表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼滅屋 本舗  作者: 閃天
16/40

第5部 1話 狙われた洸

 楓が家に着てから数日が過ぎた。

 相変わらず騒がしい朝。そして、相変わらず寝癖で外撥ねした黒髪の洸。眠そうに大きな欠伸をし、寝癖頭を掻き毟る。昨日は久し振りに本業の依頼があった。その資料をまとめていた為、現在は寝不足だ。

 寝不足で思考が少々衰える洸は、コップ一杯の水だけを飲み家を出る準備をする。その行動に、朝食を食べる皆は驚きの表情を見せ、硬直していた。箸を銜えたままの俊也。目を丸くしている夏帆。洸のご飯をお椀に盛ろうとしている結衣。珍しそうな表情を浮かべる弘樹と千尋。一方で、表情一つ変えずに洸の背中を見つめる楓。

 一瞬だけ時が止まってしまった様な錯覚を覚えた。皆が我に返ったのは、洸が振り返り不思議そうな表情をし、口を開いてからだ。


「んっ? どうかふぃたか?」


 言葉の合間に欠伸をする洸は、眠そうな顔で皆の顔を見る。驚いていた結衣は軽く首を左右に振り、洸に尋ねた。


「洸兄、ご飯は?」

「いや……いい。当分、俺の分の飯は作らなくていいから」

「エッ、でも、体――」

「平気だ」


 洸はすぐに結衣の言葉を遮る。それから、思い出した様に口を開く。


「それから、暫く帰りが遅くなると思う。依頼の電話があったら、メモって事務所の俺のデスクに置いといてくれ」

「う、うん。わかった。けど――」

「それじゃあ、行って来る」


 洸はまたすぐに結衣の言葉を遮った。そして、他の者に発言させぬまま、家を出た。呆然とする結衣と夏帆と俊也の三人。こんな事初めてで、戸惑っていた。不安になる結衣は、心配そうな瞳で洸の出ていた後を見据える。


「洸って、いつもあんな感じなの?」


 困惑する中、初めに口を開いたのは、楓だった。不思議そうな表情をする楓に、俊也が半笑いを浮かべ答える。


「まぁ、大抵あんな感じだけど、今日のは特にヤバイ感じだな」


 俊也は右目を軽く閉じ、すぐに開く。そして、卵焼きを一切れ口に運んだ。「ふ〜ん」と、静かに頷く楓は、ご飯を口に運び不思議そうに首を傾げた。

 目を細める夏帆は、妙な胸騒ぎを感じていた。結衣の感じる不安とはまた違う不安を脳裏に過らせる。力の暴走。かつて自分が引き起こしたあの惨劇を不意に思い出した。



 何度も欠伸を繰り返す洸は、今回の依頼について考えていた。依頼自体はいつも通り。自分の周りの人が突然怪我をしたり、何かに襲われたりと、不運な事が続くと言う現象。これは、その依頼者と何らかの関わりのある者の魂が鬼となったものだ。だが、受話器越しの依頼人は何処か怯えていた。確かに自分の周りの人が傷付けば、不安にはなるが、そこまで怯えるだろうかと、洸は考える。鬼が依頼者を襲う確率も少なくは無いが……。

 ボンヤリと考えながら歩く洸は、静かに息を吐く。寝不足が祟ったのだ。思考回路が上手く回らない。右手の人差し指と中指で眉間を押さえる洸は、もう一度静かに息を吐いた。

 一休みする為に、洸は公園へと足を伸ばした。学校までは目と鼻の先の距離。それに、まだ時間には十分余裕があった。その為、洸はベンチへ腰を下ろし、背凭れに凭れ掛かり空を見上げる。だが、朝日が眩しかった為、すぐに右腕を両瞼の上に乗せた。


「ふう〜っ……」


 疲れ切った吐息。考えれば考えるほど、分からなくなり、更に思考がグチャグチャになる。徐々に目が虚ろになり、視界が薄らとなってゆく。眠気――それが、洸の意識を遠退かせた。

 どれ位の時が過ぎたのだろう。洸は頬に落ちる冷たい雫で目を覚ました。開かれた視界には淀んだ空が浮かび、雫な静かに落ちてくるのが微かに見えた。


「雨……か」


 ボソッと呟いた洸は、空気を吸い込み、静かに吐き出した。雨の匂いが微かに漂い、異様な空気が辺りを包み込む。その異変に洸自身気付いていた。


「結……か? いや! これは!」


 洸は素早くベンチから立ち上がり、その場を飛び退く。激しい爆音が辺りに響き、ベンチが砕け散った。体勢を整える洸は、右拳を握り締め氣を集め、顔を上げる。その視線の先には、青い肌の鬼と一人の少年が立っていた。それは、あの雨の日に見かけてた少年だった。


「鬼と一緒? お前、何者だ!」

「君には関係ないよ。死んでくれ」

「なっ!」


 少年が右手を洸の方に向けて伸ばすと、横に立っていた青い肌の鬼が、洸に向って突っ込む。一瞬で鬼が洸の目の前に現れ、振り上げられた右拳が振り下ろされた。


「クッ!」


 鬼の右拳が地面を砕く。紙一重で拳をかわした洸だが、破片が洸の体を襲った。


「うぐっ――うがっ!」


 破片を浴び後退する洸だが、その背中に激痛を伴い崩れ落ちる。そして気付く。ここが外とは障壁で隔離された場所だという事を。


「グッ……この術は……」

「お気づきになりましたか? これは、滅破の術“結”を応用し改良した術。結衝――触れれば、只じゃ済みませんよ」


 不適な笑みを浮かべる少年は、茶色の髪を掻き揚げ、鋭い眼差しを洸の方へ向けた。その目を睨み返す洸は、下唇を噛み締めると、立ち上がり少年に向って走り出す。だが、少年が首を軽く左に振ると同時に、青い肌の鬼が洸を弾き飛ばした。


「うぐっ!」


 弾かれた洸の体は、地面を抉った。横たわる洸は、苦痛に表情を歪め、右手で左腕を押さえる。咄嗟に体を左腕で庇った為、左腕は血に染まっていた。傷は大した事は無い。只の掠り傷程度だ。だが、この腕では滅破の術を使う事は出来ない。いや、出来はするが、その時は左腕も消し飛んでしまうだろう。


「うがあああっ!」


 腕を押さえる洸を睨む鬼は、大気を揺るがす程の雄叫びを上げる。空気が揺れ、その波動で大地までもが揺れ、散乱する砕石はその波動に耐え切れず砕け散った。鬼の発する雄叫びは、洸の体にも振動を与え、体の自由を奪う。


「うぐっ……。な、何だこれは……」

「僕の鬼は、強いです。あなた方滅破などには殺せない」

「寝ぼけるな……。俺は……全ての鬼を――殺す!」


 洸は奥歯を噛み締め、右手に氣を集中する。封鬼符を巻いていない為、氣が上手く集まらない。だが、着実に右手の内側に光が凝縮されていく。そんな中、洸は見た。結衝の膜が僅かにぶれている事に。

 それは、結衝がまだ未完成だと言う事を表していた。この現象に、洸はこの状況を打開する唯一の策を閃く。そして、それを実行すべく為、洸は全力で右手に氣を集める。


「うおおおおっ!」


 洸の雄叫びが響き、それを少年はせせら笑う。


「動く事も出来ないあなたに、僕の鬼は倒せませんよ」

「今は……無理でも……次会った時に……必ず倒す!」


 洸は右拳を振り上げ叫ぶ。


「吹き飛べ!」

「なっ!」


 少年は驚いた。洸は振り上げた拳を、地面に向って突き立てたのだ。


「壊!」


 洸が叫ぶと同時に、爆発が起き辺りを光が包み込んだ。


「クッ! 目晦ましか!」


 少年は右腕を目の前に翳し、光を直接見ない様にする。その時、微かにだが結衝の障壁が揺らぎ、バチンと言う大きな音が聞こえた。


「ま、まさか!」


 眉間にシワを寄せる少年は、砂塵が消えるのを待った。そして、砂塵が消えた後、目の前の光景に少年は驚愕する。破壊された結衝の障壁。砕かれた地面の陥没。自分の予測を遥にうわ回す光景が目の前に広がっていたのだ。


「壊の反動を利用して、結衝の障壁を破ったというのか……」


 驚く少年は、暫くその場を動く事が出来なかった。まさか、この結衝の障壁が破られるなんて、思っても無かったからだ。だが、正気に戻ると、すぐに鬼を消し、結衝を解いてその場を足早に去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ