミラの方に視線を移す。
「ベネット・トライドン……、アイウーズ市市議会議員よね? カラド湖にあるトライドン水産加工ギルド取締役の」
「その人です。実はその人とお会いして頼みたいことがあるんですよね~。明日行ってすぐに会えると思います?」
「用件によると思うけど…、何かあったの?」
怪しんだクローディアが眉根を寄せて聞いてきたので、カミラはエミリーの事情を大雑把に説明する。
するとクローディアは感動したようにふるふると震え、涙を浮かべながら隣に座っていたエミリーに抱きついてエミリーを絶叫させる。
「みぎゃーーーーー!?」
「大変だったのね、エミリーちゃん、ヘタレな親に借金のカタにスケベオヤジに売られそうになるなんて…! いいわ、ベネットさんに世話してもらわなくても私が貴方の住居を用意してあげる!! なんなら私のうちに下宿なさいな、毎日ベッドに遊びに行ってあげるから!」
「くぅ!? こいつもカミラと一緒で女でも構わず襲いかかる性質だったのね!」
「違うわ、エミリーちゃん。私はネコよ」
「どっちの意味!?」
ぎゃーすか騒いでいるエミリーとクローディアだったが、その間をカミラが無理矢理割ってエミリーを助け出す。
「クローディアさん、本当はノンケの癖にエミリーちゃんを惑わせないで下さいな。こういう話題に敏感な年頃なんですから」
「その責任の大部分はアンタのせいでしょうが! いいから腰に回した腕を放しなさいっての…!」
エミリーに抱きついたままクローディアと話すカミラの頭をぐいぐい押しながらエミリーは抵抗する。おもちゃを取られた猫のように寂しそうにエミリーを見ていたクローディアだったが、バアル達が自分を見ている事に気づいて、コホン、と咳払いを一つすると澄まし顔で話題を変える。
「あらあらお見苦しいところをお見せして失礼しました。ワインのお代わりは如何です?」
「いや、もう結構」
「百合臭くって、香り高いワインでも誤魔化せそうに無いですからねぇ。…イタッ」
ペチっと音がしてカルニウェアンの額が少し赤らむ。豆粒状の風が額に当たったらこんな音がするのでは無かろうか。バアルの苦々しい表情と唇を尖らせながらバアルを睨むカルニウェアンの姿が、クローディア以外の者達の間に何があったか理解させた。
クローディアはしばらく訝しんでいたが、それを飲み込んで席に戻ったカミラに話しかける。
「ベネットさんなら私の叔父経由で連絡を取れば、明日の午後には会えると思うわよ。彼ここの常連だし」
「あ、ならついでにうちのスケベ店長の名前を出しといて下さい。頼みたいことがあると添えて」
「アンディさんの名前を出していいのね、分かったわ。…もしベネットさんが住居の手配出来ない時はすぐに私に言いなさい。部屋の一つや二つすぐ都合つけてあげるから」
「……そ、その時はお願いします」
顔はにこやかだが眼が笑っていないクローディアを見返しながら、エミリーは引きつった顔で一応そう言っておいた。
エミリーの返事に満足したクローディアは顔を正面に戻し、そして視界の端にあったバアルの胸元に注目した。
「あら、その羽は…?」
「む、これか?」
バアルは胸元から純白の羽を取り出す。今日の昼過ぎにマキシマからもらった羽を懐に入れたままだったのだ。
マキシマの羽を見たクローディアは珍しい物を見たと歓んでいる。
「それは天使の羽ですわよね。持っていると幸運が訪れると言いますけど、どこで手に入れたのですか?」
「そうなのか? …これは街で出会ったマキシマと名乗る天使からもらったのだ」
マキシマの名前を聞いたクローディアは得心したと頷いた。
「マキシマさんの羽だったのですね。確かにあの方は稀にご自分の羽を親しい人に差し上げることがありましたから」
「知っているのか?」
「ええ。この都市がエロハイム共和国に編入されてすぐに移住されて、それからずっと住んでらっしゃる天使様ですから。まさしく都市の生き字引ですね。この都市で彼が知らない事は無いんじゃないでしょうか」
「ふむ、聞く限りではあるが、クローディア殿はマキシマ殿に敬意を抱いているようだ。しかしマキシマ殿は自分を見て不快に思う人間がいる、ような事を言っていた。クローディア殿のような人は珍しいのかな?」
バアルが確認する様に問うと、クローディアは困った顔をして小首を傾げる。
「そうですねぇ……神官さんや上流階級の方は余り良く思われないでしょうね、特に他の天使の方々は。マキシマさんは戦いが嫌いだと公言する方ですから、未だどこかに潜んでいる悪魔から人民を守る盾を自負していらっしゃる他の天使様方から情けない仲間と蔑視されています。でも私はマキシマさんがとても優しく英知に満ちた方だと知ってますので、身なりや思想が多少変わっていても他の天使様達と同様の敬意を払いますわ。私と同じ考えの者は少なくないと思います」
「フフッ、慕われているのだな」
バアルは昼にあったマキシマとの会話を思い出して苦笑する。身なりや態度はとても上品とは言えないが、憎めない人柄である事は十二分に理解できた出会いだった。
クローディアはバアルがマキシマとどんな会話をしたのか想像したのか、愉快そうに笑う。
「ほほほ、バアルさん達はこの街に来て一日目にして街一番の名士とお会いしたのですね。他にどんな事があったのか、よろしければ教えて頂けませんか? それに、この街に来るまでのお話も聞きたいわぁ」
「よかろう、出来る限り善処する」
そうして和やかに晩餐会は進んでいった。
……
その後、特にマグナダインが絡まれる事も無く無事に晩餐会を終えられたのは偏にエミリーの功績だろう。興味の対象がエミリーに移ったのか、クローディアはその後エミリーに盛んに声をかけ、カミラとエミリーの取り合いを繰り広げていた。そのおかげでブリジットの警戒心は多少下がったものの、まだ少し機嫌は悪く、晩餐会後は黙って『いくさ丸』に戻った。
代償として二人に取り合いされたエミリーは凄まじく消耗してしまい、晩餐会の終わった後ではエミリーの眼のハイライトが消えていた。
「も…う…、お風呂入って寝たい……」
蚊の鳴くような声でエミリーはよろよろと『犬の貴婦人』亭のロビーを歩く。バアル達は晩餐会が終わってクローディアの帰宅を見送った後、宿まで直行していた。ブリジットは既に『いくさ丸』に戻っている。
「そうですね、私達も一緒に入りましょうか、アナトー。エミリーがあの様子だと湯船で溺れるかも知れません」
「それは無いと思うけど…、でも一緒に入るのは賛成だわ。ついでにカミラの監視もしなくちゃいけないし」
「いや~、さすがに折檻くらった次の日に服の臭い嗅ごうとはしませんよ~」
グフフと笑うカミラの顔には何の信憑性も見つけられなかった。そうこうしているとエミリーがロビーの青年に風呂に入りたいという要求を伝えていた。青年は了承すると、一人のメイドを呼び出す。
「この者がご案内致しますので、どうぞついて行って下さい。タオル等はこちらで用意してますので準備の必要は御座いません」
受付の奥から現れたメイドはエミリー達に向かって一礼すると、客室とは別方向に向かう通路へエミリー達を案内しだす。
バアル達もそれに続こうとすると、受付の青年が慌てて止める。
「失礼します、お客様。当宿の風呂場は大浴場一つだけで御座いまして、時間交代制となっております。この時間は女性専用のお時間です」
「そうなのか。男性用の時間はどれ位後だ?」
「は、大変申し訳ありませんが本日の男性用のお時間は終了しておりまして、一番早くて明日の八時からとなります」
現在時刻は夜の九時前であり、これ以降に入る者は普段余りいないらしい。
「これは失敗だったな、風呂に入ってから晩餐会に行くべきだった。…どこかで行水はできるか?」
「……、少し離れてはおりますが公衆浴場が御座います。少々治安の悪い地域ですのでお薦めは出来ませんが…。ただその、中庭などで行水されますと、他のお客様のご迷惑になりますのでご遠慮頂けますか?」
たどたどしい口調で青年はバアルを押し留める。普段の客層と違う雰囲気のバアル達に戸惑っているようだ。バアルはその気配を察し、これ以上青年の心労を増やすのも忍びないと思って、公衆浴場に行くことにする。
「ならばその公衆浴場に向かおう。マグナダイン達もそれでいいか?」
「俺は別に構わんぜ」
「僕も構いません」
「私も異論はありませんよ。旅の垢を落として寝たいですし」
男性陣の了解が取れたので、バアルは青年に公衆浴場の場所を聞く。歩いて十五分から二十分と確かにちょっと遠目の場所だった。
「申し訳ありません、バアル様。私達だけこのような…」
「気にするな、アナトー。ゆっくり疲れを取ってくれ。それとエミリーの事を頼む」
恐縮するアナトーを労ってバアル達は夜の街に踏み出した。
夜九時を回ったアイウーズ市だったが、丁度酒場などが一番盛り上がる時間帯なのか、まだまだ人通りは耐えなかった。酔客の大声と給仕の女性の威勢のいい掛け声が店から通りに響いてくる。
そんな中をバアル達は公衆浴場に向かっていった。バアルは若干興奮気味に足を動かす。
「公衆浴場などとはついぞ縁が無かったからな。一体どういう場所なのか……、楽しみだ」
「そんなにいい所じゃないぞ。でかい湯船があって洗い場があって終わりだ。人が多いとぶつかったりしてトラブルが起きやすいから気をつけろよ」
期待に瞳を輝かせるバアルをマグナダインはため息混じりに押し留める。
バアル達が公衆浴場に向かう途中、冒険者ギルドの前を通過した。その時、スコットが冒険者ギルド前の賞金首掲示板を見て声をあげる。
「窃盗団ですか。この街も意外と物騒みたいですね」
その声にバアル達は足を止め、スコットが見ている掲示板を覗き込む。そこには似顔絵と共に罪状と賞金が書かれていた。
「なになに…、スリ、置き引き、窃盗、空き巣を行う窃盗団の首領ゲイル、こいつが金貨八十枚か。相当盗みを働いたんだな、この窃盗団」
「強盗や傷害事件を起こさずにこの金額は確かに高いな。気をつけるとするか」
顔をよく見て覚えたバアル達は再度歩みを再開した。
……
「おかしいとは思ったんだ…、この時間まで空いてる公衆浴場って変だって……」
「マグナダインよ、何故薄着の女性が公衆浴場の入口で屯しているんだ? しかも男性用入口の前で」
バアルが公衆浴場の方を指差しながらマグナダインにそう聞いてきた。一応予想はしているようだが、確認のつもりだろう。
公衆浴場は二階建ての大きめの建物で、正方形の形をしている。入口は二つあり、男性用と女性用の入口が等間隔に並んでいる。内部は真ん中で区切られており、男性用浴場と女性用浴場は長方形の形になっているのだろう。
そして一番の問題は、公衆浴場のすぐ隣が色街に続く通りだった。
「あ~~~…、多分ここで体を洗ってから出待ちしているねーちゃん拾って色街でよろしくやる、ってシステムなんだろうな。病気とか流行りにくくはなりそうだが、あからさま過ぎるだろ」
実際女性用浴場はひと仕事終えた娼婦が体を洗いに来ているようだ。逞しい娼婦は浴場から出たらまたすぐに男性用浴場の入口に立つ者もいる。
「マグナダイン様、分かってらっしゃると思いますが……」
「浮気なんてしねぇよ! そんな金も無いし。もういいからちゃちゃっと風呂入って帰ろうぜ」
背後から溢れ出る『いくさ丸』の殺気混じりの警告を遮って、マグナダインはバアル達を促す。バアル達も困惑していたが、ここまで来て帰るのは勿体無いと思って公衆浴場に向かう。
「あら、お兄さん達いい体してるわね。今晩いかが?」
「二時間金貨一枚でいいよ~? 帰りは声をかけてね」
「そこの魔族のお兄さん、うちに淫魔のいい子がいるよ。帰りに寄ってきな」
投げキッスやウィンクの嵐と共に投げかけられる誘いの言葉を、曖昧な返事で躱しつつバアル達は浴場の入口にたどり着いた。
浴場の入口で入湯料を払って進むと、中は幾つもの棚が置かれた脱衣所になっており、その先に浴場があった。
浴場の棚には申し訳程度の鍵が付いていたが、殆どガタがきており、まともに使えそうなのは少数だった。
運良く比較的大丈夫そうな棚を見つけたバアル達は早速服を脱いだ。
「マグナダイン、一応財布は持っておけ。取られたらたまらん」
「あいよ。カールお嬢にでも預けておけばよかったな。……てかこれどうしよう」
マグナダインは途方に暮れたように手の中の『いくさ丸』を見る。服と小物が入る程度の棚にはとても入らない大きさだった。
「あっちで別料金がかかりますけど大型の棚があるみたいですよ。『魔人剣』も一緒に入れておきましょうか?」
スコットの指摘通り、少し離れた壁際に人一人が入れそうな位の大きさの縦長の棚が五つ程並んでいた。『魔人剣』は御免こうむると呟くと、茨を棚と床の隙間に伸ばすと、目にも止まらぬ素早さで滑り込んだ。幸いな事に、スコット達の体が壁になって他の人間には気取られなかったようだった。
「仕方ねぇ、あっちに入れてくるか。……しばらく我慢しろよ」
マグナダインが小声で『いくさ丸』に声をかけると、心得たと言うかの如く柄の宝石が瞬いた。
マグナダインは店員に料金を払って鍵を受け取ると、『いくさ丸』を棚に収めて、バアル達の下まで戻ってきた。
「さて、んじゃあ入りますか」
……
*男性の入浴シーンなんて誰得なのでご想像にお任せします。
……
「ふう、いい湯だったな。体を洗うと言ってくる女性がしつこかったのが困りものだったが」
バアル達は湯気の立ち上る裸体を惜しげも無く晒しながら(隠すような物も持っていないが)脱衣所まで戻ってきた。風呂場の中では胸と腰を小さい布で隠しただけの女性が洗い女として数人居た。公衆浴場では見ないような、引き締まった体躯と整った顔をしたバアル達は洗い女の興味を引いたらしく、かなりしつこく勧誘されていた。バアルと同じ位付きまとわれたマグナダインも同意見だった。
「ま、財布握ったままだったのが逆に悪かったのかもな。やっぱ色街の近くだからこんなサービスがあるんだろうが、落ち着かなかったなぁ」
「……出来れば真の姿で入りたかった」
「やめて下さいね、ファフニールさん。我が国に来た暁には出来るよう計らいますから今は止めて下さい」
残念そうに呟くファフニールをスコットは真顔で止めていた。
借り物のタオル(有料)で体を拭いたバアル達は、幸いな事に荒らされなかった服を着て身支度を整えた。着替えながらこっそり『魔人剣』も回収された。
着替えの済んだマグナダインは『いくさ丸』を回収に向かう。
「待たせたな、帰るぞー……、お?」
『いくさ丸』を収めてた棚を開いたマグナダインはその場で固まる。それに気付いたバアルは眉を寄せてマグナダインの背に呼びかける。
「どうした、何かあったのか?」
「何かあったと言うか……、『いくさ丸』が無い」
マグナダインの開けた棚は見事なまでに空っぽだった。
男の入浴シーンの需要はあるのか? これがこの話を書いてて一番悩んだ点です。
書きたい様な気もしたけど、書いたら石が投げられそうな気もしたので自重しました。むしろ女性の入浴シーンを書かなかった事で石が飛んでくるかな?
短編で(男の)入浴シーンは上げるかも知れませんけど。
次回は、また来週の火曜日か水曜日になると思います。
2013/11/23
訂正
ゲイルの賞金:金貨四十枚 → 金貨八十枚
男性人 → 男性陣
中途半端な訂正申し訳ない。




