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第27話 宣戦布告

一方的だった。


生き残った最後の野盗は、もはや抵抗の意志を失っている。

むしろ、これからを考えたら生き残ってしまったといってもよいだろう。


僕をはじめとして、サリティさんも御者くんも怪我ひとつない。

2人が戦場に残された亡骸から武器を集める音だけが、夜の静けさを乱していた。


「……うん。ちゃんとした武器だね。

野盗が使うにしては、上等すぎるくらいに。」


片手剣(ショートソード)に、長柄槌(ウォーハンマー)に、短槍(ショートスピア)

うわ、これ両刃剣(グラディウス)に偽装しているけど、小手一体型(カタール)の刃を使った改造剣じゃん。

ただの野盗が持つには不自然すぎるでしょ。

嗾けた(けしかけた)奴はどう言い訳させたいんだろう?


「黙って護衛から離れてすみません、アルトゥス様。」


鉄の匂いを纏ったガルデスくんが弓とクロスボウを手に戻ってくる。


「隠れてたのはふたりだけだった?」


「はい。他にはおりませんでした。

その二人も()()()()させました。」


ふむ、ガルデスくんも尋問はこの最後の一人だけでよいと判断したようだね。


「私とサリティで尋問します。よろしいでしょうか?」


「ん、任せるよ。

僕のことは心配しなくていい。頼れる男がいるからね。」


そういって、僕は御者くんに笑いかけた。


「こっちは任せてください。尋問はそっちに任せます。」


「わかりました。頼ってしまって申し訳ない。」


「これも仕事っすよ。

というか、多分この人に護衛はいらないんじゃないっすかね?」


「酷いなぁ。隣国の大事な特使様ですよー。」


「ただの特使じゃなくて、エルフの戦士でしょうに。」


やれやれとため息をついて、いろんな片づけを始めた。

僕も荷物からいくつかの植物を取り出して調合する。

服にこびり付いた血の匂い消し用の簡易消臭剤を作っているのだ。

血の匂いがあたりに充満してしまっているからね。


「うへえ。サリティ姐さんが相手した奴ら、本当にひでえ状態っすよ。

軒並み蹴りで急所をへし折られてます。」


「彼女、足技が鋭いからねー。

無対策だとそうなるのは仕方ないかな。」


「躯は狼寄ってきちゃうんで、埋めます。

アルトゥス様はテントに戻っていてもいいっすよ?」


「……うん。まあ、それはそれでよいとして。」


そういって僕は【ノエス】に干渉して、ヴェルドラを準備する。


「Vision Anchoring……Pathway Weaving……Veldra Encoding」


術式の発動は、段階を踏んで各フェーズごとに【ノエス】を励起させ、エネルギーに指向性を持たせる。

一連の工程を経て、初めて術式は形を成す。


すなわち


1.目的設定:Vision Anchoring(ヴィジョンの錨打ち)

2.アルゴリズム化:Pathway Weaving(経路の織り込み)

3.コード化:Flow Encoding(流れの符号化)

4.発動:Ignition(点火)


この順序でヴェルドラ(指向性術式発動)は完成する。


「Veldraよ、場に満ちよ。

界式展開(エグゼキューション)――

安らかなる死をレクイエスカト・イン・パーチェ。」


詠唱を完了させると、術式が静かに発動した。

倒れた躯たちが音もなく凍り付き、鉄の香りが薄れていく。

夜の空気は澄み渡り、戦場の熱の残滓が静寂へと溶けていった。


「これが、エルフ様のヴェルドラ術式ですか。」


集められた躯たちが静かに凍り付いていくのをみて、御者くんは静かに祈りを捧げながらぽつりと呟いた。

たとえ命を狙ってきた相手であっても、戦士に敗者の躯を辱める者はいない。

ただ、魂が迷わずあるべき場所へ向かうことを祈る。

それが、この世界の礼儀だ。


「うん。僕の固有術型(スペルアーキテクト)は温度変化だから。」


なので、僕も軽く祈り捧げながらそう答えた。

殺したようなものだけれど、それでも祈るんだ。

たとえ彼らがどんなに僕らを恨んだとしてもね。

死者への祈りは生きている僕らしかできないから。

憐れんだり、悲しんだりはできない。

でも、死者を送るという『行動』をすることはできる。


「……教えていいんですか?わざわざ詠唱まで見せてくれましたけど。」


「かまわないさ。僕はキミを信じてるしね。

そんな人に隠し事の必要はないかなって。」


そういって僕は御者くんの目を見つめた。

御者くんの瞳は焚火の光を淡く映し出し、心模様のようにそっと揺れている。


僕は、優しい人が好きだ。

関わって、楽しく話をしてくれた人が好きだ。

だからこそ、彼とも仲良く居続けたいと願いを込めて、彼を見る。


「……そっすか。じゃあ、何も知らないことにしておくっすよ。」


そんな想いに戸惑ったのか、ふいっと瞳をそらしてしまう御者くん。

僕は意地の悪い笑みを浮かべてみせた。


そして、2人で躯を埋葬していく。

それなりに深く、(デンタール)たちに掘り返されないように。

しばらく土をかける音だけが、静かな夜を寂しく彩っていた。



 ***



「アルトゥス様。尋問が終わりました」


「うん。どうだった?」


「何も知らないそうです。

我々は護衛のフリをした仲間だから、襲撃しても反撃されないと聞いていた。

騙されたと。」


なるほどね。

だからサリティさんがクロスボウを構えても堂々としてたのか。

ハッタリにしてはあまりにも無防備だったのは、撃たれるはずはないと思い込みすぎたか。


それにしたって疑うべきじゃない?

だって、武器が向けられてるんだよ?


「依頼人は顔を隠していたそうですが、身なりが整っていたそうです。

提示された金額も前払い込みでかなりの額らしく、信用に値すると判断したようです。

武器も格好も用意されたので、心配ないだろうと。」


「格好もってことは、そもそも野盗ですらない?」


「はい。本領の町で職探しをしていたそうです。

最初に死んだ男に誘われたそうです。」


あー、あの堂々と姿をさらしてきた男か。

彼が今回の襲撃グループのリーダーだったのかな。

妙に自信満々だったし、依頼主はよっぽど信頼されていたんだろう。


「ごめん。尋問に残す対象を間違えた。」


しゅんとして頭をさげるサリティさん。


「いや、どうせ大した情報は得られないだろうと踏んでたよ。

素人臭かったし、あからさまに指示されてきましたって態度だったしね。

2人もそう思ったからひとりだけ残せば十分と思ったんでしょ?」


その問いに、2人は無言で頷く。


「猶更サリティさんが謝る必要はなくなったね。生き残りは?」


「処理済み。埋めてある。あります。」


「了解。ま、こちらが容赦しないことに対してどんな受け取り方をするかを様子見かな。」


僕は死者が迷いなく星になれるよう、夜空にそっと祈る。

これで襲撃者の始末は終わり――かな?

黒幕の情報は見つからなかった。

だが、わかったことはある。


「……武器に共通点がありました。

全て削り取られていますが、刻印の跡があります。」


「場所は?」


「それぞれ柄頭(ポンメル)だったり、刀身の根本(リカッソ)だったり、わかりやすい場所。」


サリティさんが実際の武器を指差しする。

確かに、何かが刻まれていた後だ。

随分と乱暴に削り取られている。


「念入りに削られてるね。つまりは――」


「隠したか、謀っているか……ですね?」


うん。

武器の素材が上質であること。

武器に一貫性がなかったり改造武器が含まれていること。

それを持っていたのが、おそらく捨て駒として利用された素人同然の野盗崩れであること。

そこから考えられるのはひとつだけ。


嗾けた(けしかけた)やつは、武器を揃えることで何かを企んでいるとみて良さそうだね。

容疑者に一番近い例の彼はそういうことを得意とするタイプ?」


「あ、嗾けたのはバカの仕業じゃないと思う。

あれはそういう(はかりごと)とか考えるくらいなら自分で喧嘩に来るタイプ。」


「やめんか、サリティ!

……ごほん、少なくとも一番可能性が高い若が直接指揮した可能性は低いかと思います。ですが……」


「背後、またはそそのかしている奴が何かしらを企んでいる可能性が高いってところかな。」


推測に2人は頷いた。

なるほどね。

どうやら僕を嫌っている若君は、とても()()されているようだ。


「ともかく、武器はまとめて持っていこう。

襲われたということもちゃんと報告しておいたほうがよいね。

トルマド殿とアーシェスタス家のご当主様向けにも手紙を書くけど、いいね?」


「それは……」


アーシェスタス家だけではなく、隣領の当主にも連絡するという意味に気づいたガルデスくんの顔が曇る。

気持ちはわかる。

なので、こちらの見解は明かしておいたほうがいいだろう。


「この場において何もわからない以上、誰かを信じることができなくなった。

だからこそ、全てに保険をかけるんだ。

ガルデスくん、サリティさん。

そして御者くんも。

僕は疑わせてもらう。」


そして何より。

そういう気持ちを込めて微笑みながら続ける。


「そんな疑いが間違いだったと後悔させてほしい。

僕はキミたちを立場上疑う必要があれど、一人の人間としては皆が好きだ。

だから、疑っているという気持ちも明かすんだ。

それを忘れないで欲しい。」


その言葉に、三者三様。

でも、こちらの気持ちはわかってくれたようだ。

それぞれの目に宿る気持ちが、嬉しかった。


「それじゃ、見張りをたてながら一旦休も――休みましょう。

最初は私が寝ずの番に立つ。それでいいか?……いいですか?」


サリティさんが確認をとってくる。

それを承知するガルデスくんと御者くん。


「そうだね。……その前にっ!」


僕はそう言って荷物から事前に組み立てていた煙の槍(フームス・ランセア)を素早く引き抜いた。


術式即時展開エルドラキャッシュトレース

即行動(アクセラ)


ダンっ!と地面を踏み抜くような音が響き、僕の身体が宙を舞う。

そのまま近くの一番高い岩場の天辺に着地した。


「――これが、僕からの答えだよ。」


煙の槍(フームス・ランセア)を対象に向ける。

僕の固有術型は極限まで最適化されている。


だから、後は狙うだけでいい。

術式発動の条件はトリガーを引くイメージ。

これで、弾丸内部の特製の精製水が一瞬で蒸気になり、先端の礫が勢いよく飛び出す。


バシュン!


空気がはじける甲高い音が夜を切り裂く。

探知することすらできない不可視の槍が、僕の敵を貫く。

荒野を走る人影がひとつ、土煙を巻き上げて倒れこむ。


「……警告はした。僕を舐めるなよ。」


ボルトハンドルを引くと、プシュッという音と共に、真っ白な水蒸気が夜に溶けていく。


それは、この場を演出した愚かな敵対者へのサイン。


誰一人として悪意を持ったまま帰すつもりはないという、僕からの意志表示(宣戦布告)の狼煙のようだった。

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