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第9話 会合にいこう

初日は何事もなく終わった。

夕飯は海都の名に恥じぬ海鮮料理を中心に、リヴェリナ産の野菜と海の向こうから輸入していると思われる、馴染みのない香辛料で味付けされた珍しい料理はとても美味しいかった。

その後は約束していた麦酒をミルシャさんと楽しみ、ゆっくりと湯に浸かってから休んだ。


湯殿もかなり凝っていて、海と星空を楽しめるように露天風呂も用意しているのは驚いたものだ。

風呂の文化が一般にもそれなりに広がりつつあるし、こういった高級路線は継続的に進化していって欲しい。

僕の心の贅沢のためにも。


使用人の皆さんもご機嫌伺いの仕事を作ろうとしない。

だが、常に先んじてこちらがやりたいことを察して動いてくれていた。

メイドさんに至っては、起床後声もかけてないのにすぐノックが聞こえ、水差しを持ってきてくれた。

ドアの向こうから起きる気配を探ったのかと苦笑するしかなかった。


隠密(ステルス)モードの僕の気配を察せるくらいの腕前がもしあったら、良い諜報員になれそうだ。

……いや、純粋に要人警護や諜報の心得のある人材が使用人の業務をしているというのが当てはまるのだろうな。


そんなこんなで快適な貴賓対応の生活を楽しんでいると、あっというまに翌日となった。

ゆっくりと午前中の時間を楽しみ、日が頭上に差し掛かろうとする時間。

ミルシャさんが約束のお時間ですとお迎えに来た。

デートのお誘いではなく、海邦代表との会合だ。

時間的にも会合の後は食事を一緒にするのかな。


僕は持ち込んでいた服を着込み、リヴェリナの紋章の入った外套を纏う。

メイドさんたちに前日からこの服装で会合に行きたいと相談していたので、皴1つなくセットされている。


着る時もお任せしたよ。

綺麗な方に囲まれて着替えさせてもらえるなんて役得だね。


「素敵ですね。

外套はリヴェリナ王国の代表としてご用意されたものだと思いますが、服はエルフ族の伝統衣装ですか?」


「わかりますか。流石ですね。

精霊木の繊維から糸を作り、エルフの術式で編み込んだ特殊な服です。

汚れにくく、ほつれにくい丈夫な服でありながら、高級感があるんです。

何よりエルフだぞって神秘的な雰囲気があるでしょ?

こういった場では、侮られにくくなって便利なんですよ。」


「リヴェリナの代表という肩書きだけで侮る人なんていないと思いますよ?」


「エルフ族というだけで鼻持ちならない田舎者とバカにするような輩とはかなりやり合ってきた歴史があるんです。」


そういっていたずらっぽくニッと笑うと、ミルシャさんはそういう気安さが侮りという誤った態度をされることに繋がってしまうんですよと笑ってくれた。

エルフだからって変に壁を作りたくないし、気安い方が色んな話を聞けていいんだよ。


なんてなことを話しながら、僕を乗せた駆動車が海都を行く。

ルビーナまでの道のりは高速運転だったが、街中ではゆっくりしたものだ。

おかげでお尻にダメージはまったくない。


道行く人がこちらに目を向ける。

その目線は駆動車への注目というより、中に誰が乗っているだろうというような興味のほうが深そうに感じた。

これは、それなりに駆動車の存在は日常に受け入れられつつあるということなのだろう。


日常という意味では、街路も駆動車にあわせてか、綺麗に舗装されている。

こういった舗装の技術は海の向こうから渡ってきたのか。

それとも駆動車を輸入先である第3国を通じて帝国からもたらされてるのか。


アリヴィエの舗装路を見る限り、帝国では舗装路の仕組みはもっと進んでそうだ。

膠灰セメントみたいなのも開発してたはずだし。

道路事情はかなり発展しているとみていいだろう。


状況的に帝国とリヴェリナとの技術格差はかなり開いているとみていい。

そういう意味では王国も今後は駆動車を取り入れていくことは避けられないはずだ。

馬車での往来ではなく、駆動車を意識した現在の道路舗装改修は、今後必要になっていくかもしれないな。


手紙ではそのあたりも進言しておこう。

なんなら開墾のお礼として技術者を送ってもらえるようお願いするかね。

切り出すタイミングも重要になりそうかな。

話題としてついででしかないくらいを装ったほうがよいかもな。


……なんだかんだ、僕ってリヴェリナが好きで、今代の王も見捨てられないんだなぁ。

旅に出たい一心で、なんとか飛び出す口実をいろいろ考えてたけど、ちょっと離れたらすぐに心配になったりしてしまう。

昔いた国なら100年くらいしちゃえばそういう気分もなくなってたけど、リヴェリナとの付き合いは先々代のジジイから始まって、今は孫の治世にまで関わる程だもんな。

くまなく回って友達を見送り続けた想い出は、僕に郷里への愛情を抱かせるほどに大きくなりつつある。

旅人を名乗るには失格なくらい居着いてしまったということかもしれない。

特使の役目を受ける旅人って時点で今更かな。


「何やら考え込んでいる所、大変申し訳ありません。

会合を行う議事堂に着きましたので、駆動車はここまでですわ。」


「ん?もう着いた?

ごめんね、女性をほっといて考え込んでしまってたよ。」


「いえいえ、真剣なお顔は眼福でございました。」


ミルシャさんは先に降りて僕の手をとる。

自然と僕がエスコートされていた。

ミルシャさんが選ばれたのは、こういった女性のエスコートが自然に見えるような所作の美しさと堂々さもあるのだろう。

つくづく優秀な人だ。

そして、そういった女性がのびのびと才能を発揮できる土壌も育ちつつあるのだろう。

200年前には見られなかった景色だな。


「ミルシャさんは普段からこういった要人の案内をするお仕事を?」


「うーん、そうですね。比較的外からの貴賓、かつ男性の方をご案内することが多いです。」


たまに若い女性じゃないのかといわれることもあります。と、軽い自嘲をいれる。

まあ、どこにでもいるよね。年齢と美貌が全ての人。


「とはいえ、それがメインの仕事というわけではなく、普段は雑務(デスクワーク)が中心ですね。

特にこれから会合を行う現代表のサポート業務が多いです。」


「そうなのか。代表は丁寧な方なんだっけ?」


「はい。昨日お話した通り、丁寧ですが、親しみやすい方です。

とはいえ、貿易国の代表に腰を据えることができる強かさをお持ちの方です。

仮面もかぶれますし、表面そのものが全てではないと思ってよろしいかと。」


「昨日も思ったけど、ミルシャさんは隠し事をしないよね。

僕にそんな情報渡していいの?」


「構わないですよ。

どう考えても事前にある程度リヴェリナ王から直接どんな方なのか聞いてらっしゃいますよね?

直接会ったことのある方からお話を聞いている以上、答え合わせをはぐらかす必要はございませんもの。」


「なるほどね。

事前に公開されてる手札の情報なら、答え合わせくらいには付き合ってくれるか。」


あの子(うちの王様)も、あのおっさんは化け狸だっていってたからな。

そのあと、まあこっちがけしかけるのは化けウサギだから、あのおっさん相手でも負けないだろう!なんてのたまいやがったけどな。

だーれが化けウサギか。

悪い狸を退治するのはウサギの仕事と教えてくれたのは僕じゃないかなんていわれたっけ。

ちょっと教えた昔話をいつまでも覚えてやがる。


「うちの王はあくまで貴賓としてもてなされてる立場で向き合った人物像だから、ミルシャさんからみた代表の印象というのを聞いておきたいね。」


「そうですね。……お話したいところですが、残念。時間切れのようです。

この先で代表がお待ちになっております。

印象はこれから直接見極めてください。」


「おっと、残念。昨日聞きだしておくんだった。」


案内の方がひと際大きな扉の前で声をかけている。

僕はミルシャさんに先導されつつ扉をくぐった。



***



「はじめまして、賢者殿。エルフ殿?リヴェリナ特使殿?それとも……。」


僕は、比較的温厚なほうだと思っているんだよ。

だから、初めましてという初対面の挨拶に、にこやかに愛想よくしたかったよ。


「元ノルカザン帝国技術特別顧問。

【アイズ】と【ノエス】の術式分離の開祖。アルトゥス術式研究室長とお呼びしたほうがよろしいだろうか?」


でもね、盛大に人の過去のささくれに対し、無神経に手を入れてきたこいつに対してはさ。


あからさまに不快な顔を見せ、喧嘩腰にならざるを得なかったのは仕方なくないかな。

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