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Book I: 夜明けの少年と三の娘
8/15

▲【象牙の塔】(3)

『空は基本的に何色に替われるか?』

『紅茶の一種であるアールグレイのベースとなる葉はどんなものか』

『口から出てくる「くび」の種類を答えよ』

『温度を上げないまま液体を沸騰させる方法とは?』

『ある男の子が風邪という事にして仕事を休みました。 夜までに、彼は何度か外からの牛のような鳴き声を聞き、一度ばかり窓の外を蝶が飛んでいるのを見ました。 男の子の病名とはなにか?』

『今年の林檎は自慢の出来なんですが、美味しいですか?』

『揚げ物をした後の鍋から脂分を取るのに有効な方法を二つあげなさい』

『たかしくんは30シリカのお菓子を2つ買いました。 ポピーちゃんは25シリカのお菓子をいくつ買えばたかしくんの払ったお金とおんなじお金を払う事になるでしょうか』



青年と少年は互いに補いあいながらさくさくと問題を解いていった。 青年は知識を問う問題には大体淀みなく答えられるが、少年と違って頭は硬いようで捻った問題などには尽くひっかかっている。 青年が五問目を間違えて恥ずかしそうに耳を伏せた時には、二人の役割分担はすっかり出来上がっていた。


とうとう迷路を抜けて二階への階段の前に来た時、オリアンは彼に雑学王の称号を授けた。 少年は崇めるように万歳三唱を彼に向かって唱え、まだ林檎を食べていた少女が楽しそうだと真似をする。 そんな二人に青年はその黒色の眉を困ったように寄せて笑ったが、特に拒否の意を示しはしなかった。


再び同じような白色の階段を上がった三人は、そう遠くない内に一階と寸分違わない意匠の門の前に立った。 その向こうにも同じような林檎の果樹が立ち並び、向こう側にも一階で見たような扉が見て取れる。 ただ、門の横の壁には2Fと書いてあった。 


間を置かず、さっきまでさんざん見てきた木の台と紙が現れる。 今度は誰も驚かないまま、少年は紙を手にとった。


「えーと、【二階到達真におめでとうございます。 これより先は少々ばかり専門的な知識が求められる問題などが混ざってまいります。 ただ、お二方は今までいらっしゃった方々よりも卓越した頭脳をお持ちのようですので、その分の調整はさせていただきます。 とはいえ所詮は二階ですので、焦らず驕らず考えれば容易に解ける問題集でございます。 


また、少し話は逸れるのですが、上がってくる際に階段の短さに疑問を抱きませんでした? あれは利用者の方々からの要望を受け、最近私が改良した空間を切り貼りする魔術でしてね、おかげで皆様方の体力を無駄に消耗させることなく挑戦していただけるようになりました。 ですのでどうぞ、持ちうる力の全てを問題に注ぎ込んでください。】だってさ。 よっぽど自慢なんだろうね、確かに凄いし。 でも、一階のもたまーに結構難しかった気がするんだけどね。 まあいいや、えーと問題は……ねぇ、早速積んだんだけどどうしよう」



少年は苦い顔で青年に紙を渡す。 そこには、【メンバーの名前を書き入れてください】と書かれていた。 その文字列を見た青年も苦い顔をする。 自分とオリアンは可能だ。 だが、少女はどうするのか。 ……いっその事、自分らで付けてしまおうか? 青年がその考えに至り少年を見ると、少年も同じような微妙な顔で青年を見ていた。 同じ意見らしい。



「とりま聞いたほうが良いよねぇ」



こくっと同意を示し、さらさらと疑問点の提示を書き込む青年。 やや間を置いて、帰ってきた返答は【かまいませんよー】というなんとも軽い答えだった。 識別できるならそれで良いらしい。 少年と青年は顔を見合わせ、少年は最高の笑顔を浮かべて言った。



「俺、センス無いからお願い!」



ならば仕方ないと頷いた青年は頭を捻った。 ついでだ、こちらの都合の良いように付けても良いだろう。 その合間に、彼の後ろで渾身のボケをスルーされた少年は若干不満そうな顔を作ったが、門の上にちょうど下りてきた鳥に全力で手を伸ばす少女を見てしまい、そのあまりの可愛らしさに一瞬で苛立ちを忘れた。 彼はこの年頃の少年と同じように、わりと単純な頭をしている。


そうしてやがて諦めた少女の頭を撫でていると、門が開いた。 少年は振り返ると、青年にどう付けたのかと早速問う。 青年は一度置いた紙を再び手に取ると、少年に渡す。 そこには自分の名前と二人分の名前のような言葉。 【ヨイト】と【ザーラ】が書かれていた。



「どっちがどっち?」



青年はザーラの文字を示した後、少女を指さした。 



「じゃあ君はヨイトっていうのか。 やっぱり東系なんだね。 ま、その見た目でベルンハルトとかジョニーとか違和感はんぱないよねー。 ヘイジョニー、酒場で一杯やらないかい!」



青年は一瞬考え、ありえないとばかりに嫌そうな笑顔で首を振った。 さすがに気持ち悪かったらしい。



「だよねー。 言っててないわーって思ったもん。 それより、ザーラってどういう意味? 聞いたことないけど」


再びさらっと紙になにやら書き込んだ青年。 オリアンが手元をのぞき込むと、『花の中に在るもの』と書かれている。



「……わりとポエミーなんだねヨイト」



青年は魂の底から心外そうな顔をして少年を見た。








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