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Book I: 夜明けの少年と三の娘
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▲【象牙の塔】(2)

階段に添って緩く左に旋回し、一階であろう部屋の前まで辿り着いた三人は、一瞬自分達が外に出たのかと錯覚した。 階下と同じ意匠の門は閉じてこそ居るが、隙間からは部屋かもしれない内部の全てが見て取れる。 その向こうには、ドリームグローブの街を意識したのか、大きな果樹で出来た迷路が広がっていた。


白い壁に開けられた窓の数々は全部開け放たれ、健やかな風を取り入れると同時に芳香をあまり強くしすぎないよう調節している。 それらの縁では幾羽かの多彩な鳥達が楽しげに音楽を奏でていた。 可愛らしいその合掌を耳に響かせ目線を下にやれば、茶色の肥えた土、背の低い木々と実った赤い実の数々、また合間を通る為の煉瓦の道が規則的に並んでいる。 その中でも何より印象的なのは、いよいよ己を誇示し始めた甘酸っぱい香りだった。


青年が門に手をかけ、押す。 もう一度、体重をかけて押す。 門はがしゃんとの音も立てずに済まし顔で立ちつづけ、青年は困ったように耳を伏せて尻尾を垂らした。 オリアンはそんな彼の背中を軽く叩き、林檎をとても物欲しげな顔で見ている少女をの方に視線を向け、ついでその向こうに先ほどまでは影も形もなかった木製の本台と、その上に置かれている一冊の銅色の本に気づいた。



「うぇっ?!」



うん? と顔をオリアンの視線の先に向ける青年。 彼も驚いたのか、顔はいつもと同じく無表情のまま耳と尻尾が一気に逆だった。 そんな二人の反応を見た少女は振り返り、本と台を見て取ると何をやっているのと言わんばかりに青年と少年に目を向ける。 これが敵とかだったら全滅してるだろう、との説明もできないので少年は苦く笑うだけに留めた。


さて、どうするか。 門が開かない以上読むべき物なのだろうが、警戒心が先に立つ。 オリアンがそう言うと、青年が二人を手で制しながら本に近づいた。 年長者としての義務感が芽生えたようである。 手に取りぱらぱらと少しだけ捲り、危険が無いとわかると彼は二人を招いて最初のページを開く。 そこに挑戦者への説明などを見て取った青年は、オリアンに本を渡した。 



「えー……【はじめまして新規挑戦者達。 私はこの塔の最高責任者です。 この度はおいでくださり誠にありがとうございます。 この塔の難易度は比較的低めとなっており、多少の汚れや怪我を負う可能性はございますが命の危険はありません。 故にお子様連れでも安心してお楽しみいただけます。


さて、先ほど難易度は低めと申し上げた通り命の危険は一切ございません。 が、その分皆々様の知能指数に訴えかける試練のみを集めました。 最初の問題は手慣らしのため固定ですが、一度中に入れば(難易度は階や平均年齢などに比例しますが)出題される内容も頻度も完全に無作為となっております。 


では、次の問題を扉に向かってお答えください。


『王様の耳は?』】



「ロバの耳ー」



反射的に答えたオリアンの声に、門はギギィと心地良い音を立てながら開いた。



「それで良いの?!」



ぽんと少年の頭に手をやった青年は、『お子様連れでも』の文字に指をやった。 なるほどな、と理解した彼は本を戻して少女の手をとる。 オリアンは彼女に笑いかけ、青年とともに足を踏み入れた。 


中心の道を反対側に向かって少し歩くと、同じような台と一枚のあまり上質でない紙、鉛筆、そして半透明の白い壁が目の前に出現した。 ぺらりとそれを持ってみると、案の定質問が書かれている。 それを解かないと、壁が消えないようだ。



「えー、『直角三角形の短い方の二辺が与えられている場合の、最後の辺の求め方を答えよ』だって。 いきなりわりと高度なのが出たね、まあ分かるけどさ……辺1掛ける辺1足すの辺2掛ける辺2、からの辺3の二乗根」



壁と付属品が全て音もなく消える。 どうやら正解したようだと思って少女に目をやると、いつの間にか林檎をもいで食べていた彼女と目が合った。 我慢ができなくなったらしい。 特にお咎めも来ていないので良いのだろうと結論づけ、三人はまた歩き始めた。 青年が物欲しげに木々を見つめ始めた事には気づかないふりをして。


そしてまた暫しの後、壁が現れた。 三度目ともなるともう慣れたものでオリアンは特に警戒もせず紙を手に取る。



「『時計の最も下部にある数字を答えよ』 ……6だよねこれ」



同じように道を塞いでいた物が消え去る。  本当に難易度にムラがあるな、と青年が頷く。



「一階はこういう一般的な知識だったり、そこまで難しくないのって感じかなぁ」



それに同意を示して、青年が次は自分が答えると言わんばかりに先頭を歩き始めた。 それに答えるためか、今回はわりと早めに壁が現れる。 しかし声を出せない彼は勿論読みあげられなく、どちらにせよ少年は紙に近づく事になった。



「『エビはどの生き物の仲間か』 ……え、魚の一種じゃないの?」



それに首を振り、青年は鉛筆を手にとり几帳面そうな文字で『昆虫』と書いた。 同時にみたび壁が消える。 



「え、虫? エビって虫なの? ほんとに?」



うん、と首を縦に振った青年は少々誇らしげに歩いていく。 彼の尻尾は嬉しげに立ち上がり、僅かに揺れていた。







いまさらですが、▲は上方向に行く系という意味で、【】内はダンジョンの名前です。 逆に、潜る系は▼となります。

また、類似系として△と▽があります。 ついでに横向き系も設定としてはありますが、出てくるか否かは分かりません。

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