第60話 ニオブとの対決と、死んだ人の居場所と、ダンス
奥の部屋に入るとニオブが待ち構えていた。
「やはり来たか」
「認めたくないが、兄弟だからな。お前の不始末は俺がこの手で決着をつける」
「元はといえばお前がいけないんだ。お前が産まれてから家の中がギクシャクし始めた。俺に変な重圧が掛かったのもお前のせい。お前を跡取りになんていう声まで出て来たのだぞ」
「御託はそれだけか。マイラの知り合いの仇も討たせてもらう」
「仇? 何の事だ?」
「魔法学園でスラムの住人に会っただろ。そして、実験台にして殺した」
「ああ、あの生意気な坊主か。魔法学園で道など俺に聞くから、知らんと言ったら、怒り出した。後でスラムで見つけた時にはこいつを殺すのは運命なのだなと思ったよ」
「許さん」
俺はスペルブックを開いて構えた。
「ふん、ほざいてろ【大電撃】」
ニオブは電撃を握り潰した。
こいつ、どうなっているんだ。
「ふん。今度はこちらから行くぞ。【太陽火球】」
「【バリア最大】。不味いもたない。くぁ、あれ? ほとんど痛くない」
「魔道具で魔力をアップしてるのだったな」
「ニオブ、もうお終いか。こっちはまだまだ奥の手があるぞ。【極大電撃】」
「ぐがぁ」
極大の電撃の余波で建物にひびが入る。
この更に上の威力の奴もあるんだがな。
それを使うと建物が吹っ飛びそうだ。
「どうやら効いたようだな」
「何故勝てない?」
「何故って? そんなの決まってるだろ。守る物がない奴が勝てる訳ないだろ」
「アルミナの遺言を守る俺が負けるはずはない」
「本気で言っているのか? お前はアルミナの何を守った。アルミナの居場所を守ったのかよ」
「死んでいる人間の居場所を守って何になる」
「もう良い。死んでろ」
「馬鹿め。話している間に麻痺が解けた。魔石よ俺に力を」
ニオブが気合をいれると衣服がはじけ飛んだ。
腹にはいくつもの黒い魔石が埋め込まれているのが見て取れた。
肉がぶよぶよと蠢いて、肉団子に手足がついたような形になる。
「死んでおけ。【極大電撃】【極大電撃】【極大電撃】【極大電撃】」
ニオブが光に包まれ、後には何も残っていなかった。
上手く言えないけどさ好きな奴が死んだら、そいつが好きだった物を守りたいなんて思うんじゃないかな。
それが風景だったり、一緒にした事だったり、人によって違うけど、そう言う物を守りたいってのが、居場所を守る事なんじゃないかな。
俺はしばらく色々と考えた。
どれぐらい考えていただろう。
「やっぱり、こうなりましたか」
声と香水の匂いがして振り返ると、死んだはずのアルミナがいた。
伯爵の子飼いの情報機関は優秀だな。
この場所を割り出すなんてな。
「アルミナか。生きているような気はしたんだ。脈はどうやった」
「手品師に教わりました。タネは喋りません。無粋ですから」
「スリの男もグルだったんだな」
「ええ、刃物にも手品の細工がしてありました」
「ニオブに何か思うところはないのか?」
「短い間ですが、婚約者として学園で一緒に過ごした仲ですし。色々と思うところはあります。私も努力はしたのですよ。なんとか彼をまともにしようとしました。ですが、全て無駄に。いいえ、言っても仕方ありません」
「色々な背景は理解できる。伯爵家から公爵家に婚約破棄はしづらいとか。実家の商売が公爵領と関係なくなったとか」
「ええ、そうですね」
「これから、どうするんだ」
「レクティと名前を変えました。これからは平民のレクティとして生きていきます」
「そうか。幸せにやっているならいい」
「ではまたお会いしましょう」
「またな」
アルミナ改めレクティはニオブのいた辺りを一瞥すると、去って行った。
帰ろう。
何か疲れた。
部屋を後にしてマイラと合流する。
「決着は?」
「ああ、着いたよ」
「もっと踊りたかったな」
「じゃあ踊ろう」
マイラと二人、静寂が支配する廃墟みたいな研究所で踊る。
終わったな。
考えてみればニオブも可哀そうな奴だ。
母親の嫉妬の犠牲者だ。
あの親のどちらかがまともだったら、救いみたいなものがあったかも知れない。
唯一心を許したアルミナにも騙された。
いや、あの偽装工作は、ニオブに目を醒ましてほしいというアルミナの最後の賭けだったのかも知れない。
でもニオブは目を醒ますどころか暴走してしまった。
どうしようもない奴だったな。
「くおらぁ。もっと早く連絡せんか」
ランシェが押し掛けてきた。
「ごめん。感傷に浸ってた」
「踊りながら言われても説得力がないわ」
「それなりに激戦だったんだよ」
「ボロボロの服をみれば分かる。だが、こちらはこれから後始末で大変なのであるぞ」
「それが仕事でしょ」
「少しは母を労わらんか」
「お疲れ様。マイラもお疲れ。もう満足したよね」
「うん」
「じゃ凱旋だ」
マイラと二人手をつないで街をゆっくり歩いて行く。
マイラが隣でうふふと笑っている。
こういう瞬間が幸せなんだなと、守りたい居場所なんだと思う。




