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幕間其の5

本編の執筆が思ったように進まないので、小話を二つ程挟ませていただきます。


*2013/10/6に感想を投稿された読者様へ:編集作業中に誤って感想を消去してしまいました。活動報告の方で、お詫びとご質問に対する答えを掲載していますので、タイトル「お詫び」を宜しければご覧下さい。

 小話13 アウロラとのLOVE通話(LOVE少なめ)


「ファフニール殿、今日こそお頼みします」


「断る。僕は昆虫図鑑の執筆作業で忙しいと伝えてくれ」


 今はバアル達がセプロン市から旅立ってタナリンの町に向かう途中、町まであと一日の場所で野営している時であった。


「そう言ってこの前も通信に出て下さらなかったでは無いですか! もうそろそろ限界なんです。アウロラ様がファフニール殿とお話したいと毎日毎日連絡してくるんですよ! 昨日なんか八つ当たりでエリナリーゼ隊長が殴られてまた空を飛んだんですから!?」


「あいつなら本望だろう。…それになスコット、限界とは乗り越える物だ」


「ドヤ顔でいい台詞言った気になってるところ申し訳ありませんが、限界突破して来るのはアウロラ様の方です。アウロラ様はファフニール殿が通信魔術に出てくれないのを私が妨害していると勘違いして、私のことをファフニール殿とアウロラ様の間に立つ壁の様に認識しているようでして…」


 スコットが泣きそうな顔で俯く。だがファフニールは躊躇わない。


「じゃあ、後よろしく」


「ファフニール殿おおおおお!?」


 片手を上げつついそいそと荷台の自分の荷物(図鑑と筆記用具)の所に向かうファフニール。スコットはその前に回り込んで何が何でも通信に出てもらおうと悲愴な覚悟を決めていた。


「よいしょ」


「あ、ちょっと、持ち上げないで下さい!?」


 しかしファフニールは片手で軽々とスコットを持ち上げると、頭の上に持ち上げたまま荷台まで歩いていく。


「く、頼みますファフニール殿! 後でどんな事でもしますから!!」


「…ほう、どんな事でもか…」


 ピタリと動きを止めたファフニールはスコットを下ろすと彼の肩をがっしりと掴んで、正面から彼の顔を覗き込む。今更ながら不用意な事を言ったとスコットが汗を冷や汗を流し始めた頃、ファフニールは口を開いた。


「ならば僕の執筆作業を手伝ってもらおうか」


「……は!? はい、それ位の事なら…」


 端で事の成り行きを盗み聞きしていたカミラは、


「ちっ、濡れ場は無しか…」


 等と曰ってはエミリーにはたかれていた。



 ……



「ではファフニール殿、今からアウロラ様に連絡を取りますので少々お待ちを」


 執筆途中の図鑑と筆記用具を抱え、期待に満ちた目でスコットを見ながらファフニールはコクコクと頷いた。

 そんなファフニールを尻目に、スコットは懐中時計の様な通信魔術の魔法のアイテムを起動し、耳に近づける。


「あ、エリナリーゼ隊長ですか? 姫様にお取次ぎをお願いします。…ええ、ファフニール殿がお話しても言いそうでして…。 !? ちょっと、姫様。急に割り込まないで下さい、びっくりしますから」


 スコットがアイテムから顔を離しながら抗議する。同時に甲高い声も漏れ聞こえてきた。


「え、おめかしするからもう少し待ってもらえ? いやそこまで気に無さらなくても…。いや髪型のセットとか簡単でいいですから…。ドレスも要りませんって…。お化粧は寝る前にするのは止められた方が…。というか映像投影は魔力消費が多いから止めましょうよ…」


 雲行きが怪しくなってきたスコットの呟きを聞きながら、ファフニールの目から徐々に光が失われていく。

 スコットは暫く話していたが、くるりとファフニールの方に振り向くと申し訳なさそうに尋ねる。


「あの、後一時間程待って欲しいそうなんですが…」


「…」


 ファフニールは無言で踵を返す。スコットは慌ててそれを止めに走るのだった。



 ……



「ふぁ、ファフニール。久しぶり、元気だった?」


「…ああ」


 スコットの持つ魔法のアイテムから、アウロラの映像が投影されていた。スコットは魔力を吸い取られているのか、若干疲労が顔に浮かび始めていた。…もっとも、ファフニールに対する説得によるものも混じっているかも知れないが。

 二十cm位の大きさに縮小されたアウロラの映像は過日に見た服装、髪型に整えられていた。これなら印象は悪くないとの判断だろう。アウロラは急に話が出来るようになったので、話す内容が思いつかないのか、緊張の余り忘却したのか、しどろもどろである。


「あの、その…、ええと…」


「…」


 ファフニールは意外にもアウロラが話し始めるのを辛抱強く待つ。そしてようやく話題が見つかったのか、アウロラが頬を緊張と喜びに赤らめながら早口で話し始める。


「そうだ、出発の時に見送りに行けなくてごめんなさい、私は行きたかったんだけどエリナリーゼが出発の時間を秘密にしてやがったせいで気づいた時には出発した後で……、あーーーっ! 思い出したら腹立ってきた!! エリナリーゼのボケがあああああ!」


 アウロラの映像がぶれ、ドフゥ! という重たい音と、はうううううう! と言う苦しみと快感の綯い交ぜになった声が響く。

 数秒後、ハァハァと息を弾ませたアウロラの映像が戻る。


「…失礼。そうそう、そう言えばファフニールは今どこに居るの?」


「…タナリンの町まで後一日の距離にある場所だ。今は野営中」


「そ、そうなの…。随分遠くまで行ってしまったのね。あ、ちなみに私は今セプロン市を出て南の…」


「はい、姫様ストップ! 姫様の位置情報は一応国家機密なんですから話さないように!!」


「なによ、スコット。私とファフニールとの会話に入ってこないでよ」


 慌てて止めに入ったスコットに対して、ムッとした表情でアウロラが不快感を示す。更に文句を言おうとアウロラが口を開きかけた時、


「アウロラ、余りスコットを困らせるんじゃない」


 と、ファフニールが厳しめにアウロラを叱った。それに凍りつくアウロラ。アウロラは戸が軋むかの如く音を立てながらスコットに徐々に視線を向ける。


「……随分、ファフニールと仲良くなったようねぇ…、スコット?」


 アウロラの金の瞳は、嫉妬の炎を湛えながらスコットを捉える。スコットは滝のような汗を流しながら乾いた笑みを浮かべる。


「は、ははは…。おおっと、姫様! そろそろ魔力切れのようですので通信を終了します!! おやすみなさいませ」


「あ、待てスコット! 話しは終わってないわよ!?」


 プン、と音を立てて魔法のアイテムの効果が切れる。それを行ったスコットはしばし立ち竦んでいた後、がっくりと地に膝を着く。


「やっっちゃった…、姫様絶対怒ってるよな…。今度通信する時までには忘れててくれないかなぁ…」


 絶望感に俯いているスコットの肩に、ファフニールは優しく手をかける。スコットは顔を上げて微笑むファフニールを見上げる。


「ファフニール殿…」


「じゃあ、約束通り執筆作業を手伝ってもらおう」



 ご無体なドラゴン達に囲まれて、今日も白竜の苦労は増えていくのだった。







 次の日の朝、エリナリーゼがアウロラの八つ当たりを受けてボロ雑巾より酷い有様になっているのを別の近衛隊員が見つけたのだが、本人は至って幸せそうだったそうな。



 小話14 市場の熊さんの出会い


「暇だなぁ…」


 市場の露店街でフルーツジュースを売っている熊獣人ことレオナルドは、退屈そうに呟いていた。そろそろ暑くなってきた季節であり、ジュースの売れ行きも伸びそうなものである。しかし昼頃の一番暑い時間帯は出歩く人は余りおらず、風通しの良いレストラン等で涼みながら昼食を食べながら飲み物を飲んで喉を潤す人が多かった。

 その為レオナルドは、時折配達の人が水分補給の為に喉を潤す為に、味わう間も無くジュースを飲んでは去る事を見送るばかりだった。


(カルニウェアンさんはちゃんと味わってくれて批評もしてくれたから、やりがりあったけど…。これじゃあジュースのレシピ改良なんて出来ないな。)


 レオナルドは今はもうセプロン市にいない一人の冒険者に思いを馳せる。その人は彼に冷たいジュースが売れる商品である事を確信させた恩人であり、ジュースのレシピ改良を共にした友人だった。

 夏に向けて冷たいジュースを作るために、本業の店には既に氷室が出来ており、後はカルニウェアンに氷を作ってもらおうと冒険者ギルドに依頼をしに行ったレオナルドだった。


 だが何日経ってもカルニウェアンが来ない。


 そして冒険者ギルドからカルニウェアンがセプロン市を出たという知らせを聞いて、知らぬ間に親友が引っ越していたような空虚感と悲しみをレオナルドは抱えたのだった。


(あー…。何かやる気でないなぁ…。)


 レオナルドが新作レシピを考えるでもなく、ただぼーっと空を眺めていると、わしゃわしゃと聞きなれない足音が聞こえてきた。


「メニー、ここなの? カルニウェアンさんが言ってた美味しいジュース屋さんって」


「うん、熊の獣人さんが経営してるって言ってたからここのはずよ」


 レオナルドが声に釣られて正面を見ると、そこには美しい女性の上半身に大きな蜘蛛の下半身を合わせたような生物、アラクネが三体居た。


 全く見た事が無い生物、いやモンスターの類であったが、ここは寛容の国エロハイム共和国。他者を見た目で判断するような者はほぼいない。


 様々な種族が入り乱れて生活しているエロハイム共和国内では、見た目は余り当てにならないという意識が強かった。


 レオナルドも、保育園時代におっかない顔のオークの園長先生に良くしもらったし、隣に住んでいたリザードマンの爺さんは健康の為に冬に外で乾布摩擦をしていた。


 そんな生活をしていたので、目の前でどのジュースが美味しそうとかキャピキャピ話しを交わす下半身蜘蛛の女性などは驚くに値しなかった。


「やあ、いらっしゃい。この辺では余り見ない顔だね。今日はいいレモンが手に入ったから、ハチミツシロップと合わせたハチミツレモンなんかお薦めだよ」


「あ、爽やかでいいかもー!」


「暑いもんねー。あ、ハチミツ多めでお願いしますー。甘いものでストレス解消しないとね!」


「私はレモン苦手だからこっちのオレンジジュースにしよっと」


 三者三様でジュースを味わったアラクネの一団は、レオナルドに美味しかったですと告げ、市場巡りに行ってしまった。


 その後ろ姿を見送ったレオナルドの目は、商売人の目に変わっていた。


「蜘蛛っ子か…、新しいジャンルが開拓出来そうだ!!」


 その目は、先ほどまでの淀んだ目はどこかに消え、メニー達を自分の店にスカウトしようと燃える瞳が現れていた。






 結局メニー達がカルニウェアンの名前を言っていたと気づいたのは帰宅後で、カルニウェアンにメニー達の紹介を頼もうとして、



「よく考えたら街にいないじゃん!!」



 と叫び、また不貞腐れるのであった。




キャラが多いと使いこなせないし、キャラが少ないと会話がワンパターンになりがち。そしていいキャラを作っても話しの流れ次第では二度と登場させられない。これが小説を書く者のジレンマか…、と思いながら書いてました。


何とかして登場させたいと考えて無理やり小話を作ってしまいました。


*2013/10/6 幕間其の3に小話を追加しました。バアル達の実年齢をはっきりさせるお話です。

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