第25話 リダンアーカイブ
兵器。
それは、術式を刻んだ精密な機構を利用した武器の総称である。
一般的な武器とは一線を画し
振るえば炎が舞う
大地を砕き
水を割り
大気を自在に操る
そんな【伝説の武器】に属するカテゴリ――と言えば、わかりやすいだろうか。
「特使様!特使様!それを使っている所を見たい!」
なので、戦稼業に身を置く者にとっては憧れの武器であり、いつか自分専用の兵器をもつのが夢だという。
案の定、サリティさんが身を乗り出して催促してくる。
「いいけど、ちょっと待ってね。組み立てに少し時間がかかるから。」
「ん!わかった!その間に出発の準備を進めておく!」
そういって彼女は急いで荷物を馬車に詰め込み始めた。
ガルデスくんはそんなサリティさんの様子に、呆れたといわんばかりにため息をつく。
でも、今回はサリティさんの行動そのものは止めないんだね。
「いいんですかい?特使様。
言っちゃ悪いですが、内緒にしていてもいいのでは?」
ぼそぼそと御者くんが心配そうに耳打ちしてきた。
「構わないよ。
いずれこいつの出番がきたとき、どういった性能か知っておくことはきっと役に立つさ。」
僕はそう言って、特に問題なさそうに笑ってみせた。
けれど、御者くんの表情は複雑なままだ。
「何か心配?」
言いよどんでいるのを察して、僕は遠慮なく先の言葉を促す。
やや間があって、彼は気まずそうに口を開いた。
「その、兵器といえば戦稼業してる人間にとっちゃ憧れの装備なんだ。
それを特使様が持ってると知られるのは、まあ……危なくないっすかね?」
ああ、なるほど。
兵器を狙った馬鹿に強奪されたり、盗まれたりする心配をしてくれているってことかな?
「別にいいよ。
僕がこの武器握って何百年護り通したと思ってる?
大きなお世話っていうくらいにはそういう輩を追い返してきたよ。
それにさっき中身見たでしょ?
あれ見て盗んだ奴がこれを使いこなせると思う?」
「いや、まあ確かにそれを言われちまうと言い返せないんすけどねぇ……?」
うーんと唸ってどこか納得がいかないといった風に腕を組む御者くん。
むむむ、何が心配なんだろう?
「いや、だって兵器って神代装備っていわれる一点ものじゃないっすか。
たとえ使えなかったとしても価値としては凄いもんでしょ?
それの性能と希少性を考えたら無理する奴が壊したりしようとするんじゃないっすか?」
あー、なるほど。そういうことか。
武器として使えないとしても、一点ものとしての価値があるから、もし壊されたり、失われたりしたら取り返しがつかないってことを心配してくれているんだ。
だから、情報を伏せておいて、いざという時だけ使うように自衛すべき――
そういうことを言いたかったんだね。
なるほど、それなら彼が言いよどむ理由もわかる。
「なるほどね。君の言いたいことはわかった。」
「恐縮です。」
「でも大丈夫だよ。煙の槍は一点ものじゃないんだ。」
「へ?」
きょとんとする彼の前に、僕はもう1つのケースを取り出して見せた。
中には、さっきのものとよく似た、しかし意匠の異なる部品たちが、丁寧に収められている。
「なにしろ、この兵器を作ったの、僕だし。」
「…………はあああああっ!?」
御者くんは、出会ってから初めて聴くような大きな声を出すのだった。
***
メイキドルア領に入ってからは、順調な旅が続いている。
街道も整備されていてお尻にダメージもなく、快適。
天気も上々。
非常にのどかで、穏やかな旅路だ。
「はああ~……。」
そんなのどかな旅路にぴったりな長いため息が響く。
「月並みだが、ため息は幸せが逃げるよ。ガルデスくん。」
「はっ。すみません。
あまりにとんでもないものを見てしまい、動揺してしまいました……。」
先ほどの僕の武器の模擬運転を見てからガルデスくんのため息が止まらない。
サリティさんもさっきからぶつぶつと独り言をつぶやいているし。
聞き耳を立ててみたが。
「……有効射程があり得ない……。
でも、長物だから弓と同じく懐に入れば……。
ううん、あの動体視力と強化術式で自身を強化できるし、そもそも有効射程内に入った時点で一方的に攻撃が……。
そもそもあの連射性能は何……?
しかもあれが基本の機能……?
馬鹿げてるし……。
どうやって倒せば……」
護衛対象を倒すシミュレートするのやめてくれないかな!?
いやまあ、職業柄、僕の武器をどう攻略するかを考えるのは大事だよね。
彼らとしても兵器と自分たちが普段使っている武器とどれだけ差があるのかを確認できたのはいいことだろう。
「やっぱりエルフ様っていうのはけた違いっすねぇ。
しかも、それ狩猟道具として使ってたんすよね?」
御者くんが振り返ってそういう。
その顔には、正気の沙汰じゃないっすねと書かれているような表情が張り付いていた。
「そうだよ。森の獣は強力な個体だらけだしね。
身を守るためにも、効率的に獲物を狩るためにも重宝していたんだよ。
狩りをするにはもってこいの性能じゃないか?」
「……生き残るための道具って意味では正しいんすけど、兵器を狩猟道具って言われるとなんとも複雑な気持ちになるっすね。」
御者くんも困惑気味だ。
まあ、伝説の装備を狩猟に使ってますとか言われたらそんな気持ちになるのは仕方ないのかな?
でも、こちらとしては若気の至りで専用装備作りたーいなんて無邪気な気持ちで開発しただけなんだよ。
そもそも兵器を開発しようだなんて思って作ってないし。
知り合いと一緒にコンセプトと技術を煮詰めて作った、いわば趣味全開武器ってやつだ。
後から使っている技術とかが既存の兵器と同じ設計思想で作られていることが分かったんだ。
それでようやく、
「じゃあ、そう名乗ってもいいかな」
って思っただけなんだよね。
「一番納得いかないのは、専用武器であること。
固有術型に依存する武器なんて、独り占めする考え方。
万人に使えるようにすべき。」
頬を膨らませてサリティさんがそう抗議してきた。
「いや、そりゃダメだよ。
こんな武器一般化したらそれこそ火種になる。
そこも考えて僕しか使えないような設計にしているんだから。」
「その認識は正しいと思います。
はっきりいって、危険な武器ですよ。
これひとつで戦争の形が劇的に変わる。
ただの人を兵士にする武器です。」
ガルデスくんも、僕の武器が広まることには反対のようだ。
一方的に命を奪える武器――それは、すなわち”戦争の道具”だ。
為政者にとっては、喉から手が出るほど欲しい代物だろう。
有効射程は、それだけで戦力だ。
だからこそ、僕はこの武器を設計する時から、誰にも使わせないことを前提に、自分の適性に合わせて作ったんだ。
僕の固有術型は今のところ世界で唯一無二。
他のエルフたちだって使えない。
これはうぬぼれとかそういう話じゃない。
固有術型とはそういうものなんだ。
天から与えられた先天性の術式の才能の基礎型。
それを実践レベルにまで昇華して初めて固有術型は完成する。
何十年とかけてようやく身に着くものだ。
「うう、理屈はわかったけど、でも羨ましい。その武器は私の理想。」
「気持ちはわかるけど、だからこその特殊な武器ってことで諦めてね。」
サリティさんは僕がこれを開発したと聞いてから、なんとか自分用に造ってほしいといわれた。
もちろんだめだ。
さっきから言っているように、民を兵士に変えかねない危険な代物だからね。
おいそれと作ってあげることはできない。
じゃあなんでそんなものを作ったのかって?
……さっきも言った通り、趣味武器なんだよ。
固有術型をある程度自在に操れるようになってから、ずっと温めていた構想を、どうしても形にしてみたかった。
そういう話が大好きで、手先の器用な知り合いもいたしね。
つまり、若気の至りを本気で叶える環境があったから作っただけ。
広める気もなければ、危険性を考える頭もなかったんだよ。
残念だね。
世に出回ったら、やばいことになる。
そう察したのは、設計が終わってからだった。
でも、これはそもそも僕の固有術型由来の武器。
僕だけ使えれば、それでいい。
奪われたところでマネできるようなものでもないし。
それに、考え方としてはそこまで複雑じゃない。
それこそ技術が進歩したら、僕以外に同じコンセプトで設計する人物が生まれる時代はくるだろう。
術式という技術革新がもっと一般化すれば、そういった発明が生まれるのは自然なことだしね。
僕はそれを咎める気はない。
警告はするかもしれないけれど、技術の進化そのものを否定してはいけないと思っている。
技術の発達とは、人々の幸せな生活を願う純粋な気持ちだ。
それこそ、人の命を奪える武器だって、最初は何かを護りたいという気持ちから生まれるものなのだから。
誰かを害したいという目的で殺傷能力があがることもあるだろう。
それもまた、護りたいという気持ちが裏返ってしまったものなんだ。
気持ちそのものは尊いとすら思う。
あとは、それが一方的な殺戮を生まないよう、人々の心を育ててあげるほうが大事だと思う。
「……思いあがるな、アルトゥス。お前はそんな偉いわけじゃない。」
「アルトゥス様、どうした?思いつめた顔をしている。」
「ん?ああ、ごめん。ちょっと仕事のことを考えてた。」
危ない。また余計なことを考えすぎていた。
そうだよ、アルトゥス。
キミはこの世界でただ生きている一人のエルフに過ぎない。
世の中に自分の気持ちを押し付ける神でも偉人でもない。
ただのアルトゥスなんだ。
この世界のことは、みんなで考えていけばいい。
思いあがるな、アルトゥス。
僕はそう誓ったじゃないか。
世の中を便利にしたり、美味しいものを作ったり、思うまま生きていい。
僕はただの旅人だ。
世界を変えなくていい。
あるがままに世界の一部で居続けよう。




