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鬼滅屋 本舗  作者: 閃天
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第6部 1話 俊也と雨森

 氣を練り込んだ封鬼符を握る俊也は、青い鬼の方に体を向け、静かに息を整える。

 額から流れた汗が、頬を伝い顎の先から落ち、地面にぶつかり弾けた。

 それと同時に、俊也が地を駆け青い鬼へと迫る。が、それより早く雨森が俊也の前へと割り込む。突然の事に顔を顰める俊也は、勢いを止める為に右足を地に踏ん張り、体を少し後ろに倒した。


「どういうつもりだ!」


 何とか踏み止まる事の出来た俊也は、目の前で背を向けている雨森にドスの利いた声で言い放つ。だが、雨森は何も言わず、佇んでいた。


「おい! 何とか言えよ」


 俊也が怒鳴ると、オレンジブラウンの髪を揺らし、静かに口を開く。


「邪魔ですよ。足を引っ張らないで下さい」

「なんだと!」


 怒りをあらわにする俊也に対し、落ち着き払う雨森は、右手に持って封鬼符に更に氣を練る。その氣の強さは、俊也にも分かる程大きく、威圧のあるものだった。圧倒される俊也は、右手に力を込め、全身の氣を集中させる。せめて雨森と同等の威圧感を放てればと、願いながら。


「ウガアアアアッ!」


 そんな二人の氣に反応するかの様に、青い鬼が雄叫びを上げた。すると、青い鬼を中心に波動が広がり、俊也と雨森の二人の体を襲う。石の破片が飛び、二人の体を裂く。血が僅かに飛ぶが、二人の視線はあくまで青い鬼を見ていた。

 波動に結の膜も波立ち、今にも割れてしまいそうだ。そんな波動に堪える俊也は、先程まで目の前に居た雨森の姿が無いのに気づいた。


(あいつ、何処に消えた?)


 眉間にシワを寄せたまま、辺りを確認するが、何処にも雨森の姿は無い。そう思った時、ヒラリと舞う雨森の姿が、青い鬼の頭上へと現れる。スカートの裾がヒラヒラと揺れ、雨森の細い足があらわとなった。

 驚く俊也は咄嗟に目を背け、左手で顔を隠す。耳まで真っ赤にする俊也は、顔を背けたまま「見て無い! 見て無いぞ! 何も見て無い!」と、叫んでいた。

 空を舞う雨森は目付きを鋭くすると、落下速度を加え刃と化した封鬼符を振り下ろす。だが、その瞬間、青い鬼の視線が雨森へと向けられ、裂けたはずの右拳が飛ぶ。


「なっ!」


 驚きの声を上げる。裂けたはずの右拳が完全に修復されているからだ。驚きつつも、雨森は封鬼符を右拳にぶつける。


「うくっ……」


 封鬼符が青い鬼の右拳に触れると同時に、雨森の腕に衝撃が走り、封鬼符がバチッと音を起て弾けた。振り抜かれた青い鬼の右拳には、傷をつける事が出来ず、雨森の体が吹き飛ぶ。それに追い討ちを掛ける様に、青い鬼の眼光が雨森に向けられ、左拳を続け様に振り抜く。空中で身動きの取れない雨森は、奥歯を噛み締め覚悟を決める。

 だが、その雨森の横を俊也が通り過ぎ、向って来る左拳に対し封鬼符を振り抜く。安定しない封鬼符の刃が、僅かに青い鬼の左拳に減り込むが、斬るまで到らず、勢い良く俊也の体が地面へと叩き付けられた。


「うぐっ!」

「俊也君!」


 地に着地した雨森が、地面に減り込む俊也の方へと駆け寄る。砕けた道路は、鋭利な刃物の様な肌を露出し、俊也の体に無数の切れ込みを入れていた。


「クーッ……。イッテー。何て硬さだ……」


 体を起し頭を二・三度振る俊也は、左手で額を押さえたまま動かなくなった。駆け寄った雨森は、心配そうに俊也の顔を覗き込み声を掛ける。


「大丈夫かしら? あんまり無謀な事をするものじゃないわよ」

「うるせぇ……。あんたに関係ねぇだろ。アイツは、俺が倒す」

「あら……。口が悪いのは、洸君譲りかしら?」


 艶かしい声に、赤面する俊也は、ソレを隠す様に勢い良く立ち上がると、青い鬼の方に封鬼符を向け叫ぶ。


「次は断末魔の叫びを聞かせてもらうぜ!」

「まぁ、それは頼もしい」

「……馬鹿にしてるだろ?」

「いいえ。惚れ惚れしそうですよ」


 完全に調子を狂わされている俊也は、怪訝そうな目を雨森に向ける。そんな俊也に笑みを向ける雨森は、チラリと横目で青い鬼の現在地を確認する。

 ギクシャクする二人の方に、青い鬼は組んだ両手を振り下ろす。風を取り巻き、轟音を響かせるその手が、地面を砕く。二手に散る俊也と雨森は、不覚にも同じ行動と取っていた。俊也は右から、雨森は左から、互いに落ちてきた青い鬼の腕を切り裂こうと封鬼符を振り下ろしていた。

 鈍い音と澄んだ金属音が響く。

 澄んだ金属音を響かせたのは、右腕を斬りに行った俊也の封鬼符で、その刃は皮膚に弾かれ大きく仰け反っていた。右腕の皮膚は硬く、刃を全く受けなかったのだ。

 一方、鈍い音を響かせた雨森の封鬼符は、皮膚を引き裂き肉へ食い込んでいるが、骨に当り中間で完全に止まっていた。表情を曇らせる雨森は、右足で青い鬼の腕を蹴ると、食い込む封鬼符を抜き、地に下りる。


「ダメね。頑丈だわ」


 首を左右に振り、間合いを取る雨森は、ふと俊也の方に目を向けた。丁度、着地した所で、俊也は苦しそうに右膝を地に着けている。限界なのは見て分かるが、その目はまだ諦めていなかった。その為、雨森は何も言わずに青い鬼を見据える。

 左手を左膝の上に置く俊也は、苦しそうに呼吸する。胸が少しだけ苦しく、手足が重い。時々、視点がズレ、意識が遠退きそうになる。


「フーッ……フーッ……。いよいよやべぇな……」


 苦しそうにそう呟く俊也は、右目を軽く閉じ、口で呼吸をする。


「しかし……。あの腕……まるで鉄だな……」


 そう呟いた俊也は、青い鬼の右腕を見た。その時、微かに青い鬼の右腕が煌いた様に見えた。だが、俊也にはソレがなんだったのか分からず、ゆっくりと立ち上がり右手の封鬼符を構える。


「こりゃ、兄貴との約束は守れそうに無いな……」


 右手に更に氣を練り、封鬼符を鋭く変化させる。と、同時に青い鬼が両拳を振り上げ、もう一度俊也と雨森に向って振り下ろす。


「何度も何度も、同じ手を……」

「この程度――」


 俊也は拳を左に避け、雨森は右足を踏み込み封鬼符を振り抜く。封鬼符が振り下ろされた勢いを利用し、青い鬼の左拳へと減り込み、肘まで真っ二つに引き裂き、青い鬼の悲鳴に近い声がこだました。


「グオオオオオッ!」


 二つに裂けた左拳が、力なくブラブラと揺れ、右手で左肘を押さえ、苦しみ悶えていた。だが、それも束の間。裂けた拳は、根元の方から縫合されて行き、その数秒後には完全に修復されていた。

 これには、流石の雨森も驚き言葉を失う。そして、確信する。自分が考えていたよりも、格段にあの鬼が強いと言う事を。

 おもむろに、掛けていたメガネを外す雨森は、静かに口から息を吐き出すと、目の色を変えた。今まで以上に鋭く、殺気を帯びた眼光。雨森も本気を出さなければならないと、悟ったのだ。


「本気で行きます。覚悟してください」

「グウウウッ……」


 右手に持った封鬼符が更に輝き、眩い光を放つ。その光に目を奪われる俊也は、呆然と立ち尽くしていた。


「すげぇ……」


 ボソッと呟き右目を閉じ、雨森の姿を目で追う。

 地を蹴った雨森は、一直線に青い鬼へと向っていく。完全に標的を雨森へと絞った青い鬼は、右拳を向って来る雨森へと落とす。しかし、右拳は雨森にかわされ、地面を砕いただけだった。破片が無数飛び散るが、雨森は気にせず前進する。


「ぐおおおおっ!」


 雄叫びと同時に、今度は左拳が振り下ろされた。前進することを止めない雨森は、左方向に飛びつつ、その拳を封鬼符で右に払う。左拳も地面へと衝突し、激しい地響きと砂埃を立てる。

 両拳が地面に減り込み、身動きの取れない青い鬼の真下まで移動した雨森は、その姿を見上げ呟く。


「終わりよ。絶――」


 轟々しい音が響き、雨森の持つ封鬼符が更に勢いを増し光を放つ。絶が封鬼符の中に流れ込んだのだ。それを構え直した雨森は、地を蹴り青い鬼の頭上へと飛ぶ。青い鬼と視線がぶつかる。だが、顔色一つ変えずに雨森は叫び、封鬼符を振り下ろした。


「斬!」


 額へと振り下ろされた封鬼符は、止まる事無く真っ直ぐ地面まで落ちた。ソレと同時に光が消え、封鬼符が流れ込んだ氣に耐え切れず黒焦げ消滅する。雨森は少しだけ呼吸を荒げながらも、静かにメガネを掛け、


「終了」


と、呟き、鬼の体が背中から崩れ落ちた。

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