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第28話 ちらつく帝国の尾

「申し訳ありません!!」


岩場から降りてきた僕に(ひたい)が膝につくんじゃないかと心配するほどに深すぎるお辞儀をしたガルデスくんに、僕は困惑を隠せない。


「まさか、見逃していた敵が残っていたとは……。

このガルデス、一生の不覚!

先ほど信じたいといってくださったアルトゥス様の期待を裏切るようなありえない失態!

どうか、この場で処罰くださいませ!」


そういって、僕の前に剣を置いて首を差し出す。

いや、やめてよね!?


「いやいやいや!そういうの求めてないから!大丈夫だから!

だって、ほら、鋭敏な感覚を持つワイルズ族のサリティさんですら気づいてなかっただろ!?」


「ぐっ……!いや、うん。言い訳はしない。

本当に気づかなかった。面目ない、アルトゥス様。

身体で詫びるから許して欲しい。」


そういってしなだれかかってくるサリティさん。

あのね、悪いと思っているなら悪ノリやめてね!?


「はい、いりませーん。不要でーす。

僕が気づいたから僕が処理しただけ!

仕方ないんだよ。敵の姿も気配もなかったんでしょう?

気づけないなりの理由があるんだよ。」


「ちなみに、俺ら3人は気配も物音も感じられてないっすよ。

どうやって分かったんすか?」


怪訝な顔で、どこか『この人本当になんなんだ?』という本音を隠さない態度で御者くんが聞いてくる。

キミ、もうちょっと客人を敬ってね。

物音はちょっと変なのは聞いてたと抗議するサリティさんは、この際無視だ。


「僕の固有術型(スペル・アーキタイプ)は【温度を視る】ことができる。

だから、生き物の居場所を探知できるし、物が移動したときの温度変化を感じ取ることもできるんだ。」


「ええ……?つまり、アルトゥス様相手に奇襲は不可能ってことでは……?」


「うん。そうだね。予定合った?」


「なんすか、奇襲の予定って……。

いや、単純に戦術として待ち伏せとかそういうのを事前察知できるって、やばくないっすか?」


「めちゃくちゃ有用!羨ましい!教えて!」


またまたサリティさんが目を輝かせるが、習得は無理じゃないかなぁ?


「教えてもいいけど。

僕がこの術をものにするまで――

軽く100年かけたってことは事前に教えておくね。」


「……ずるい!ずるすぎる!

長命種はそうやってすぐ貴重な時間を気軽に消費して強くなる!

不公平!」


「いや、まあ、そうだよねぇ。」


ぐうの音も出ない正論に、タハハと愛想笑いを返すしかないよ。


「しかし、我々が存在を察知できない密偵が処理されたとなれば、相手は軽率に次の手を打てなくなるでしょう。」


「だといいね。でも、これで動じず次の手を打ってくるなら厄介かもしれないね。」


「む?別にまた返り討ちにすればよくない?」


僕の懸念に、この程度の襲撃ならいくら来ても問題ないのでは?という心の声をそのまま顔に張り付けたサリティさんが聞いてくる。


「武力行使だけが手段じゃないからね。

相手はこのタイミングで襲撃という直接的な手札を切ってきた。

一応、僕は特使なのに、だ。

今後こういった襲撃は実行するのが難しくなるはずだよ。

僕が赴任先で暗殺されたら、即座にリヴェリナとの関係悪化に繋がるリスクが高いしね。」


「そうなのか?」


結局攻撃を仕掛けるならいつでもいいのではないか?と考えるサリティさんが御者くんに確認をとっている。


「この人の暗殺が可能かどうかはこの際置いておくっす……が、そうっすね。

今回のような移動中を狙うなら、国としては『制御できない襲撃』で運が悪かったと言い逃れできる可能性があるっす。

まあ、無理筋ではあるんすけど。

でも、任地での襲撃は野盗という無理すら効かなくなるっす。

もし、暗殺成功させたとしてもちゃんと守れなかった側に一方的に責任が生まれます。

即外交問題に発展すね。」


そうそう。

暗殺を許せば、アーシェスタス家どころかアリヴィエ全体が「他国の使者すら護れない劣等国」という汚名を背負うことになる。


「だから、黒幕がアリヴィエ国内の勢力であった場合は暗殺という手段はありえなくなる。

武力以外での妨害工作であったり、事故に見せかけた破壊活動に巻き込む。

そんな絡め手が増える可能性が高いだろうね。」


僕の考えに、護衛2人の顔つきが少し変わる。

直接的な行動以外だと、予想外の所から護衛対象が狙われることになるので、警戒しにくくなるもんね。


「だからこそ、あえて僕らは薮を突き進み、焼きはらう。

正攻法、絡め手なんでもこい。

どれもこれもねじ伏せてあげるのさ。

そしたら、相手は引けなくなる。

投資の損失っていうのは、多少無理をしてでも取り戻しに来ようとするのが人の性ってやつだからね。

その発想が窺える稚拙な攻めがみえたらこっちのものだ。

安全圏で調略していると勘違いしてる愚か者は、炎に巻かれて否応なく引きずり出されることになるだろうね。」


ぐっふっふと悪だくみする僕の黒い笑顔に、3人がドン引きしていた。



 ***



次の日を問題なく迎え、僕らはメイキドルア領都であるアーシェスタへの旅を再開する。

荷物をいくつか足して。


賊の持っていた武器と、いくつかの装飾品。

武器は証拠として残す必要がある。

装飾品は身元確認に使えるかもしれないため。

運が良ければ関係者を洗い出せるかもしれないしね。


僕が仕留めた密偵だが、これはあえて放置することにした。

遺体を回収することで得られる黒幕への手がかりより、無関係を装うことで僕ら以外の第三者の存在を勝手に警戒してもらったほうが、利があると見込んだ。

僕らが回収してしまうと、そちらを疑う余地をなくしてしまうことになるからね。

勝手に悩んでくれたらいいなと思う。


証拠品は全てアーシェスタス家に預けることにした。

僕らの手元に残すメリットがないためだ。

というのも、この武器に見覚えがありすぎるんだよねぇ。


見る人が見れば一発で分かる意匠なんだよ。

僕を襲わせる野盗がこれを持っていたとしたら、次の相手の出方が推測できてしまう。

いや、流石にそっち方面でこちらを攻めてくることはないと思いたいけど、相手が想像以上の愚か者だった場合を考えてね。

うまく使えば、罠に使えそうだ。

でも、この程度の罠に引っかかるような相手は本当にご遠慮願いたい。


正直、調略というにもおこがましい稚拙さが垣間見えてるんだよなぁ。

僕がこの程度の相手と想定されているとしたら腹立たしいし、そうじゃなかったら目的がよくわからないんだよね。

もちろん、僕にそう思わせることそのものが目的の可能性は捨てないけど。

でも、なんというかさぁ。


「正直、悪だくみしている奴と、それを利用しようとしている奴らは別々な気がしてきたなぁ。」


「利用ですか……?」


僕のぼやきに、ガルデスくんは首をひねる。


「いやね。敵が闇討ち用として武器を揃えるのもそうだけど、素人を野盗に仕立て上げて襲わせることの意味を考えてたんだよ。

結果として全員返り討ちにしたわけだけどさ。

素人をわざわざ集めて襲撃させるっていうことは、僕らが彼らを撃退させることそのものが目的になるでしょ?」


「……すみません。

なるでしょ?といわれても、それが目的だったとは考えてませんでした。」


あらま、そうだったのか。


「ごめん、自己解決しちゃってたね。

今回の襲撃の目的は多分、僕自身の戦闘能力と、覚悟を見積もるつもりだったと予測している。

つまり、こういった事態に僕がどういった反応をするかを見定めることが目的。

だからこそ、ガルデスくんたちのような熟練の戦士を欺く程度には隠密能力の高い密偵を差し向けて、情報を持ち帰らせることを最重要視してたんじゃないかと思うんだよ。」


「だとすると、密偵を調べてもよかったのでは?」


目的が僕なら、僕の情報を持ち帰らせる密偵を排除しただけで済ませたことにガルデスくんの疑問がより深くなる。


「さっきもいったけど、僕としては「敵は何も情報を得ることができなかった」という結果だけで十分なんだ。

密偵がどこの手の者がわかっても、こちらが得るものは少ない。

逆に、あっちの立場になって考えてごらんよ。

野盗の襲撃は予定通り失敗したが、まさかの生存者なし。

かなり手練れの密偵を差し向かせているのにいつまでたっても情報を持ち帰ってこない。

そのうえ数日経っても密偵は戻らないのに、僕らは予定通り街に到着。

しかも、ターゲットは密偵の身元を確認する動きも見せない。

ガルデスくん、君が敵ならどう思う?」


「……不気味ですね。

密偵が腹心だった場合は腹立たしいことこの上ないでしょう。

十中八九ターゲットの仕業であると思いたいですが、ターゲットが動かないとすれば第三者によって密偵が排除された可能性も考慮せざるを得ません。

動くとすれば、とりあえずは密偵の捜索はします。

が、多分何もわからないでしょう。

何せ、この荒野で野ざらしの遺体など、デンタール()どもの餌にしかなりませんから……。」


その通り。

遺体は遠からずデンタールどもに食い荒らされ、死因もわからなくなるだろう。


黒幕へ近づける情報を探すことより、予定通り街に到着したという情報が敵に届くほうが、黒幕へのダメージになると僕は踏んでいる。

向こうは手札を一枚切っている。

が、その手札と情報を共に回収できなかった。

その上、手札を持っていった存在明らかにならない。

これは相当な痛手のはずだ。


「アルトゥス様。今回の黒幕。なんとなくわかってる?」


サリティさんが僕の顔色の変化に気づいたのか、確認するように聞いてきた。


「流石に目星はつくよ。」


僕の言葉に、ガルデスくんとサリティさんが目を合わせて頷く。

2人はスッと僕のほうに身を寄せた。


「僕が考える今回の騒動の黒幕の候補は、4つ。」


「4つも可能性がある?」


「うーん。

可能性って言うとその倍以上になっちゃうから、最もありえそうなところだけ。」


「可能性だけだと倍以上ですか……。敵が多いですね。」


そういわないでよ。

立場上、狙われるのは仕方ないじゃないか。

権力を持つってそういうことなんだもの。


僕が挙げた候補は――


 【アーシェスタス家関係者】

 【ムッセタリア関係者】

 【リヴェリナ王政府関係者】


そして、僕はこの3つとは一線を画す相手という意味で言葉をひとつ区切る。

そう、最後に候補に挙げるのはそれなりに説得力のある相手。


「【ノルカザン帝国】。リヴェリナとアリヴィエ海邦、両者の敵だ。」


帝国の影を指摘すると、ガルデスくんが苦虫を嚙み潰したように顔をゆがめる。


その反応が、妙に面白かった。

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