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15.初仕事はバラバラで

 バアル達はその日、アンディ達との話しは切り上げ、『満月亭』の料理を味わうことになった。


「いやー、美味しかったー。また食べたいですね」


「金が相当溜まってからな。アンディさん青白い顔が完全に白くなってたじゃねぇか」


 アンディは重い場の雰囲気を解そうと、気前よく好きに食べていいと宣言してしまった。カルニウェアンの旺盛な食欲を受け止めたアンディの財布は割と洒落にならない程に薄くなっていた。その後、アンディは是非当店でお買い物をなさって下さいと涙目で懇願し、フラフラになりながら帰って行った。


だがバアル達のことは秘密にしておくとエミリーと共に約束した時は真剣な表情を浮かべていた。その後ファフニールをうっかり見てしまい、すぐ顔が崩れたが。


 現在、バアル達はエミリーと一緒に宿まで向かっている最中であった。


「ところで、マグナダイン達はこの街から出て行くの?」


「ん? まあそうなるだろな。しばらくは路銀稼ぎの為にここに居るだろうけど」


「ふーん…、そうかー…」


 エミリーはどことなく寂しそうに呟く。その様子を見ながら、何と言っていいものかとマグナダインは迷うが、結局何も言えなかった。そうこうしている内に冒険者の宿『鷹の巣』に辿り着く。


「あ、私の家この先だから。じゃあね。また何か困った事があったら言いなさい。相談にのって上げるわ、と、特別にね」


 フンとそっぽを向きながらも期待するようにチラチラバアル達を見ながらエミリーは宣言する。


「あ、もう聞きたいことは聞きましたんで。後はアラン達にでも聞きますよ」


「なんでよ!?」


 カルニウェアンのからかいにしっかり食いつくエミリー。マグナダインはカルニウェアンの頭に軽くチョップするとエミリーに謝る。


「はいはい、最後くらいちゃんと礼を言おうぜ、お嬢。悪いなエミリー。お嬢はこれでも感謝してると思うぜ。何せ同年代の知り合いは数える程しか居なかったからな。特にエミリーみたいな友達感覚で話てくれる奴は…」


 途中からマグナダインの声が聞こえなくなる。口は動いているからおそらく喋っているのだろうが、声だけ聞こえない。隣のカルニウェアンは何かブツブツと呟いている。ほんのりと燐光がカルニウェアンの印を結んだ手にまとわりついている。


「は! あんた『消音サイレント』の魔術使ってるわね!? 何よ~結構恥ずかしがり屋なのねー。自分の事を言われるのわ嫌なの?」


 クフフと手を口元に当ててこれ幸いとカルニウェアンをからかうエミリー。そんなエミリーにカルニウェアンはニッコリと笑いかけ、


「塩の柱と氷像、どっちがいいですか?」


「怖! 照れ隠し怖い!?」


 きゃいきゃいとふざけ合う二人を、しょうがない奴らだという眼で優しく見つめるバアル達。そんな中、バアルが口を挟む。


「もう遅い、エミリーの家まで送ろうか?」


「ひ…必要ないわ。そんなに離れて無いし。じゃ、じゃあ今度こそさようなら。またギルドで会いましょう!」


 そう言ってそそくさと帰って行くエミリー。バアル達はエミリーの姿が見えなくなるまで見送った。


「不思議な少女だ。俺達の事を知っても全く物怖じしないとはな」


「案外、この国の連中は皆そうかもな。見た目の偏見が無く、ちゃんと相手と付き合って相手を正しく評価できるんじゃないかな」


 マグナダインはそう評した。


「…いい国で、いい人達だな」


「そうだな」


 エミリーの去って行った道をバアルは眩しげに眼を細めて見つめた。


 ……


 次の日、バアル達は冒険者ギルドに来ていた。まだ朝方といこともあるのか、ギルド内には二、三組の冒険者パーティーしかいない。バアル達はそのギルド内のテーブルの一つ占拠していた。そしてマグナダインは重々しく話し始める。


「早速だが、仕事を始めるぞ」


「その前に朝ごはんを…」


「お嬢、さっき食べたパンとチーズの欠片が朝飯だ。諦めろ」


「うう、あんまりですよ…料理のグレードの乱高下が激しすぎます」


 心底凹んで机に突っ伏すカルニウェアンを無視してマグナダインは続ける。


「報奨金の残りが後金貨四枚と少し、ミッド村で貰った金は大体金貨一枚半位だ。正直ガンガン仕事して稼がないと生活費はあっという間に底を着く。多少危険でも割のいい仕事を探そう」


「そうなるとやはり魔獣退治か」


「新たな魔獣の仲間も増やせそうですしね。良いかと思いますわ」


 バアルとアナトーの考えをマグナダインは否定する。


「いや、魔獣退治の依頼や賞金のかかっている魔獣は居なかった。むしろ多いのは野盗や山賊の類だな。だが問題なのは俺達が『下級』冒険者という事だ」


 マグナダインの言葉にはっとするバアル達。


「まさか…山賊退治とか力技が通用しそうな依頼は…」


「残念ながら中級以上が多い。しかも複数パーティーで受けろという指定が入ってるものがほとんどだ。単独で撃破できれば旨みは大分多い、金貨数十枚単位がザラだからな。だが、それをやると悪目立ちをするから却下だ」


「では…、どうする?」


 ファフニールが言葉少なにマグナダインに方策を問う。


「俺が考えたのは、まずここには無い公的機関から賞金のかかっている賞金首を探すこと。次に五人単位で動くのでなく、一人か二人のグループに分かれて複数の依頼を掛け持ちすることだ。これなら消費する以上に稼げるだろう」


「それはいいのか? パーティー単位で動けとギルドから苦情が来そうだが」


「確認したが、下級の依頼なら別にそんなに目くじらを立てられないそうだ。むしろ細々した依頼なら大人数で一つの依頼を完遂するより、少人数でもいいからとにかく数をこなして欲しい、というのがギルド側の希望でもあるようだったな。ただ…」


「ただ? 何だ?」


「まず公的期間から賞金がかかっているような奴はほとんどが全国指名手配犯とからしい。この街の近辺にいると考えられる賞金首はほとんどが山賊や野盗の集団のボスで、さっきの悪目立ち及び依頼のクラスから考えると、狩れる賞金首は少なそうだ」


「では、下級の依頼を複数受ける案しかないのかしら?」


「そうなるだろうなぁ…。たださっき言った少人数でできそうな依頼って報奨金が安いんだ。銀貨五枚とかが精々で、日銭稼ぎ程度にしかならないかも知れん。まあ、それを確実にやっていって、早く中級冒険者にならんといかんだろうな」


「他に細々した依頼でない、下級冒険者でもできる依頼は無いんですか?」


 顔を上げたカルニウェアンが問うとマグナダインは頭をボリボリ掻きながら少し考えて答える。


「複数の下級冒険者パーティーで合同で行う護衛の依頼は常に一定量は存在するらしい。だが、この街から離れていいのか?」


「そうですねぇ、まだ私達はこの世界の常識に疎い。知り合いがいる街の方が有利なのは間違いないでしょう。護衛の依頼は受けない方が良さそうですね。滞在期間を決めて、情報収集と路銀稼ぎに集中しましょう」


「情報収集の内訳は?」


 バアルはカルニウェアンに質問する。カルニウェアンは椅子に座り直し、指折り説明し始めた。


「まず一つ目、アンディさんには既にバレましたが、今後その可能性を減らすために、この世界の常識を知っていきましょう。でもこれは何を知らないのかが分からない様な状態ですから、日々を過ごしていく内に少しずつ学んでいきましょう。次に二つ目、次元移動の方法について。ただしこれは魔法王国、エルフの国、エグリゴリのいずれかがより詳しいかどうか、という情報を集めます。多分、次元移動の方法そのものに関する知識は出ない可能性がありますし、下手に突っつくと魔術師ギルドから睨まれそうです。後は、目的地が決まったらそこまでの路銀の計算をして働くだけですね」


 カルニウェアンは言い終わるとバアルに確認するように目線を向けた。バアルは了承するように頷く。


「そのプランで行こう。だが後数日で目的地が決まるとも思えん。情報収集しつつ、働くぞ。とりあえず一月の間しっかり働き、貯金とカルニウェアンが言った情報を持っていそうな者を探そう。情報屋に関しては優先度は低めだ。まずは金だな」


「分かった。じゃあどう面子を分ける?」


「はいはい! 私はバアル様と一緒がよいですわ」


 アナトーが元気よく挙手をして自分の希望を述べる。だがマグナダインとカルニウェアンは今一ついい顔をしない。


「いや、アナトーは一人でも大丈夫じゃないか?一番心配なのはファフニールなんだよ。こいつ虫見つけたら仕事放り投げて捕まえに行きそうだからな。監視役一人付けたいんだが…アナトーが面倒見ないか?」


「嫌ですわ。ミッド村でも面倒見たんですし、今回こそバアル様と一緒に働きたいですわ」


「おい、お前等…、僕は子供か…?」


 散々な言われようにファフニールは口を尖らせる。


「カブトムシ追いかけて森で迷子になるのは十分子どものやる事です。ファフニールに意見を言う資格は今の所ないですよ」


 カルニウェアンは容赦無くファフニールの抗議を切り捨てる。それにファフニールは何も言い返せない。そんな中バアルが口を開いた。


「そうだな、ファフニールは俺が面倒を見よう」


「バアル様!?」


「あ、いいの? じゃあ頼むわ」


「うむ、最近相手をしてなかったからな。たまにはよかろう」


 なら私の相手もして下さいとアナトーが切実に眼で訴えかけるが、バアルは済まなそうな表情でアナトーに詫びる。


「すまんな、アナトー。次回はお前と組むことにしよう。今回は我慢してくれ」


「うう…バアル様がそう仰るなら…」


 アナトーはファフニールを羨ましそうな眼で見ながら承諾する。


「んじゃあ、バアルとファフニールのコンビ、んで後は三人別れて依頼を受けるか。じゃあ早速依頼を探そうぜ」


 マグナダインの一言で場を締め、バアル達は掲示板に向かうのだった。


 ……


 依頼一:担当者カルニウェアン 内容 氷作成


「おう、お嬢さんが依頼受けてくれた冒険者かい?」


 カルニウェアンが依頼を受けて向かったのは大分人通りが多くなってきた市場だった。その中の露店が集中しているエリアで、蜂蜜入りの果実水を売っていた熊の獣人が依頼人だった。二m近くある大きな熊の獣人はカルニウェアンが依頼の件を話すと気さくに話しかけてきた。熊さんはレオナルドと名乗った。


「ええ、そうです。なんでも小さな氷を沢山作って欲しいとか」


「そうそう。まだ涼しいけどもうしばらくしたら暑くなるだろ? さらに日中なら今でも熱い所はあるし、ここら辺は人通りも多いから熱気があるんだよね。んで、飲み物に氷入れたら人気が出るんじゃないかなーって思ってな」


「なるほど。だから小さい氷を沢山、という依頼なんですね。…でも冒険者を雇って毎日来てもらうと採算が合わないんじゃないですか?」


 カルニウェアンは果実水の値段を見ながら言う。果実水はどれも銅貨数枚程度で割にあうとは思えなかった。


「ああ、いいんだよ。これは実験だから。もし冷たい飲み物で売れ行きが良くなったら、店の地下に氷室作ってそこに氷を大量に保存するつもりなんだ」


「実験? 店の地下って…露天ですよね?」


 わけがわからないと眉を寄せるカルニウェアンにレオナルドは果実を絞りながら答える。


「俺は盛り場で店を経営しててね。『ハニーハニー』っての。お嬢さんは興味無いかも知れないけど可愛い女の子と美味しい飲み物で評判の店なんだよ。露店は新作飲み物のレシピの実験場さ」


「は、はあ…」


 言葉を詰まらせるカルニウェアンにレオナルドは先ほど絞った果実汁と幾つかのシロップや香料の様なものを混ぜ合わせながら続ける。


「女の子は人間、エルフ、ドワーフは勿論のこと、獣耳属性の貴男には犬、猫、狐、熊と選り取りみどり! さらに魔族っ娘は角系・羽系・淫魔系各種取り揃えております。鱗好きの貴方にはリザードマンのあの子がお出迎え!…更に特別会員になれば禁断の天使っ娘とも…、おっといけねぇ、これ以上はお客様になってから。『ハニーハニー』は毎夜貴男をお待ちしています。可愛い女の子と甘~いジュースで、身も心もリフレッシュしましょう! …てなわけで新作ジュースです。よろしければどうぞ」


 レオナルドは店の宣伝文句を唄い上げ終わると同時に、さっきから作っていたジュースの入ったコップをカルニウェアンに差し出す。カルニウェアンは思わず受け取るとそれを一口飲む。


「あ、結構美味しいですね。柑橘系かな? 酸味は強いけど甘味もしっかり感じられて満足感が得られますね」


「オレンジジュースをベースに俺が造った秘蔵のシロップを混ぜてみたんだ。やっぱり酸味があると暑い季節はスッキリするからな。そこに氷を入れてみてくれないか?」


「あ、そうですね。『水作成クリエイト・ウォーター』『氷結フリーズ』」


 カルニウェアンは極小さい水球を作ると、それを凍らせ、ジュースに入れる。レオナルドがからマドラーを借りて何回かかき混ぜて、ジュースを十分に冷やすと再度口に含む。


「おお、爽やかさがアップしましたね。これはいけます! …でも氷が溶けるとその分味が薄まりますからそれも考えてジュースを調合した方がいいですね」


「あーーー、なるほど確かにその通りだ。これは試作品のレシピ全部練り直した方がいいな。お嬢さん、もっと氷作ってくれ。一通り試してみて問題点を洗い出すから」


「分かりました。…後私にも味見させて下さい」


 カルニウェアンの瞳がキラリと光る。その眼に何かを感じ取ったのか、レオナルドは不敵に笑いながら快諾する。


「勿論だ。お嬢さん…いやカルニウェアンさんは中々の食通のようだ。カルニウェアンさんと強力すれば俺のレシピもかなり改善されるだろうな。貴女を唸らせる様なジュースを作ってみせるぜ!」


「期待してますよ。私もできる限り助言をしますので」


 そうしてカルニウェアンとレオナルドは多数の試作品のジュースを作っては販売し、お客の様子を見てまたレシピを改造するという作業をひたすら続けた。カルニウェアンは時に氷を作り、時にジュースを温め、味見するなどを行い、レオナルドは温度変化に合わせたジュースのレシピ改造と言う作業を懸命に行った。


 …その結果、日が暮れる頃にはレオナルドのジュースレシピは大幅に増え、売れ行きの増加を確信したレオナルドはカルニウェアンに多くのボーナスと感謝を捧げたのだった。


「いやー、今日はいい日でした。お金は沢山貰えたし、美味しいジュースはしこたま飲めたし。こんな仕事ばっかりだといいんですがねー」


 冒険者の宿『鷹の巣』に向かいながらカルニウェアンは満足気に呟く。そして空に浮かぶ月を眺めて仲間を想う。


「皆はしっかり働いてますかねー…。特にバアルとファフニールは遠出だし、大丈夫かな」


 そう言いつつもその顔には信頼に裏打ちされた笑顔が宿っていた。


 ……


 依頼二:担当者マグナダイン 内容 レストランのスタッフ業


「くくく…、まさかここに働きに来ることになるとはな。楽しみだぜ」


 マグナダインの前には『満月亭』の看板があった。マグナダインはレストランの一日限りのスタッフ募集に応募したのだ。街の料理屋のレシピを盗もうという下心もあった。店名は最初知らなかったが、依頼を受けた後でこの『満月亭』と知り、密かにマグナダインはほくそ笑んだ。


(ここの料理は相当うまい。そのレシピをうまく盗めれば…、高い金をかけてここに食べに来ず、俺が安く作れる。つまりカールお嬢の暴飲暴食費用が減らせる!)


 獲物を狙う鷹の様な眼をする剣士だが、考えていることは家計のことと言う、外見と中身が非常にちぐはぐな御仁は、含み笑いをしながら『満月亭』のドアを潜った。


「いらっしゃいませ、すいませんまだ準備中でして」


「ああ、ジェシーさん。今日は客じゃなくてギルドの依頼を見て来たんだ」


「ああ、ホールスタッフの件ね。…担当はアナトーさんかカルニウェアンさん?」


「え、女じゃなきゃダメなのか?」


「用意してあるスタッフの制服は女性用しかないのよ。女性限定って募集したはずだけど…」


 困惑するジェシーの後ろからロジャーがぬっと姿を表す。ロジャーは顔色を全く変えずにジェシーに詫びる。


「悪い、俺が依頼した時に募集する人間の性別に関しては言い忘れていた」


「ちょっと、店長。しっかりして下さいよ。…困ったわね。今から別の人を派遣してもらうと時間がかりすぎるし…。いっそマグナダインさんに女性用給仕服を着てもらうしか…」


「いや、まじで勘弁してくれ。…厨房スタッフだと思ってたらホールスタッフかよ、泣けるぜ」


 落ち込むマグナダインが呟いた言葉にピクリと反応するロジャー。


「若造、貴様料理はできるのか?」


「あ? ああ趣味で料理してるから結構得意だと思うぜ」


「…、面白い。腕を見てやる。厨房に来い。ジェシー、こいつは厨房要員として雇う」


「て、店長!? 必要なのは今日の宴会の料理を運ぶホールスタッフですよ? 料理がガンガンできてもそれを運ぶ人間がいなければ冷めて味が落ちますよ」


「む…」


 怒ったように詰め寄るジェシーの剣幕に押し黙るロジャー。すると、店の扉の方から凛とした美声がロジャー達の耳に届けられた。


「ならば、ワタクシの出番ですわね」


 皆が振り向いた先に立っていたのは、鴉の濡れ羽色をした長い髪を流した、甲冑姿の美女だった。


「って、ブリジット! 出てくるなって言ってただろ!?」


「初めまして、私はマグナダイン様の妻のブリジットと申します。以後お見知りおきを」


 マグナダインの叫びを無視して、礼儀正しく自己紹介するブリジット。


「なんでも女性のホールスタッフが必要とのこと。しかし、マグナダイン様は男で、しかも厨房の手伝いをされる、では妻である私が給仕をしますわ」


 マグナダインの妻であることを強調しながらブリジットは提案する。ジェシーとロジャーの反応は…、


「じゃあそれで。よろしくねブリジットさん、こっちに服があるから着替えましょう」


「心配するな。給料は二人分出す」


 即決だった。細かいことを気にしている時間が無いのか、ロジャーは直ぐに厨房に引っ込み、ジェシーはブリジットの手を取って店の奥に連れて行く。ブリジットがマグナダインの横を通る瞬間、ブリジットは頬を赤らめながらそっとマグナダインに囁いた。


「また二人で働けますわね。お料理頑張って下さい、でも浮気は駄目ですよ?」


 一瞬だけ眼をギラリと光らせて、ブリジットは去っていった。マグナダインは冷や汗をかきつつ、急いで厨房に避難したのだった。


 …その夜、大きな宴会が始まった『満月亭』では、大勢人が来たにも関わらず、待たせることなく大量の料理が出された。また給仕としては少々拙いが、目の覚める様な美人が料理を運んできた事もあり、宴会の参加者は皆満足して帰っていった。


 ただ、その美人が厨房に入っている時に、時折厨房から両手剣を振り回すような音、その音と同時に大量の何かが切断される音が響いた事、そして妙に上機嫌な店長と厨房スタッフの「…! おもしれえ、実にいいぞお前等! 冒険者止めてうちで働け!!」「いや、ホント勘弁して下さい」という会話が聞こえたことだけが参加者の心に少しだけ凝りを残した。


 マグナダインは二人分の給料と、「冒険者やめたらいつでも来い。夫婦揃って雇ってやる」というロジャー店長の有難いお言葉を頂き、すっかり暗くなった街中を通って帰路についた。


「はーーー…。結局忙しくてほとんど料理の作り方分からなかったな。途中で鍋任せてくれたけどいいのかな、絶対味が変わってると思うが」


「きっと、マグナダイン様なら自分と遜色無い味が作れると信頼してくれたのでしょう」


 マグナダインの担いだ剣から声が響く。実際、店に来ていた客たちは味の変化に気づいた様子は無かった。ブリジットはそれを知っていたので確信を込めてマグナダインを褒めた。


「だといいんだけど。さて、レシピが理解できた分だけでも明日作ってみるかな。宿の厨房借りれるといいんだけど」


「材料を切るのは任せて下さいね」


「はいはい」


 マグナダインとブリジットは割と仲睦まじく会話しながら冒険者の宿に帰るのだった。


「あー、そこの君。何を一人でブツブツ呟いているのかね?」


 でも街の衛兵には不審がられた。衛兵を説得するのがまた面倒で時間がかかったとマグナダインは後にカルニウェアンに愚痴ったそうな。



書きたいように書いたらキャラクターそれぞれで文章量が激しく変わってしまいました。次回はアナトー動物王国再びです。

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