ママはママで、
死や病気、死別に関する描写があります。
ぼく=「お父さん」の子ども。「ママ」のひ孫。
お父さん=「ママ」の孫。「ぼく」の父。
ママ=「お父さん」の祖母。「ぼく」の曾祖母。
ぼくのお父さんのママの話をします。
お父さんのママは、お父さんのおばあちゃんです。
なんでおばあちゃんがママなの?ってお父さんに聞いたら、「ママはママだからだよ」と言われました。
どういう意味なのかなぁ…。
お父さんの本当のお母さんは、お父さんが小さい時に天国に行っちゃったんだって。
でも、お父さんは全然さみしくなんかなかったって言ってた。
「だって、ママがいてくれたから」って。
お父さんのお父さんはお仕事が大変で、お父さんはママに育てられた。
入学式も授業参観も卒業式もいつだってママが来てくれたし、ママはおばあちゃんだけど明るくて美人さんで、そして誰よりもお父さんのことが大好きだったから、お父さんにとっても自慢のママだったんだ。
それからお父さんは中学生になって、高校生になって、どんどん大きくなって行ったけど、ママは反対に少しずつ小さくなっていった。
お父さんが悪いことをして学校にママが呼ばれて、ひたすら謝る小さなママを見て、お父さんは自分が情けなくなって家を飛び出しちゃったんだって。
でも結局すぐにママに見つかって、お父さんはママに泣きながら「ごめんなさい」って言ってママと一緒に家に帰った。
久しぶりにママと並んで歩いて、お父さんはとってもびっくりしたんだって。
昔は自分をおんぶしながら坂道を上っていた大きなママの体がいつの間にか小さくて薄くなっていて、あんなにしっかりと歩いていた脚も、自分を抱き上げてくれた腕も細くなっていたから。
それからお父さんはがんばった。
一人前の大人になってこんどは自分がママを支えるんだって心に決めて毎日がんばった。
お父さんはがんばって一人前の大人に近づいて行ったけど、でもやっぱり、ママはどんどん小さくなっていっちゃったんだ。
お父さんがお仕事を始めて少しして、ママはとうとう倒れちゃった。
手術や薬でがんばったけど、それでも治らなかった。
ママはずっとずっと病院で寝たきりで、いつも「家に帰りたい」って口ぐせのようにいっていた。
しばらくして、お父さんはぼくのお母さんと結婚することになった。
でも、ママはずっと病院にいなくちゃいけなかったから、ママはお医者さんにお願いしたんだ。
どうしてもお父さんの結婚式に出たい、って。
お医者さんはすこし考えてから、「いいよ」って言ってくれた。
もしかしたらこれが『さいご』になるかもしれなかったからお医者さんも許してくれたんだ、ってお父さんが言ってた。
お父さんとお母さんの結婚式は人がいっぱい来てくれて、みんなよろこんでくれた。
ママはその時にはもう自分の脚では歩けなかったけど、車イスの上から笑顔でおめでとう、って言ってくれて、お父さんは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら「ありがとう」って言ったんだよ、ってお父さんが照れながら話してくれた。
でも、ママは結婚式の日から少しして具合が悪くなって、それから二ヵ月も経たないうちに神さまのところに呼ばれちゃった。
ママが天国に行く前にお父さんは「ママを結婚式に呼んで無理をさせたからだ」って自分を責めたけど、ママは「ありがとう、ありがとう。あんなにうれしいことはなかったから。ありがとう」って言ってほほえんだ。
お父さんがママのために結婚式をいそいでしたんだってことはママにはお見通しだったんだね。
ママが天国に行ったあと、お父さんはママのさいごのお願いをかなえてあげた。
ママがずっと言っていた「家に帰りたい」っていうお願いを。
ママを家に連れて帰ってふとんの上で寝かせてあげたら、なんだか本当に眠っているようで、お父さんはママに「遅くなってごめんね。おかえりなさい。そしていってらっしゃい」って言ってお別れをしたんだ。
ママがいなくなって、お父さんはすこしの間おちこんじゃったけど、お母さんに励まされて、一人前のだんなさんになってこんどはお母さんを支えていかなきゃ、ってまた毎日がんばり始めた。
それからしばらくしてぼくが生まれて、お父さんは「次は一人前のお父さんになって家族を幸せにするんだ」って生まれたばかりのぼくに誓ったんだって。
お父さんにはお母さんがいなかったけど、ママがいた。
ぼくにはお母さんがいるけど、ママはいない。
でも、ぼくもお父さんもさみしくなんかないよ。さみしくなんかなかったよ。
ママはママで、お母さんはお母さんだけど、ママはお母さんで、お母さんはママだから。
ありがとうございました。