第1部 1話 鬼滅屋活動開始!!
この世には、鬼が沢山存在する。
人の怨み妬みから生まれる鬼。
この世に未練の残った魂から生まれる鬼。
動物の怨みから生まれる鬼。
動物達の魂から生まれる鬼。
捨てられた物から生まれる鬼。
大抵はこの五つの分類に分かれる。
生まれてきた鬼は、人を喰らう。自分の恨みのある者を喰らったり、無差別に人の魂を喰らったり、鬼が人を襲う理由はそれぞれだ。
そんな鬼達を退治する術を持つ者達を、人は“滅破”と呼ぶ。彼等は特別な術で鬼を滅し破壊する。
そして、ここにも一人の滅破が居た……。
古びた二階建ての物件。一階は普通の家。二階は何かの事務所になっている。そんな事務所の外階段を駆け上がる制服にエプロン姿の少女。彼女が主人公……ではない。彼女はこの事務所の一階に住む高校一年神村 結衣。可愛く、勉強も出来、料理も上手い。きっと男はこう言う女性に惹かれるのだろう。
結衣は事務所の戸の前に来た。戸の上部にある磨ガラスには、大きく“鬼滅屋”と書かれ、ドアノブには『只今睡眠中』と言う札が糸でぶら下げられていた。その札を結衣はドアノブからとる。そして、ため息混じりに呟いた。
「もう……。朝は忙しいのに……」
困った表情をする結衣は、頭の後ろで束ねていた長い黒髪を解く。そして、もう一度頭の後ろで綺麗に束ねる。そして、優しくドアをノックし、部屋の中へと呼びかける。
「洸兄? 起きてる?」
シーンと静かで返事は返ってこない。その為、結衣は渋々とドアノブを右手で回す。
戸の金具が軋み嫌な音を起てる。結衣はこの音を聞くのが、嫌だった。だから、なるべくここには近付かない様にしていたのだ。
事務所は殺風景で、大きなデスクと、向かい合ったソファーに挟まれたテーブル。他には本棚が幾つかあり、様々な本が並んでいる。デスクの上にも色々な資料や本がいくつか束になって置かれていた。
「もう……。また、片付けないで眠っちゃって……」
深々とため息を漏らすと、右手で額を押さえてもう一度ため息を漏らす。
そんな時、ソファーの方から寝息が聞こえる。
「はふっ……むにゃむにゃ……」
唖然とした表情でそのソファーに眠る少年を見据える。着ている制服がクシャクシャで、ボタンが全開の為、下から着ている赤のTシャツが丸見えになっていた。
楽しい夢でも見ているのか、少年は嬉しそうに笑みを浮かべており、その無邪気な寝顔に、少し怒りを覚える結衣は、寝ている少年の右頬を抓る。
「イダダダダッ!」
「おはよう。洸兄」
微かに眼に涙を浮かべる少年。彼が主人公で、この事務所の責任者神村 洸。結衣と同じく高校一年。一応、結衣とは兄弟と言う事になっている。だが、血は繋がっていない。洸も結衣も、ある男に拾われた子供だった。他にも四人いるが、その四人ともその男に拾われた血の繋がらない兄弟だ。
寝癖で外に撥ねた黒髪は、いつもよりボリュームが大きく見える。そんなボサボサの髪を掻き毟る洸は、ボーッとしながら事務所を見回す結衣の顔を見つめていた。散らばった資料を片付ける結衣は、「資料はちゃんと片付けてよ」と、愚痴を零す。だが、洸の返事は返ってこない。
「ちょっと、聞いてる? 洸に……」
振り返った結衣の目に入ったのは、ソファーに座りながら眠る洸の姿だった。呆れ返る結衣は、集めた資料を思わず床に散らばらせる。そして、額に青筋を浮かべて洸の右耳に向って怒鳴った。
「起きろー!」
「のわっ!」
結衣の声に驚き跳ね起きる洸は、ソファーの前にあるテーブルに脛をぶつけた。ガンと鈍い音が短音で響き、洸が蹲り言葉にならない声を発している。深々とため息を吐く結衣は右手で顔を押さえ、首を左右に振った。
それから数十分掛かり、洸と結衣が一階へと移動していた。洸の脛は少し腫れているが、制服のズボンに隠されどうなっているのかは、本人以外分からない。もちろん、結衣も心配はしていたが、洸が「心配ないよ」と言って診せてくれない為、どうする事も出来ないのだ。
居間の縦長のテーブルの真ん中に座る洸は、眠そうに欠伸をしながら頬杖を付いている。ジッとしていると、睡魔が襲いウトウトとしてきた。そんな時、洸の後頭部を何か硬い物が強打する。
「はぐっ!」
頭部を襲ったいきなりの打撃に悶絶する洸。
「あっ……ごめん」
洸の後ろに一人の少女が立っており、彼女が静かに洸に謝る。肩口まで伸ばした茶色交じりの黒髪に、セーラー服姿の少女は、中学三年神村 夏帆。物静かで大人っぽく見える。
「いてぇーよ。一体、何で殴ったんだ?」
「何でって……」
頭部を押さえて涙を見せる洸に、左端に座った夏帆が鞄を見せる。
「お前……鞄で殴ってこんなに痛むかよ……」
「ごめん……これ入ってた」
夏帆が鞄から厚みのある辞書を取り出す。それを見た洸は、頭部を襲った激痛の理由を理解した。
頭部が軽く疼く。その為、涙を浮かべていた。そんな時、キッチンから結衣の声が聞こえる。
「チーちゃんとヒロ君は?」
「まだ寝てる……と、思う。起してくる?」
「うん。お願い夏帆」
夏帆は静かに立ち上がり、洸の後ろを通過し、廊下へと出て行った。それと入れ違いで、手鏡と向かい合った一人の少年が入ってくる。黒髪をヘアーワックスで整え、鏡を見ながら笑顔の練習をしている少年は、中学三年の神村 俊也。右目を閉じ、鏡と睨み合う。
「うーん……」
唸り声を上げる俊也の方に、顔だけ向ける洸は、呆れた様に眼を細める。
「何やってんだ? 鏡と睨み合って」
その言葉に手鏡を下ろす。そして、鼻頭にシワを寄せ、めんどくさそうな表情を見せる俊也は、小さく舌打ちしてから口を開く。
「あのな……。身だしなみは、男として当たり前の事だろ?」
「ふ〜ん。見た目が全てじゃないと思うぞ」
お茶をすすり静かに息を吐きながら呟く。だが、そんな言葉に俊也は耳を貸さず、もう一度鏡と睨み合う。困った表情をする洸は、鼻から息を吐く。
そこに、二人の少女と少年が眠そうな眼を擦りながらやってきた。後ろには夏帆が立っており、二人を静かに席へと座らせる。
寝癖も立たないほどサラサラの黒髪の少年は、小学二年の神村 弘樹。澄んだ綺麗な瞳が、今にも塞がりそうな瞼の奥から、チラチラと見え隠れする。
一方、腰まで届く長い艶のある黒髪の少女は、小学二年の神村 千尋。左の目尻の小さなホクロが可愛らしく、まだ幼さが残る。
ようやく、全員が集まり、キッチンから朝食を結衣が運んでくる。皆の前にご飯の盛られた御椀が順番に置かれていく。皆の前にご飯が置かれ、「いただきます」と、皆で手を合わせて言い食事が始まる。
初めは静かだった朝食の時間だが、それが徐々に慌ただしくなる。
「あっ! やべぇ、もうこんな時間じゃねぇか!」
「おっ、本当だ。もう八時回ってる」
俊也の言葉にいち早く反応したのは、洸だった。それに続く様に、結衣、夏帆と続く。
「うわっ! ど、どうしよう!」
「急がないと遅刻……」
慌て始める俊也、結衣、夏帆の三人の姿に、弘樹と千尋が楽しそうに笑い出す。そんな二人に、軽く笑みを浮かべる洸は、「お前達も急がないと遅刻だぞ」と、呟いた。すると、二人も状況を飲みこんだのか、大慌てで食べ終わった食器を流し台へと持っていった。
そんな光景をのん気に笑みを浮かべてみている洸に、学校へ行く支度をした結衣が不思議そうに問いかける。
「洸兄。のんびりしてていいの?」
「ンッ?」
「今日は、依頼が……」
夏帆が居間を出て行く間際にそう呟く。その言葉に、思い出した様に「おおっ!」と、声を張り上げた洸は、立ち上がり伸びを一つ。
「ンーッ! そうだったー。それじゃあ、早速! 鬼滅屋、活動開始しますか!」
どうも。崎浜秀です。
調子に乗り、短編だった『鬼滅屋』を、何と連載する事にしました。
まだまだ力不足の為、誤字脱字など色々と読み辛くなってしまうかも知れませんが、最後まで読んでいただける様な作品に仕上がる様頑張りたいと思います。
ちなみに、短編とは色々と設定が変っていますが、ご了承ください。
それでは、これから先、『鬼滅屋 本舗』をよろしくお願いします。