二話「受け継がれる風」
朝の光が森を淡く照らす。
新隊長率いる小隊は、昨日の戦場跡で訓練を再開していた。
ジャベリンを投げ、短槍を突き、回収する――一連の動作は、教本の通り、しかし自律的に繰り返される。
元隊長は少し距離を置き、静かに観察していた。
影に隠れるように立ち、風に揺れる草の音だけを聞く。
「間合いを、保てているか」
短くつぶやくその声に、新隊長は一歩前に進む。
「はい、隊長。隊員たちは呼吸と距離を意識しています」
その声も低く落ち着いている。戦闘時の指示ではなく、理念の確認として発せられる。
小隊は動きを止めず、森の中で半歩前、半歩下がる間合いを微調整する。
ジャベリンが飛び、短槍が突き、再び回収される。
元隊長はその一連の動作を静かに見守りながら、短く言葉を付け加える。
「よい…風走り隊のやり方だ」
新隊長は息を整えながら視線を返す。
「隊長の教えは、私たちの血となり、骨となっています」
言葉少なだが、互いの間合いと動きで十分に意思は伝わる。
訓練が進む中、元隊長は小隊の判断力、反応速度、間合いの正確さを確認する。
「次も生き残れ。それが風走り隊の道だ」
短い一言は、指示ではなく、理念の確認であり、継承の証となった。
風が森を通り抜ける。
ジャベリンが再び飛び、短槍が突き、隊員たちは回収を繰り返す。
その動きの中に、かつて元隊長が教えた全ての理念が生きていることを、元隊長は静かに噛み締めた。




