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第23話 メイキドルアの武人達

メイキドルア領境にある検問施設でもてなしを受け、一晩過ごした翌日。

僕のところにお客さんがきた。


「メイキドルア領主、グランバル=アーシェスタス様の命により馳せ参じました。

本日よりリヴェリナ王国特使、アルトゥス様の護衛任務にあたります。

ガルデス=ミックハイラと申します。」


「同じく、護衛任務にあたります。

サリティ=メーアガルド。

よろしく願う。お願いします。」


そういって武装している2人が挨拶した。

1人は筋骨隆々で顔に傷が入った、ザ・武人といった風貌の男性だ。

30代後半くらいだろうか。

枯草のような髪色に、横の髪は剃り上げられている。

帯剣してはいるが、装飾が妙に綺麗で服装に対して浮いている。

おそらく、余所行き用の儀礼剣だろう。


もう1人はラプラメル(うさぎ)のような耳をしている、ワイルズ(獣人)族の女性だった。

この辺りではあまり見かけないタイプのワイルズ族で、少し言葉に独特な訛りのような響きを感じる。

多分、別大陸から渡ってきた方だろう。

赤い瞳とハチミツのように透き通って輝く髪が美しいが、ところどころにはねっ毛がある髪型が彼女の性格を表しているように感じる。

足や腹筋の引き締まり具合からしても、戦士としてかなり鍛えているであろうことが窺えた。

帯剣はしておらず、クロスボウのような小さい投射武器と、これまた格好に対して浮くような飾りの多いナイフを腰に差していた。


「アルトゥス=ヴァイツェだよ。よろしくね。

現地までの護衛かと思ってたんだけど、その口ぶりじゃ、それ以降も護衛してくれるってことになるのかな?」


「ええ、比較的安全な領地ですが、森に入るとなると少々話が変わりますのでね。

メイキドルアご滞在中は基本的に我々が護衛致します。」


「うん。我々が護る。安心するといい。

安心すると……よいです?」


ガルデスくんがサリティさんの口調にジロリと眼を光らせる。

彼女はなんとか言葉をひねり出すが、語尾が上がってちょっと疑問形になってしまっている。


「わかった。よろしく頼むよ。

……できれば普段通りの喋り方でお願いできるかい?

堅苦しいのはあまり好きじゃないんだ。」


「助かる。敬語難しい。特使様、よろしく頼む。」


サリティさんはそういって手を差し出してきたので、僕も握手を交わした。

それを見たガルデスくんが天を仰いでいる。

ごめんね、このくらいの距離感がちょうどいいんだ。

だからね。


「ああ、ガルデスくんも無理しなくていいよ。

切替は上手みたいだけど、とっさの時に言葉が荒くなるよりは、普段から慣れておいたほうがいいからね。

キミもそこまで得意じゃないだろ?」


「……追々、そうさせていただきますね。」


ガルデスくんは、コホン、とひとつ咳ばらいをして、僕との握手に応じてくれた。




「これよりメイキドルア領都であるアーシェスタまでご案内します。

領都へ到着後はご領主様ご指定の宿にご逗留いただきます。

ご領主様本人との面会は到着の翌日になる予定です。質問はございますか?」


「そうだね……。念のため、ここらで襲撃を受ける可能性は?」


「おそらくはございませんな。

最近の領内の治安はかなり安定しております。

野盗をはじめとした犯罪者集団も、今は鳴りを潜めております。

唯一予測しにくいデンタール()どもも、特使様をお迎えるにあたり、討伐隊を派遣して一掃しております。」


ふむ、そうなのか。それじゃあ、相棒の出番はしばらくないかもしれないな。


「隊長。大事な懸念。ちゃんと話す。」


サリティさんが、肘でガルデスくんの脇をつつきながら眉をひそめる。

おや、何か言いよどむような事態が懸念事項として残っているだろうか。

サリティさんに促されたガルデスくんが小声で、

「流石に若のことは今すぐ言わなくてよくないか?」

とサリティさんに耳打ちしている。


「気にされたくないなら言わなくていいよ。

こうみえて、世渡りには慣れてるから。

こっちも無理に聞かないよ。」


僕の世渡りの勘が、これは詳しく聞かなくてもよさそうな事柄だなと伝えてくる。

なので、僕はさほど興味もなさそうに聞こえるようにそう答えておいた。

どうしたもんかと頭をかくガルデスくん。

それにしびれを切らしたサリティさんが口を開いた。


「かしらの息子いる。

そいつ、特使様嫌ってる。

野盗に見せかけて、仲間を嗾ける可能性ある。

一番気をつけるべきはそいつ。」


「あ、コラ!全部いいやがって!

――はっ!?す、すみません特使様!」


サリティさんの頭を軽くはたきながら言葉を荒げるガルデスくんは、ペコペコと頭を下げながら僕に謝ってきた。

はたかれたサリティさんが、「どうせ時期わかること」と不満そうに口を曲げる。


「あー……。セルゼクくんの弟くんのことかい?

一応話には聞いてるから大丈夫だよ。」


「あれ、私たちも困ってる。

かしらの息子だから、駆除できない。残念。」


「言い方がおかしいだろ!?

……すみません、特使様。

セルゼク様から聞いてらっしゃるとのことですが、どうにも弟のカドヴィ様が特使様のことを受け入れるべきでないと強く主張しておりまして。

ご領主様もかなり厳しく叱責なさっていましたが、一向に態度の改善は見られませんでした。

一部領民もカドヴィ様に同調しており、ご領主様に考え直すよう嘆願する者も出てきているのです。」


「あらら、嫌われたものだね。」


「誓って申し上げますが、本当に一部の者たちです。

その、カドヴィ様は多少素行がよろしくない知人が多く、その者たちが中心となって「メイキドルアの問題に他国の特使を介入させるご領主様は不甲斐ない」と喧伝しているのです。」


「その心は、次期領主として兄より自分がふさわしいというアピールのためってとこかな?」


「違う。あいつはそこまで考えてない。

ただ自分の才能を示したいだけ。

森の開墾、現場監督はカドヴィの仕事。

自分の仕事横取りされる無能になりたくない。

だから、邪魔する。バカの発想。」


「サリティ!!」


あー、なるほどね。これまではアーシェスタス家の使命として農地開墾のプロジェクトが進められていた。

ご領主のグランバル氏は計画を進めるにあたって息子二人にそれぞれ役割を与えている。

セルゼクくんはルビーナに滞在して、中央政府との交渉や資金・協力の調整を担当。

カドヴィくんは現場の指揮をとり、領民への仕事の斡旋や監督業務を担当。

そして、ご領主自身が全体の予算の使い道や領民との調整を担当していたってところだろう。


そんな中で、土壌改善や水源確保の難航、害獣問題と様々な停滞にテコ入れをするべく、中央政府が隣国から特使を迎えることを決定した。

中央政府としてはアーシェスタス家を始めとした開墾計画の進展の為に良かれと思っての判断だけど、既存のプロジェクトを推進していたアーシェスタス家としては、役不足を言い渡されたように感じられても不思議ではない。


ただ、セルゼクくんの態度は、僕の来訪に対して非常に好意的だった。

これは、特使を迎えるにあたって事前に中央政府とアーシェスタス家で交渉が行われ、アーシェスタス家の今日までの努力に報いるという形で特使を迎えるよう決まったと思ってよいだろう。


その交渉の場に立ったセルゼクくんや、面子を潰さないよう各方面からフォローをもらったグランバル氏は僕の存在を必要な協力者として認める機会があったのだろう。


「でも、カドヴィ君は現場監督だ。

こういった交渉に関わってこなかったのだろう。

結果として、彼にとってだけは僕が手柄を横取りしに来たよそ者という印象がぬぐえなかったってとこかな?」


僕がそんな予測を立てて語ると、2人は顔を見合わせてしまった。


「……いやはや、流石賢者と名高きエルフ様だ。

ええ、どうもカドヴィ様はこれまでアーシェスタス家が行ってきたこの仕事を中央政府が横取りしにきたと一方的に思い込んでいる節があります。

そのあたりは誤解であることを、ご領主様もセルゼク様も口を酸っぱくして何度も説明しているのですが……」


「アレは聞く耳をもたない。思い込んだら一直線。乱暴者のバカ。」


「サリティ!!」


本当のことなのに怒るのはおかしいと小声でぶつぶついうサリティさんが面白くて吹き出してしまう。

いやはや、どうやらカドヴィくんとやらは僕を中央政府からの刺客か何かと思っているようだね。

その誤解を解くためにはどういう手段が必要なのか。


それは今後の課題になりそうだなぁ。

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