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鬼滅屋 本舗  作者: 閃天
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第9部 4話 三対一

 地響きが僅かに響き、廃ビルの柱一本一本が悲鳴を上げ、亀裂が走る。

 大気が異様な程震え、奇妙な音が耳を突く。

 闇の様に真っ黒なオーラが漆黒の肢体を覆い、それが空間を喰らう様に広がる。そんな中で、漆黒の体に描かれた金色の太い線だけが浮き上がり、不気味に輝く。

 生暖かな風が地上から空に向って吹き上がり、それが流れる汗を気味悪く撫でると、雫となり地面へ落ちる。


『ウハアアァァァァァァッ!』


 腹の底から吐き出される声が、その場に居る皆の体を震わせ、瓦礫を砕いた。

 呼吸を整える洸が右腕に力を込めると、腕に巻かれた封鬼符に真っ赤な染みが浮き出てポツポツと血液が落ちる。血液が弾け、小さくパチンと音が鳴った。

 額から血を流し、荒々しい呼吸の夏帆は、空間の裂け目から数本の矢を取り出す。指先が僅かに震え、上手く狙いを付けられないが、漂う闇の中へと鏃を向けた。

 俊也も体がズキズキと痛み、膝が体を支えられないと泣き言を言う様に震える。それでも、気力で持ち堪え、柄を力強く握った。

 三人の視線の先に鬼がいる。闇に包まれた漆黒の鬼、幻轟。放出される殺気が足元から漂い、背筋を寒気さが通り過ぎた。体を駆け巡る血流が騒ぎたて、鼓動だけが早まる。


「俊也! 右足の踏み込みが利いてない。次は気をつけろ。ちゃんと間合いを――」

「うるせぇ! んな事分かってんだよ! お前こそ、気をつけろよ! その腕じゃあ、まともに相手の攻撃も受けられないだろ」


 荒々しく乱暴な言葉遣いに、洸は僅かに表情を綻ばせ右手を軽く握り締めた。血が滲み、腕が痛む。それでも、何食わぬ顔を見せながら夏帆の方に顔を向ける。すると、夏帆は何も言わず頷いた。

 洸が限界なのは、夏帆も分かっていた。だから、何も言わずただ頷いただけだった。

 三人が幻轟を見据える中、雨森は一人別行動を取っていた。封鬼符に氣を込め、棒状にしてから地面に突き刺す。その作業を延々と繰り返しながら、洸・俊也・夏帆の三人の様子を窺っていた。三人とも既に風前の灯と、言うに等しい状況。この状況で三人に出来る事など限られているだろうし、多分まともに戦っても勝てる見込みはゼロに近い。そう考え、雨森は今ある作戦を実行しているのだ。


(間に合うかしら……)


 不意にそんな事を思う。雨森も既に氣が底を突き掛けている。そんな中でのこの作業だ。時間は掛かるし、体力は消耗するし、自分に得な事なんて何一つ無い。それでも――


(やるしかない……わよね)


 気持ちを強く持ち封鬼符に氣を込めて地面へ突き刺す。不気味な光りを点滅させ、数十本の封鬼符が何かを模る様に並んでいた。



 うごめく闇の中で二つの赤黒い眼光がぎらつき、三人の方を順番に見ていく。幻轟の体を締め付ける封鬼符が僅かに光りを放っていたが、突如その光りが消滅し、闇が一瞬で視界から消えた。

 突然の事に一瞬戸惑いを見せた一同だが、消えない殺気に幻轟が近くに居る事を悟り、全神経を集中し辺りを警戒する。


「俊也! 夏帆! 気をつけろ!」

「分かってる。ったく、うるさくて集中できねぇだろうが!」

「俊也の方が、うるさい」


 ボソッと呟いた夏帆はじと目で俊也を見た後に、辺りを詮索する様に耳を澄ませる。風の音、草木の囁き、全てが異常なほど大きく聞こえ、不気味な程物静かだった。本当に幻轟が、この近くに居るのか疑いたくなるほどだ。

 そんな時、突如全ての音が消えた。先程までの音が嘘の様に、ピタリと止んでいた。それが、夏帆に知らせてくれる。


「来る!」


 叫び声と同時にうごめく闇が俊也の背後に現れ、殺気と共に赤黒い瞳が不気味に輝いた。


『まずは一人目!』

「っざけんな!」


 背後に現れた影に瞬時に反応を示した俊也だが、体の痛みで動き出しが遅れ、闇に映る黒い体を僅かに視界に留めた所で、腹部に痛みを伴い宙へと舞い上がった。いや、正確には腹部に鋭い拳を貰い宙へと吹き飛ばされたのだ。


「うぐっ……」


 地面へと叩き付けられ、血を吐く俊也は意識を何とか保っていた。


「し……!」


 僅かに耳に届いた洸の声。何処か怒気が篭っている様だが、何と言ったのかは全く分からなかった。頭の中が既に真っ白になっていて、自分がどんな状態なのかすら分かっていない。ただ、空を見上げていると、言う事だけは分かった。


「フー…フー……」


 ただ弱々しく呼吸を繰り返す俊也の姿に、洸は右手の拳を更に強く握り締め、闇に潜む鬼の方へと視線を向けた。だが、そこに闇も鬼の姿も無く、崩れた廃ビルの壁だけが映し出された。

 夏帆は闇の消える瞬間をその目で確認した。それは、ほんの一瞬の出来事だったが、ハッキリと見たのは確かだ。そして、正体を確かめる為、夏帆は一つの決断をする。


「洸兄。後は任せるね」

「な、お前!」


 洸の言葉など聞かず、夏帆は走り出した。何を考えているのか分からないが、その行動には意味があり、洸がそれを理解するまでには、まだ時間が掛かった。

 何かを確認する様にトントンと地面を飛ぶ様に駆ける夏帆は、途中途中で空間の裂け目を開き矢を数本打ち込む。更にわけの分からない行動を取る夏帆を、半ば呆れ顔で見据える。だが、夏帆が意味も無くそんな行動を取るわけがない事は洸も分かっていた。だから、呆れながらも視線だけは夏帆の動きを鮮明に記憶する。


「洸兄! 良く見てて!」


 夏帆が足を止め大きく空間の裂け目を作り出す。小柄な夏帆の体が丸々入ってしまいそうな程の空間の裂け目に、一本の矢を放った。通常よりも長く鏃に封鬼符が何重にも巻かれている。それが、空間の裂け目に入ると、夏帆は瞬時に空間の裂け目を閉じた。

 静かなる時が過ぎる。何が起こる訳でも無く、過ぎ行く時間に洸は不安を感じ夏帆の方へ顔を向けた。


「おい。何をしたんだ?」

「もうすぐ……分かる」


 夏帆がそう呟いた時だ。空間が捻じれ、無理矢理裂け目が作り出され漆黒の体が姿を現した。体に無数の焼け痕の様なモノが残り、白煙が体中から立ち上っている。空間の中で何があったのか、洸には全く想像もつかないが、幻轟の表情から凄い事が起きた事だけは分かった。

 体を包んでいた闇が完全に消滅したが、鋭い眼光だけは夏帆を睨みつけている。その眼を夏帆も真っ直ぐに見据え、静かに矢を射る。弦音だけが響き、矢が一直線に幻轟へ向う。だが、矢は消滅する。幻轟に届かず、何が起こったかも分からず、自然消滅した。

 眉間にシワを寄せた夏帆は、もう一度矢を射るが、やはり幻轟に届かず消滅する。確実に異変が起きており、夏帆は矢を幾ら放っても届かないと理解した。そして、右手を空間の裂け目に突っ込み、一本の矢を取り出す。


「普通の矢がダメなら……」

「おい! おまっ! それは――」

滅鬼めっきの矢」


 驚きの表情を見せる雨森がそう呟いた。その代物の恐ろしさを知っており、尚且つその破壊力を目の当たりにした事がある。アレはこの世にあってはいけない危険な代物で、それを何故夏帆が所有しているのか、その疑問よりもあれで何をするつもりなのか、という方に疑問がいった。

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