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第12話 海邦のたくましい商人たち

「初めまして、特使アルトゥス様。お会いできて光栄です。」


「ご丁寧にありがとうございます。

リヴェリナ特使のアルトゥス=ヴァイツェです。」


綺麗な一礼で僕に挨拶してくれた青年に、僕も鷹揚に応えた。


髪は肩口までで切り揃えられたまっすぐなストレート。

儚げな印象を抱きそうになる、薄い青みがかかった銀色の髪。

だが、柔和に微笑む顔は男性的で、キリッと眉尻が上がったその目に強い意志を感じる。

かなり鍛えてる体つきもしているので、普段はデスクワークとは無縁のタイプだろうか。

見た目の印象は20代前半か。


「セルゼク=アーシェスタスと申します。

早速これまでの事情を……と行きたかったのですが、流石に今すぐ詳細な数字を持ち出すのは難しかったです。

何しろ、開墾の現場は遠い私たちの所領。

やはり、海都にはそこまで詳細なものは届きません。

もちろん、毎月の進捗の報告書や嘆願などは集まりますが……。

お恥ずかしい話ですが、結果が出せてない分、その報告書もどんどん報告量が減ってしまっているという有様です。

今、部下に過去5年分程の計画書や進行表などの資料を再度纏めさせております。

後ほどご滞在先にお送り致します。

本日は私が把握してる限りの開墾計画の推移と結果などを口頭からとなりますが、ご説明させていただこうと思います。」


へえ、領地から派遣されてきた長男と聞いてたけど、優秀そうだね。

毎月の進捗報告の変化にも気がついているということは、自分の仕事の大事さも理解して、この地での役割を果たすに足る人物としてかなり信用できそうかな。

いっちゃ悪いけど、ネーシアス代表が状況を理解してる人を連れてくれば良いといってたから、お飾りタイプがくるのかな?と心配してしまってたんだ。

杞憂になりそうだね。


「セルゼクくん。

焦る気持ちはわかりますが、まずは席について、お食事にしましょう。」


「あ、済まないネーシアス代表。

いや、直接かのエルフ様にお会いできるとずっとワクワクしててね。

格好の悪いところは見せられないと意気込んでいたんだ。」


これはすまないと頭を掻きながら彼は僕に着席を促す。

自然に椅子をひいてくれたので、慣れていそうだ。


あ、ミルシャさんがちょっと不満そうにセルゼク氏を見てる。

自分の役目なのにって思ってるのかな?可愛らしいね。


そんな視線に気づかず、セルゼク氏も着席し、ネーシアス代表とミルシャさんも着席すると料理が運び込まれた。


やはり海都といえば海産物料理だね。

食前酒(アペリティフ)リンゴのお酒(サイダー)一口料理(アミューズ)は貝柱のバター炒めと燻製のお肉だ。


前菜のスープは魚の骨で出汁をとったコンソメかな。

香辛料の爽やかな香りで塩味を引き立ててるのか、しょっぱさはほとんど感じない優しい味付けにまとまっている。


それに海藻のゼリー寄せのサラダには美しい盛り付けで、目で楽しませてくれる。

かかっているソースも酸味が効いて美味しい。


メインの赤身の魚のポワレは少し生の食感が残るレアの焼き加減が絶妙だ。

白身の魚のような淡白さはないが、確かな食べ応えがある。


かかっているソースは舶来品かな?

発酵食品によくある独特な香りがするが、嫌味はない。

旨みが凝縮されているように感じる。


このソース、ちょっと欲しくなった。

後で手に入るかミルシャさんに聞いてみよう。


そしてこれらの料理にリヴェリナの麦酒が合う。

めっちゃ合う。

聞けば、リヴェリナ南部の領から輸入した麦酒とのこと。

瓶を見せてもらったが、覚えのないラベルだ。

僕の教え子たちが独自に作ったものだろう。


「これは陛下から贈られたもので、是非アルトゥス様に飲ませてあげてくれと言伝されております。」


してやったりと笑うネーシアス代表。

あいつめ、僕に内緒で渾身の一品を生産して、僕を驚かせてやろうということか。


いいよ、そのサプライズは大歓迎だ。

自分で造らなくても美味しい麦酒が生まれるということが何より嬉しいことだしね。

ここまで纏まった味に出来ていることに悔しさはない。


……悔しくないって!くっそ、弟子のみんな頑張ったなぁ!美味いなぁ!


「本当に美味しいですね。何故こんな発泡が強いのでしょうか?」


ほうっとため息をついたミルシャさんが思わずといった感じで聞いてくる。


「麦汁を発酵させる際に、自然と溶け込むのがこの発泡の元ですが、従来の樽での発酵ではこれがすぐ抜けていってしまうんです。

なので、機密性を上げるため、エスティライトという透明な石を粉末にして樽の内側に焼き付けるんです。

そうすると粉末が熱で溶けて、木目やつなぎ目を埋めて機密性があがります。

その樽で麦酒を作ると、このくらい発泡するようになるんですよ。」


僕の解説にミルシャさんの目が光り、素早く手元が動く。

いいね、貪欲に知識を吸収しようとする態度は。


「よろしいのですか?かなり重要な工程を教えていただいたような……。」


「ああ、秘密とか利権とか?

これ、リヴェリナや僕が今まで醸造所を開いてたところでは公開している情報だから平気だよ。

みんな気を遣って秘匿してくれてるんだけどね。

僕としてはこの技術はもっと広がって欲しいんだけどな。

いろんな発泡酒がうまれるかもしれないしね。

実際、リヴェリナではワインが発泡するようなものも試作されてるんだよ。」


「ほう、それは是非輸入したいですね!」


ネーシアス代表とセルゼク氏の眼が光る。

ワインの発泡酒ときいて、ミルシャさんも思わず身を乗り出してる。

さすが、根が商人の国の代表だ。


「まあ、発泡酒の弱点として衝撃に弱いから麦酒と同じく日持ちに弱いけど。」


「ああ……。麦酒もそうでしたね……。

海の向こうに輸出しようと試みましたが、長旅には耐えられないですね……。」


がっくりと肩を落とす3人。

ほんと難しいんだよね。

保存料として中間素材の香辛料や殺菌作用のある薬草の煮汁を増やせば日持ちするとは思うけど、味が明らかに変わっちゃうし。

この辺りのバランスを良くして日持ちしやすくする研究もしないとなぁ。


「あの、麦酒って日持ちしないし、長旅にも不向きなんですよね?」


「そうだね。発酵するものだから、それ用に加工しないといけない。

なにより、温度変化に弱いね。

この麦酒も比較的近くのリヴェリナ南部から輸入したものだからこの味をキープできているんじゃないかな。」


「その……。

アルトゥス様が昨日ご馳走してくれた麦酒は大変美味しかったんですが、何か秘密でも?」


「あ、そこに気がつくんだ。ミルシャさんは優秀だねぇ。

……うーん。これは僕の開発した術式器具で保温しているのと、瓶の中で発酵するタイプの麦酒を持ち込んでいるためだよ。」


「それは我々に売れませんか!?」


ネーシアス代表が飛びつく。


「あー……。ごめん、無理かな。

術式器具は僕の固有術(スペルアーキテクト)由来で複製がまだ出来てないんだ。

瓶の中で発酵するタイプの麦酒もこの器具頼りなんだよね。

比較的温暖なこの辺りに持ち込んだ時、保管が難しいんだよ。」


僕の中のルールとして、僕しか再現できないやり方は広めないようにしてる。

誰でもできるレベルまで仕組みを簡潔に出来たら公開するんだ。

そうしないと、僕に負担が集まってしまうからね。


「残念ですが、そういうことなら……。

ですが、まだと言いましたね?

ならば再現や複製の目処がつきましたら是非、我々にも技術提供を!

勿論、その研究に必要な投資も惜しみません!

研究所などがご入用でしたら、ご用意致しますので!」


「ね、ネーシアス代表。

僕は農地開墾の特使であって、研究者じゃないんだけど……。」


「片手間で!片手間で構いませんから!期限も求めませんから!」


なんか最初の印象からどんどん変わっちゃったね、ネーシアスくん!?

そして、うんうんと頷いてる2人もさ!

そんな状態の彼を止めようよ!


「まずは開墾のほう!そっちが動き出したら考えるから!

セルゼクくん、食事も終わったからそっちのこと話そう!ね!?」

 


***



「ミルシャ女史が血相を変えて飛び込んできて、急いでこれまでの開墾についての資料のまとめをお願いします!と言われた時は、まあ驚いたよ。

一応、これまでどんなことをしてきたかは把握してたけど、具体的にいくら使ったとか、数字までは流石にまとめてなくてね。」


「セルゼクさんにはご迷惑をおかけしましたね。

でも、驚いたといいますが、随分冷静だったように見えましたけど?」


「それはまあ、必ず必要にはなるだろうと予想して集めてはいたからね。

ただ、どうしても領地とは離れてるから、時間をかけて整理してからお話したほうがいいだろうと考えていたんだ。

それに事前の話では、今日は顔合わせと私の所感を語る程度でかまわないとネーシアス様から受けていたんだよ?

急な話であることには変わりないよ。」


そういってセルゼクくんはネーシアス代表を恨めしそうに見る。


「いや、だってねぇ。」


だってって、あんた。


「森を開拓しての農場ですらあまり芳しくない状態なのに、内陸地帯全部が頭を抱えている水の問題に解決の糸口がつかめるかもしれないとの話なんだよ?

そりゃ、少しは急ぎたくなるよ。」


あの時の噛みつきが嘘のように口調も態度も崩れている。

あれか?もしかしてあれも挑発のつもりじゃなくて天然とかないよな?

うちの王がたぬきと評する男が、実は天然とか笑えんぞ?

流石に演技だよな。


「ちょっと待ってよ。

僕は水問題も解決できるかもしれないとはいったが、現状で糸口を見つけたとはいってないよ?

あくまで可能性の話だからね、セルゼクくん。」


そしてネーシアスくん。

君今しれっと農業開墾問題からはじまった水の話についてまで任せようとしたよね。

いやまあ、水がないと開墾も何もないよねって言われたらその通りだけどさ。


どうやら植物が育つ森でもなんらかの理由で――というか多分農業用水問題で躓いているんだろうから、結局水問題を真っ先に取り組むのだろうなっていうのは目に見えてるけどさ。


「いえ、本当に長年にわたって水の問題に悩まされ続けてきたんですよ?

もう藁だろうが糸だろうが、すがりつきたかったのです。

そこでアルトゥス様という立派な柱が可能性を示唆してくれたのですから。」


ミルシャさん、こっちをそんなキラキラした眼でみないでってば。

何度も言うけど、ここでは可能性を示唆するぐらいで、できるなんて断言したくないんだよ。

できなかったとき、がっかりするのは君たちなんだから。


「いずれにせよ、全てをアルトゥス様に任せきるようなことはしません。

それを前提としても、ご高名なエルフ様ですから、期待はさせていただきたいです。

まずは私どものこれまでの取り組みについて、一通り説明させていただきますね。」


そういってセルゼクくんはかき集めてきたであろう書類を机に用意し始めた。


まあ、期待に応えられるかどうかはセルゼクくんの話を聞いてからだ。

気合い入れて臨みましょうかね。

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