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第24話 エルフさんは実力を示す

「あの……特使様?本当にやるのですか?」


「うん。やるよ~。」


僕は軽装に着替えて、軽い屈伸運動と柔軟体操をしながらのんびりと応えた。

ガルデスくんは本当に大丈夫なのか?

と御者くんに確認しているが、「本人がやる気ですので」と心配していそうもない。

サリティさんは……僕の体操を見ながら対面でうずうずしながら待っている。

やる気満々といった様子だ。


これから護衛をするにあたり、僕には戦わせるつもりがなかったガルデスくん。

彼に、「こう見えてエルフだから強いんだよ?」なんて話をしていたのだ。


ガルデスくんは半信半疑といった様子だったけど、サリティさんは

「エルフは森で生きる。戦いは日常。生粋の戦士。多分、本当に強い」

とガルデスくんに力説していた。


それでも護衛対象なのですから、僕は戦いがあっても大人しく護られてくださいとお願いされたのだ。

僕としても護ってくれるならそれでいいよと回答したのだが、それにサリティさんが待ったをかけた。


「まずは、特使様の実力を知っておくべき。

私たちはチーム。余剰戦力を持て余すのは無駄。」


と、戦士としての理屈で、僕をただのお飾りにするのを反対したわけだ。

まあ、実際襲われたときに戦えると言ってたやつがあっさり制圧されてたらたまったもんじゃないから、サリティさんの言い分は正しい。

……が、多分これあれだな。


「お前は理由をつけて強そうな人と組手したいだけだろ……。」


「……し、私利私欲でそんなことはしない……。」


「目を見て話せや!この戦闘馬鹿兎(ヴォーパルバニー)が!」


ギャーギャーと言い合うふたり。いやあ、仲良しさんたちだねぇ。

ま、そんなこんなで――実力を示すために、軽く組手を行うことにした。


ルールは武器なし素手のみ。

奇手を禁じた約束組手に近い形ならばとガルデスくんの譲歩により、サリティさんとの組手が許可された。


「射手さん。徒手空拳は得意なの?」


「ん。兎人族(ラプラシアン)の戦士は自在の戦士。

射手ではないと教えてあげる。」


やる気満々といった感じで、サリティさんは僕の挑発を受け止める。


「……あえて森を出るエルフは最強の戦士。その噂、確かめる。」


軽やかに左右にステップしながら臨戦態勢をとるサリティさん。


「さて、どんな噂なのやら。」


対して僕は迎え撃つ構え。


体を少しだけ開き、左半身を前に。


軽く突き出した左手で間合いを測る。



 ――ダンッ!



大地を蹴る音と共に、サリティさんがとびかかる。

お得意と見える身体のひねりを加えた右回し蹴り。

体重の乗ったそれは、けん制とは言い難い、気合の入った一撃だ。


「――フッ!」


僕はそれを左腕で受け止める。

バシィン!と鞭が打ち付けるような音が空を切り裂く。


「!!――ハッ!」


彼女は避けるでもなく、受け止めた僕に目を丸くする。

すかさず受け止めた僕の左腕を支点に、身体をひねり回転。

遠心力の乗った膝が、顔を狙ってくる。


「バ、バカ!サリ!」


約束組手と聞いていたガルデスくんが叫ぶ。

その奇襲に対し、僕は勢いを後ろに流しながら右脚を前に進める。

そして、右の掌で膝を受け止めた。


「いいね。重く、殺しても構わないって覚悟がこもってるっ!」


「――チッ!平気で受け止めて、よく言う!」


必殺の膝蹴りすら受け止められたサリティさんが後ろに飛び退りながら悪態をつく。

その口の端が吊り上がってるのが、本気であることを伝えてくる。


「――行くよっ。」


やられっぱなしは性に合わない。僕は右脚に力を籠め、大地を蹴る。

飛び込む態勢は低く、潜りこむように。


「オルァ!」


僕の突撃(ラッシュ)を迎え撃たんとボールをけるような前蹴りが放たれる。

僕はブレーキではなく、上空に逃げるために、右脚でもう一度大地を蹴る。


突撃(ラッシュ)の軌道がずれて、置かれるように放たれた前蹴りが空を斬る。

懐に飛び込んだ僕は下から首に突き付けるように左肘を突き付けた。



一瞬の静寂。



驚愕に目を開くガルデスくんと、ヒュウと口笛を吹く御者くん。

その対比が、なんとも可笑しい。


「……勝負あり?」


「……負けました。」


胸をなでおろしながら、僕らは互いに戦闘態勢を解いた。


「ん。とんでもない身体能力。強化の術式?」


サリティさんは初撃を繰り出した足を軽くさすりながら、振り返りを始める。


「硬化と五感の鋭敏化のね。

そうじゃないと、あの回し蹴りは受け止められないよ。

というか、あんな蹴りして大丈夫?」


「びっくりした。鉄の柱に蹴りこんだのかと思った。

接触時に力を抜いてなかったら、砕けてたのは私の脚。」


そうだよねー。

当たったときに空気のはじけるような音がしたから、うち据えるための蹴りだったんだろう。

もし、こちらの腕を砕く目的をもった密度の深い蹴りだったら、サリティさんが骨折していたろうね。


「その後のラッシュもびっくりした。

まっすぐくるから蹴りを置くだけだったのに、軌道をあんな無理矢理変えてくるなんて予想外。」


「置かれることがわかったから、飛び込んでみたよ。

足技主体なのはいいけど、おててがお留守なのは今後の課題かな?」


「むむ、不覚をとっただけ。分かってたらちゃんと上半身も使ってた。」


「戦場において、わかってたらはよろしくないぞ。サリティくん?」


「……ん。わかった。今回はちゃんと言うことを聞く。ただし、次は負けない。」


そういって僕らは互いの健闘を讃えて握手を交わした。


「……お二人ともお話があります。」


そんな僕らの健闘を、もう1人が称える。

こめかみに青筋を立ててにこやかに微笑みながら。


「「……あっ。」」


僕らは、声を揃えて振り返った。



 ***



「ええ。アルトゥス様の実力が疑いないものであることはわかりました。

しかし、奇手に次ぐ奇手。あれは約束組手とは言えません。

お互いに実力が見えてきたから試したくなった気持ちはわかります。

が、当初の約束は守っていただきたい。」


「ハイ、すみませんでした。」


「隊長、固い。

アルトゥス様は強い。

最初の構えと蹴りの対応で分かった。

あれくらい、約束組手の範疇。」


反論するサリティさんの頭からスパアン!という大きな音が響いた。


「ほんっとお前いい加減にしろよ!?

どう考えてもあの膝蹴りは頭をかち割ろうとしている必殺の蹴りだろうが!!」


いやまあ、たしかにあの蹴りは技ありの奇手といって過言じゃなかったね。

左腕に絡みつくような体捌きからの、反対の膝で頭をねらう蹴りは約束組手のような王道のやり取りとはいえないだろう。


でも、そのあたりは一発目の蹴りを受け止めた時点で、サリティさんがこれも大丈夫という実力を察したという経緯があるからセーフじゃないかなとも思った。


「全然セーフじゃないです!

そもそも、護衛対象の要人と本気の組手をするのが論外です!」


はい、僕はもう黙ります。


ガルデスくんは一度目を伏せてから、ちらりと僕の腕に視線を送った。

その視線はさっきの蹴りを受け止めた左腕。

今も何事もなかったように平然としている。

その様子に、彼の眉がほんのわずかに動いた。

あれを受けて平然としているとは、どうなっているんだ?なんて心の声が聞こえた気がした。

彼はすぐに表情を整えたが、内心では何かが揺れているようだった。


戦士として観察した結果を受け止める理性はあるようだが、好奇心が隠しきれてないぞ。


「……ちなみに、アルトゥス様の得意武器はなんでしょうか?」


「やっぱり隊長も組手したくなったか?」


「違うわ!……いや、胸を借りたいのは山々ですが、今ではありませんな!

そうではなく、どのレンジで戦うのを得意にしているのかを聞いておきたいのです。」


「ああ、そういうこと?基本的にはオールラウンダーかな。

どのレンジも得意としているよ。

でも、一番得意なのは遠距離かな?」


「やっぱりエルフだから、弓がお得意なんでしょうか?」


「あはは、やっぱりそのイメージ?

確かに弓も得意だけど、僕の相棒の武器は弓じゃないんだ。」


そういって僕は荷物の中から長方形の白い金属ケースを取り出した。


「今はばらしているけど、これを組み立てた武器で戦うんだ。

遠距離支援用の『兵器(リダンアーカイブ)』だね。」


「遠距離支援の……」


「『兵器(リダンアーカイブ)』!聞いたことある!

一般的な武器とは違って、設計段階から武器そのものにノエス術式を組み込んでいる、高度な技術を用いた|ヴェルドラ式武器!見せて欲しい!!」


兵器(リダンアーカイブ)の単語を聞いたサリティさんが、ガルデスくんを押しのけ、飛びついてきた。

きらきらとした眼で僕の顔をみる。


「はいはい。見ただけじゃ何もわからないと思うけどね。」


僕はそういってケースをあけた。

中には金属製の筒が複数。

各種細かい部品のようなもの多数。

一見すると何が何だかわからないものがたくさん入っていた。


「むむ?これはなんだ?

……金属の棒が大事なのか?筒状になっている。

遠距離ということは吹き矢に近いものか?」


「まあ、そうなるよねぇ。でも、筒に着目できたのは流石だね。」


一見してすぐにこの筒から攻撃が放たれることを察したのは流石だね。

人によっては、これでチャンバラでも始めそうな勢いだからね。


「これを組み立てて、ひとつの武器にするんだ。

かなり精密な武器だから、こうやってばらしておいて、部品をひとつひとつ整備する必要があるんだよ。」


「整備ですか。

……遠距離でこの部品数。

つまり、自動連弩(オートボウガン)のようなものでしょうか?」


流石、ガルデスくんも経験を積んできた武人だ。

これだけで大体察しがついたようだね。


「そう。この兵器の正式名称は『携帯式蒸気圧投射機』。」


そういって僕はにやりと笑った。


「――人呼んで【煙の槍(フームス・ランケア)】。

機械仕掛けの暗殺者シーカーリウス・エクス・マキナだよ。」


その妙に気取った名前に、サリティさんの目が今日一番輝くのだった。

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