第4話 報告と連絡はちゃんとする
一人前の大人というものは行動を起こすにあたり、人との関係や物事の前後関係を重視する。
理由は、行動というものには責任が伴うからだ。
関わる人数が増えるほど、できる限り密な連携というものは大事になっていくものだ。
それが国と国との関係という話までいってしまえば、1つの行動とっても関わる人数の多さというものは両手で済まない数になるというもだ。
決して気の向くまま欲望のまま寄り道なんてしてはいけないのである。
「そのあたり、ご理解いただけるとありがたいのです!
こちらだって都合というものがあるのです!
今回、貴方様は王国特使という大事なお客様というお立場であるのですから!」
「ハイ、十分に反省しましたので、この通りご勘弁ください……。」
そして、大人はその行動に責任を取らなければいけない。
現在、大国リヴェリナから特使を任された、このダメエルフことアルトゥス=ヴァイツェは、その身勝手な行動について大変見目麗しい補佐官様よりお叱りをいただいております。
はい、我が国の王から直々に到着の連絡がこないことを問い詰めるような緊急書状を受け取ってしまっていることに関する苦情でございます。
何か大変なことがあったのか、よからぬ企みに巻き込まれたのではないか、到着次第帰国させるしかないと大変お怒りのようであったとのことで。
本当にすみませんでした。
「王には私が寄り道をしてしまったことで迷惑をかけただけだとお伝えしますので……。」
「そもそも!寄り道を!しないでください!」
はい、ごもっともです。
この役場トップの補佐官である、私から見れば大変年下のお嬢様から、勝手な行動に関する責任の所在を詰められる私はダメエルフでございます。
「ま、まあまあ。
ご無事でいらしたこと、何よりリヴェリナ陛下にアルトゥス様から直接お執成しいただけることを約束いただけたのです。
エリスもそろそろ……。」
「甘いこと言っちゃだめなのです、役場長!
そもそも、特使様には入国の際にはお迎えさせてくださいと頼んでいたのです!
それをこの方は連絡があったはずなのにそのお迎えを黙って振り切って乗合馬車で入国してきたのです!
最初から拘束されては寄り道もできないと踏んで、わざとお迎えを無視したのです!
自分勝手なのです!
一言いわないとまた繰り返すのです!」
うん、エリスさんという名前なんだね、お嬢さん。
凄く的確に私のことを分析してるね。
私、何も反論できない。
「こ、コラ!エリス!
アルトゥス様はリヴェリナの特使であるぞ!
申し訳ありません、アルトゥス様!
平に、平にご容赦を!」
「ダメなのです!
私たちも丁重なお出迎えを準備していたのです!
それなのにお迎えは振り切られるわ、到着予定日になっても連絡がつかないわ、リヴェリナの陛下から苦情をいただくわでうちの国の代表の顔に泥を塗ってしまったのです!
どうせ今回の失態で特使様のお出迎え準備を任されていたエリスの命だってここまでなのです!
ならば最期くらい偉い方に無礼を働いても、処罰される結果は変わらないのです!」
「ほんっと、すいませんでした!
ちょっと久しぶりに一人旅を満喫したかっただけなんです!
必ず執成して、皆さんに落ち度は全くなかったと説明させていただきます!」
バンっと頭を机に押し付けて謝罪する。
うん、完璧僕が悪いね。
どうにも自分の立場というものを軽視しすぎていた。
久しぶりにリヴェリナ国外へ出られること、一人旅ができるチャンスに浮かれすぎて相手の立場というものを考えなさ過ぎた。
「失礼いたします。
お茶菓子をお持ちいたし――えっと、どうなさったんですか皆様……?」
お菓子を持ってきた役場の職員のお嬢さんが室内の惨状に目を泳がせる。
もうどうにでもなーれといわんばかりに無表情でカタカタ笑う補佐官のお嬢さん。
頭を机にこすりつけて謝罪するダメエルフ。
隣国の特使に頭を下げられてオロオロする役場長。
混沌の世界へようこそ、お茶をご用意していただいたお嬢さん。
できることなら、この2人には強めのお酒を用意してください。
忘れたほうがいいよ、こんな意味の分からない状況は。
***
「……先ほどは大変失礼な態度、かつご無礼を致しましたことを謝罪させてほしいのであります。
あらためまして、初めまして特使様。
イクセーレナ町の役場長補佐官を務めております、エリスであります。」
「イクセーレナ役場長、エイドニアと申します。」
「リヴェリナ国より特使として参りました。アルトゥス=ヴァイツェと申します。
ご迷惑、およびご心配をお掛けしたことをお詫び申し上げます。」
「お、お執成しいただけるとのことで、海邦代表へのリヴェリナ陛下からの親書のほかにアルトゥス様からのお手紙を頂けますようお願いするのです……。」
「エリス!」
「いえ、エイドニア殿。
エリス殿はまっとうなお願いをしております。
ご心配せずとも、お二人をはじめ、今回の件に関わった皆様の落ち度はなかったことを必ずお伝え致します。
もちろん、リヴェリナ王へも。」
安心したのか、ほっとした表情になるお二人。
今後気をつけないとね。
いくら浮かれても、国の代表として伺った以上、相手にもてなす機会を与えないとダメ。
というか、そもそも予定外の行動はダメ。
「では、まずは陛下からの親書をお渡しします。」
「拝領致しますね。
……封はリヴェリナ王国の紋章。
封に問題ないか、目の前でご確認させていただいても?」
「もちろんです。遠慮は結構ですよ。」
「では、失礼いたします。」
そういってエイドニア殿は封書を光にかざしたり、封の糊付けに甘さがないかを確認する。
また、過去の開封された封書の封蝋と見比べて、正規の意匠になっているのかどうかを確認する。
重さを図り、軽く振る。
危険なものが混入されていないかを確認するためだ。
「……ありがとうございます。
問題なさそうですね。
最終的に代表にお渡しする直前では、揮発性の毒物混入がないかを確かめさせていただきたいのですが、よろしいですか?」
「そちらももちろん。
疑いを受けても心証に何ら変わりを受けないとお約束いたしましょう。」
これは、親書に外気を受けることで揮発、および活性化する毒物がないかを確認する手順を含ませてもらいますという宣言だ。
それに対して、こちらは安全のために当然ですよね、どうぞ遠慮なく調べてください。
暗殺を疑われたことに気分を害しませんよと事前に断りをいれているのだ。
いわゆる様式美というやつである。
「では、代表には特使様のご到着と、親書の取り扱いの合意が取れたことを先に連絡させていただきます。
アルトゥス様からの書簡はこちらで記していくということでよろしいですか?」
「ええ、よければこちらで記させてください。」
「では、書き終わりましたらお預けください。
代表への取り急ぎとして一緒にお送りさせていただきます。
リヴェリナへの書簡もお預かりしましょうか?」
「はい、お願いします。」
「承ったであります!
あ、アルトゥス様。本日、これ以降のご予定をお伺いしたいのです。」
「手紙を書き次第、ルビーナへ向かおうかと思います。」
「すぐに出発でありますか?
できれば本日は領主さまのところで泊まっていってほしいであります。」
「いえ、こちらの都合で時間を浪費してしまったのです。
すぐにでも向かって謝意を……。」
「……本来、お出迎えの予定では本領のご領主さまたちとのお食事などをご用意していたのであります……。
領主さまもアルトゥス様をおもてなしすることをそれはそれは楽しみに……。」
「お伺いさせていただきます!」
エリスさん、ここぞとばかりに罪悪感で付け込んでくるのやめようね!
たくましいね!
ほら、エイドニア殿も苦笑いになっちゃってるから!
「では、こちらからご領主様に連絡させていただきますね。
本日の宿についてもこちらで指定した宿にお泊りください。」
「今の宿はどうしましょう?宿代を払ってしまっているんですが。」
「こちらでキャンセル致しますぅ。
本来こちらの手配でご用意した宿に泊まっていただく予定でしたので、アルトゥス様が現在ご逗留中の宿に支払った分はキャンセル料として宿に受け取ってもらいますぅ。
アルトゥス様がお支払いした分は後程おかえしさせていただきますねぇ。」
「あ、いえ。ご迷惑をかけたのでお金は……。」
「お・か・え・し・させていただきますねぇ?」
はい、これは決定事項なので余計な気遣いをするなという圧ですね。
何も言わず受け取るのが大人のマナーというやつです。




