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第6話 ミリアルデ家とお姫さま

トルマド殿との会食は楽しく過ごせた。

1つミスを挙げるとすれば、おじさん達で大いに盛り上がりすぎた為、トルマド殿の家族とは長く話せなかった点だろう。

もちろん伴侶であるミリアルデ夫人には最初に挨拶していたが、それでも会話の時間は短かった。


ミリアルデ夫人の名前はネーベルさんとのこと。

肩に少しかかるくらいのレイヤーロブの髪型に薄目のエメラルドの髪色が美しい。

顔つきの表情も柔らかく、目尻が下がっているため優しい印象を与える。

きっとトルマド殿が若かりし頃、熱心に口説き落としたのであろうと想像してしまうほどに穏やかそうな女性だった。

これで42歳とトルマド殿より年上と聞いたときは素直に驚いた。

が、話してみるとその見た目に反して自分の意見をちゃんと口にだせる女性だと僕はすぐに気付くことになる。


会食中は妻として一歩引いた立場を守っていたが、ある程度のところでお話する機会をもらう予定だったそうだ。

ところがトルマド殿がいつまでも僕を手放さなかったので、昨日は最新のリヴェリナ王都の流行について話が聞けなかったと憤慨してたのこと。

僕もそのあたりのバランスを欠いてトルマド殿とずっと話してしまったことに気づき、翌日はお詫びとして僕が研究中の多肉植物で作った化粧水とその植物の種、及び化粧水のレシピをプレゼントした。

このプレゼントは甚く(いたく)喜んでもらえた。


そして、この後が凄かった。

すぐに庭師を手配すると、専用の畑を作るよう命じたのだ。

そう、庭へ埋めるのではなく、畑だ。

本格的に増やして、領内で化粧水を生産する気だろうか。


「アルトゥス様!レシピは我が家の宝にしますね!」


違う、これ化粧水の技術を独占する気だ!

なんなら増やしても外に出さず、自分だけで使うつもりかもしれないぞ。

うーん、まあまだ研究段階の基礎化粧水だし、改良して量産するころまでに増産できる体制を整えられるであろう。

安定後はレシピを一般公開するかもしれないですよといったら、その時は美容品専門の商会をたてるので、権利を買い取らせてくださいと頼みこまれた。


うん、これはたくましい女性だ。

そういった前のめりさは嫌いじゃない。

ので、私の趣味である野草研究に融資してくれるならと交渉してみた。

そしたら研究用の環境と設備も整えるのですべてお任せください。

アルトゥス様からは一切費用は出させません!と張り切っていた。


トルマド殿もその勢いに苦笑いして、家内が申し訳ないと頭を下げられた。

まあ、僕としてはアリヴィエ国内でパトロンがつくようなものなのでありがたいことだ。

本来の目的である農地開拓が軌道に乗るまでは育成環境の整備と収穫量の増加を目指すことにして、この件の続きについてはまた改めて話し合うことを約束した。

スタートアップとしては、まず今の畑で育てられるかどうかを試行錯誤するだけでも研究成果としては上々になるはずだから、その間は僕がいなくても進捗は問題なさそうだろう。

 

子供も2人紹介された。

1人目は歳が今年で22歳の長男。

名前はシルバナ=ミリアルデくん。

カルマショートにした髪型とアッシュグレーの髪色はまさに父親の血といったところか。

ワイルドさを感じる瞳も父親似で、きりっとしており、好青年という言葉がよく似合う男子だ。


その22の長男にたいして、下がなんと10歳の女の子。

名前はエーリス=ミリアルデちゃん。

ハーフアップの髪型に、母親と同じエメラルド色の髪型がキュート。

母親似のちょっとたれ目に、もちもちしたほっぺたのえくぼが似合う美少女だ。


上が22に対して、10近くも年下の可愛らしい姫様にトルマド家はメロメロだった。

そんなちょっと年の離れた兄妹である2人。

共にエルフと会うのは初めてで、会うのを楽しみにしてたらしい。

が、会食時はトルマド殿が僕を独占したことでまったく話すことができず、こちらも批難轟々だったらしい。

ので、本日は首都から先ぶれの返事がくるまで2人とコミュニケーションを取ってほしいと拝まれてしまった。

まあ、こんな素直そうな子たちならいくらでもお相手になってよい。

2人とも興味津々でいろいろ聞いてくるし、何よりこの小さな姫さまの懐きっぷりが微笑ましい。


「アルトゥスさま、えるふの森にはようせいさんがいるのですか?」


「妖精というより、精霊がいるのですよ。

肉体を持たず、自然の中で生きる不可視の生き物たちです。」


「エルフ様は森で一生を暮らし、千年を生きると聞いております。

本当でしょうか?」


「森のエルフはほぼ外界に出ませんね。

そして、大変長寿です。私もこう見えて200歳を超えるんですよ。

おじいちゃんなんです。」


「アルトゥスさまは、とても、おきれいで、すてきです……。

おじいさまにはみえません!」


「あはは、ありがとうお姫さま。

素敵なレディに褒められるのは、男の誉ですよ。」


「まあっ……!」


「よかったな、エーリス。本物のエルフ様にお会いできて。」


「はい、お兄さま!ゆめのようなじかんですわ!」


「シルバナくん。

僕のことはエルフ様ではなく、アルトゥスと呼んで構わないよ。」


「よろしいのですか?

で、では私も父とおなじく、アルトゥス殿とお呼びさせていただきたいです……!」


「ええ、もちろん構いませんよ。」


「あ、あの。アルトゥスさま。わたくしも名前でよんでほしいですわ。」


「かまいませんよ。

エーリス嬢がよろしいですか?それともエーリス姫のほうがよろしいでしょうか?」


「ま、まあっ!どうしましょうお兄さま。

わたくし、おうじさまのようなかたにものがたりのおひめさまのようなあつかいをされてしまいましたわ!」


「淑女として扱ってもらってよかったな。

私もエーリスはお姫さまのように可憐だと思っているぞ。

……アルトゥス殿、あまりエーリスをときめかさないでください。

絵物語の王子のような方なのですから、恋心が芽生えてしまいます。」


「おや、申し訳ない。

可憐なレディに失礼のないように心がけていましたが、エーリス嬢には刺激的すぎましたね。」


「か、かまいませんわ!

わたくしもりっぱなレディとしてひびけんさんしておりますの!

ぜひつぎはぶとうかいでエスコートしてほしいですの!」


「はは、それは光栄ですね。

姫からお誘いがあったという誉を糧に、お役目を全うしたく存じます。」


「ほまれだけではだめですー!

ほんとうにエスコートしてくださる約束をしてくださいましー!」


安易に女性のエスコートの約束は僕のポリシーに反するので、やんわりはぐらかそうとした。

が、流石10歳といえど女性。

こっちの思惑をすぐに見抜いてきた。

いかんいかん、あまりに健気で好意をまっすぐ向けてくる子供がかわいくて仕方ないからといって、王子ムーブが過ぎたな。


「ところでシルバナくん。

エルフに対して様付けしてたけど、偏見とかないのかい?

正直なところ、エルフのイメージって高慢な差別主義というのがパブリックイメージだと思っていたんだけど。」


露骨に話をそらしてシルバナくんに話を振った。

当のシルバナくんはその露骨さと、話をそらされたことで返事をはぐらかされたエーリス嬢に抗議の目線を送られてしまったことに苦笑いを隠せない。

すまん、シルバナくん。不本意な目線を代わりに受けてもらって。


「……そうですね。巷に広がるエルフのイメージはそうらしいというのは聞いたことがあります。

ですが、この家にはエルフの勇者の絵物語が代々伝わっているのです。

この作者がかつてあるエルフと友人になり、共に旅する関係であったミリアルデ家の者が描いたものなのです。

そのせいか、当家では小さい頃からエルフといえば絵物語に描かれたとても心優しい勇者という認識になっているのです。」


明らかに恨みますよという目線と苦笑いを向けながらシルバナ君はそう答えた。


「とくに、アルトゥスさまはそのゆうしゃさまにおかおが似ておりますの!

まるでえものがたりからとびだしてきたようですの!」


テンションがあがってフンスと息をあげるお姫さまである。

似ているねぇ。そういうこともあるだろう。

外の世界に飛び出るエルフっていうのは、自画自賛になりがちだが美形が多い。

というか、美醜にうるさい種だからこそ、ある程度の見た目がないと外にでることもできない。

そうでもないエルフが外に出ようとしたら、場所によっては処分されてしまうだろう。

身内にしたって過剰な習性だと思う。嫌な話だ。


「と、ところでアルトゥスさまは、ごこんやくとかされていらっしゃるのですか?」


「あっ!だめだよエーリス!そういったことを本人に聞くのは失礼だよ!」


エーリスちゃんがもじもじしながら凄い質問してきたけど、それを聞いたシルバナくんが慌ててそれを止めてきた。

む?妙齢の男性に婚約者がいるかどうかを聞くことはそんな礼を失することだったっけな?

しゅんとしてしまったエーリスちゃんを気遣うように見えるシルバナくんが、チラチラこちらを伺いながら、何かを察してほしそうに目線を送ってくる。


もしかして、シルバナくんはアレのことを知ってるのかな?

だとしたら、ここで僕がエーリスちゃんにかける言葉はこれがいいかな。


「ふふ、そうですね。

お姫さま、こんな歳の男性が決まった所帯がなさそうに表に出ていたら、本人以外に聞くほうがよろしいですね。

ちなみに、今は所帯を持つつもりがありません。

私は国の命に従い、この国へ特使として訪問致しましたので。

身軽なほうがよいのです。」


「は、はい!もうしわけありませんでしたわ!

そうですね、とくしさまですものね。

ごこんやくしているばあいではありませんものね!」


おひとり、おひとりと小さな声で呟きながら両手でほっぺたをおさえる。

可愛らしいねぇ。

シルバナくんに目を向けると、小さな声でご配慮ありがとうござますとお礼を言われた。

まあ、今すぐなんとなくはぐらかしている理由を知る必要はない。

もうちょっとしたら彼女も教育の機会が得られることだろう。

結果としてその時落ち込むことになるかもしれないけど。

それにしたってまだ幼いくらいの年頃だ。

夢見る時間を奪う必要はないだろう。

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