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第42話 エルフさんは優先タスクを再設定する

「君たちはどうするの?」


 僕はそう尋ねる。

もちろん、武器を握りしめたまま俯いている男たちに向かってだ。


彼らの目の前にあるものは、頼りにしていた『怪物』の亡骸。

その下敷きになって伸びている、自称・現場管理者代理くん。

そして……


「んふふ~。」


「……」


 その『怪物』を軽々と屠った女戦士と、まだ表には出さないものの彼らに対して内心ブチ切れているメイキドルア領随一の軍人。

2人は僕を挟むように立ちはだかる。


さながら二枚看板。

中心に僕が立つこの絵面をみたら、画家がモチーフにさせてくれと頼みこむような、まさに絵にかいたような三者だね。


男たちは互いの顔を見合わせて、頷き合った。


カラン、カラン


武器が地面に落ちる音が連続して響く。

彼らは両手を上げ、そのまま跪いた。


うん、それが一番賢い。

今なら彼らを統率していた卑屈くん(レシク)に全ての責任をかぶせてこちらに下ることができる。

彼らの内心や事情はどうあれ、これ以上余計な血が流れる必要がなくなるのは願ってもないことだ。


「……全員、ただで済むとは思わんことだ。」


 ガルデスくんが背筋に悪寒が走るドスの聞いた声で言い放つ。

その声は、現実の空気すら一段冷たくするような迫力が込められている。


「事情はどうあれ、お前たちはアーシェスタスの、いや、我が国の客人に刃を向けたということを忘れるな。」


 ちょっとガルデスくーん!?

こっちとしては穏便に済ませて置かないと、うちの王様(ほごしゃ)が全力で乗り込んでくるんですよー!?

問題大きくしすぎないようにねー!?


 ……なんて心の中だけでそう叫びながら、僕は表面上、冷たい表情を崩さない。

ここで僕が否定したら、脅しにならなくなるからね。

それに、この脅しで今後カドヴィくん派閥が無茶を控えてくれるなら儲けものだ。


男たちは口を一文字に結びながらも反論はしてこない。

そりゃそうだよね。

さっきまで最強だと思っていたティダンが、サリティさんに五発で沈められたんだから。

現状、彼らの目の前にはあの巨人以上の戦力が自分たちの生殺与奪の権限を握っているとしたら、ここでは黙り込むしかないだろう。


「ガルデス様!この騒ぎは一体!?」


 ガルデスくんとサリティさんが男たちを整列させていると、荷物を置きに行っていたガルデスくんの部下たちと人足の皆さんが駆け寄ってきた。


「ちょうどいいところに戻ってきた。

お前たち、こいつらの武器を回収して、全員拘束しろ。

逃げようとしたら足を潰せ。

……いや、お前たちの手を煩わせるまでもない。

俺が逃げようとしたやつの足を直々に潰す。」


 ガルデスくんの冷徹なまでの眼光と語気には余りある怒りが籠っている。

男たちは一斉に顔を青くし、縄をかけられるときも、連行されるときも、ガルデスくんとサリティさんの目を必死に避けていた。


命があるだけマシ?

いやいや、むしろ一思いにやってくれたほうが慈悲深いまであるかもね。

彼らも最初からガルデスくんとサリティさんは無理だと言ってたし。


 不思議なのが、彼らが連れていかれているのを、作業員たちが複雑そうに見守っていることだ。

まあ、新任の権力者が従来管理者を叩きのめしたわけだから、これからが心配になっているのだったらわかるけど。

こりゃ、最初の仕事は決まったようなものだね。


「ガルデス様!ティ、ティダンの男が死んでおります!」


「下にカドヴィ様の従者が押しつぶされておりますが……?」


 あ、一部始終を見てなかった部下の方が騒いでいる。

あの卑屈くん、一応カドヴィくんの従者として顔は広いみたい。


「アルトゥス様暗殺を先導した罪人どもだ。

男は丁重に葬ってやれ。

罪人とはいえ、サリティと戦った男だ。」


「……!わ、わかりました!では森にて葬送の儀を!」


「ん。私もいく。」


「ああ、頼む。

――従者は国家反逆罪だ!

カドヴィ様から預かった管理者代理の権限を勝手に悪用し、この地で専横を働いた疑いが濃厚だ。

カドヴィ様の名を勝手に使い、好き放題に作業者たちを弾圧していたと見て間違いない。

まずは身包みを剥いで木箱に放り込め!

目を覚ましたら、俺が直々に尋問する!」


 こめかみに青筋を浮かべ、顔を紅潮させて怒りを露わにするガルデスくん。

部下たちはその剣幕に慄き、背筋を伸ばして固まっている。


よっぽど切れてたんだねぇ。

相対していたときは平然としていたのに、ここまで怒りを抑えていたのは本当にすごい。

でも、このままだと部下の皆さんが萎縮しちゃうから、少し落ち着かせないと。


「ガルデスくん。気持ちはわかるけど、八つ当たりしちゃだめだよ。

ほら、みんな怯えちゃうんだから。」


「――はっ!?

も、申し訳ありません!つい、熱くなってしまいました。

……コホンッ!私が尋問するので、準備をしておくように。

では、各員持ち場に着け!」


「ハッ!」


 部下たちは一斉に散っていく。

さっきまでの混乱が嘘のように、場が整っていく。


「アルトゥス様。私はこれより被疑者たちのご……尋問を行ってまいります。」


 いま拷問っていいかけたよね!?

全然落ち着いてないね!

僕は、ハァとひとつため息をついて、ガルデスくんの頭をわしわしと乱暴に撫でた。


「あ、アルトゥス様っ!?」


「……無茶しちゃだめだよ。

痛みによる自白は、時にその苦しみから解放されるためにありもしない証言を生み出してしまう。

キミがまずしないといけないのは、その怒りを鎮めることだ。

そうしないと、君が望む答え以外が帰ってきた場合に冷静に分析できなくなる。

……僕のために怒ってくれるのは嬉しい。

でも、僕が欲しいのは正しい情報だ。

そういう情報を得るための手段についてはキミが一番よくわかってるだろう?

期待してるからね。」


「……少し頭を冷やしてまいります。アルトゥス様、ありがとうございます。」


 ガルデスくんは目を伏せ、噛みしめるように息を吐いた。

その吐息に込められたのは、ただの怒りではない。

アーシェスタス家、ひいては当主グランバル氏への忠誠を踏みにじられた痛みだ。


卑屈くんは、たびたびカドヴィくんの従者であることを強調していた。

つまり、彼の行動はグランバル氏の命令よりカドヴィくんの命令を優先したということになる。

これは、僕への無礼以上に、アーシェスタス家の序列を軽んじた行為として彼の怒りをさらに増幅させていた。


 怒りの火はしばらく燻り続けるだろう。

それでも感情赴くまま、卑屈くんを斬らなかったのは軍人としての矜持ゆえといったところか。


深く、静かにもう一度息を吐くと、自分を落ち着かせるように一度だけ顎を引き、敷地の奥へと歩き出した。

その背中には、怒りと悔しさ。

そして任務に忠実な軍人としてのプライドが複雑に入り混じっていた。


 とはいえ、これだけ釘をさしておけば大丈夫だろう。

どうせ男たちからは、彼のやる気にくらべて大した情報は得られない。


僕の見立てじゃ、彼らはカドヴィ君への親愛で動いているだけだ。

だからこそ利用されやすく、その利用されやすさが今回の事態を複雑にしている。


おそらく今回の件で大元に繋がるのは卑屈くんただひとり。

そして、あれだけ派手に動いているということは、なんらかの意図があるはずだ。


彼自身も利用されているかもしれない。

あるいはそれすら芝居で、最初から内側に入り込んだ蟲の可能性もある。

こうやって僕の到着に合わせて騒ぎを起こすこと自体が目的なら、あの愚かさも演技ということも十分にありえる。


 はぁ、カドヴィくん自体と会ってないから情報が足りてないんだよなぁ。

一番単純なのは、カドヴィ君自身がサリティさんの見立て通りの人間であることなんだよ。

頼むから面倒な裏表があってほしくない。


「……面倒だけど、そのうちカドヴィ君の顔は実際に見ておいたほうがいいか……」


 僕は心底うんざりしながら、森の中で一番目立つ建物へ向かった。

正直、彼らの企みなんかどうでもいいんだよ、こっちは。


 パンッ!


 両手で頬を挟み込むように軽くたたく。

うん、やめやめ!

僕はここで結果を出さなきゃいけないんだ。


僕は開墾技術の相談を受けた隣国特使アルトゥス。

陰謀なんか知ったこっちゃない。

心の中のタスク優先度の一番下にこの面倒ごとを押しやって、気持ちを切り替える。


余計な茶々を入れてくる連中は、その都度潰せばいいさ。


こっちは悠久を生きてきたエルフなんだ。


持久戦じゃあ、誰にも負けないんだよ。

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