婚約破棄ですか!?すぐいたしましょう!
「アリアナ!お前との婚約を破棄する!そして俺はレイラと婚約する!」
学園の広間に響きわたるグレイルの声。その隣で、べったりとグレイルにもたれかかるレイラ。明らかに男女の距離感。グレイルの声で集まってきた生徒達も、その光景を呆れたように眺めている。
普通ならば怒る場面なのかも知れない。憤って、そこらへんにある花瓶でも投げつけてやるべきなのかも知れない。むしろ逆に鼻で笑ってもいいのかも知れない。だけど……
「え!?婚約破棄ですか!?ぜひいたしましょう!すぐにいたしましょう!今日中に正式な文書を送らせていただきますわ!」
「お、おう」
私の喜びように、グレイルは若干引いているように見える。レイラも怪訝そうな顔で睨みつけ、声を出す。
「どうしてそんなに婚約破棄を喜んでいるのかしら。普通泣いたり憤ったりする場面だと思うのですけど」
「こんな負債物件、人に押しつけられる機会はそうそうありませんから!」
「なっ!誰が負債物件だ!」
私の発言に周りの生徒が吹き出す。グレイルは顔を赤くしながら、私を睨みつけた。
「どうしてグレイル様の事を負債物件なんて呼んでいるのかしら。だって伯爵家の令息ですわよ?――もしかして負け惜しみでもしているのかしら?」
「具体例を挙げればキリがないのですが……例えば、酒に弱いのにバカみたいに飲んで吐瀉物をまき散らしますし、賭け事にお金を使いすぎて伯爵家の金庫からお金を盗んでいますし、女性であれば手当たり次第に声をかけますし」
「お、おい!それ以上言うんじゃない!」
「それになんと言っても、伯爵家自体が結構怪しいですからね」
「おい!無責任な発言をするんじゃない!そろそろ黙れ!」
鬼のような形相のグレイル。人間の顔って、あんなに赤くなれる物なのね。そろそろ頭の血管が切れるんじゃないかしら。
「……どうして伯爵家が怪しいと思うのですか?」
「おい!レイラまで!あんな女の話なんて聞くな!」
「たいした話じゃありませんよ。もともと伯爵領は重税を課しすぎなのです。その影響で民がだんだん領地を離れています。でも生活水準を下げたくない伯爵家の方々はさらに民へ重税を課し――という醜い悪循環が行われているのですよ。我が男爵家にもたくさんの領民が流れ込んでいるので」
「おい!黙れと言っているだろう!」
「そうなのね。ありがとうアリアナさん」
レイラはグレイルに預けていた体を起こし、自分の足で立った。
「グレイル様、婚約のお話はなかった事にいたしましょう」
「お、おい!あんな女の言うことを信じるというのか!」
「……婚約はなかったことに」
レイラはそう言うと頭を下げ、グレイルに背を向けた。
今ここで婚約をなかったことにするなんて、すごい度胸だわ。だって今の話を聞いて婚約破棄するなんて、明らかに伯爵家の力しか見ていなかったと言っているようなものだし……たぶん、レイラはこれから婚約相手探しに苦労されるわね。
「では私もこれにて」
「ま、待ってくれ!婚約破棄を取り消させてくれないか!?もう一度やり直そうではないか!」
「全力で遠慮させていただきますわ!」
私はそう言うと、完全にグレイルに背を向けた。もう二度と振り返ることはなかった。
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