男人界の挨拶は、抱き合ってお互いの心臓の鼓動を感じ合って、同期して、リズムが同じになって、心が通じるのを分かり合うんだよ、だって。
それから男人界の話を口実に、若の時間を奪うようになった。
幸いこの辺りは公園が沢山あって、人が殆んどいない。
若と連れ立って木漏れ日の四阿で涼を取り、膝枕を頼んで、下から若をうっとり眺め、若の話を聞いた。
「人は少ないよ、全てが自然だよ。ビルとか道路は無いんだ」
ふーん、女人界と同じか。
「すべての人は、仲が良くて気心が知れているんだよ。挨拶はね、抱き合ってお互いの心臓の鼓動を感じ合って、同期して、リズムが同じになって、心が通じるのを分かり合うんだよ」
へー、と感心して、
「本当なの、じゃやってみてよ」
と要求した。
僕は寝そべった状態だったから、若は僕の上半身を引き上げ、胸を密着させた。
窮屈では全然なくて、力を抜いて、ダラーとしていれば良かった。
力の抜けた僕を若は隙間ができないようにギューと抱いてくれた。
若の鼓動が分かる、ドクンドクンと大きく僕を打つ。
僕のは小さく早鐘の様にドコドコドコとして時にドコンと跳ねる。
若は面白がっているようだ。
鼓動がポコン・ユラー・ポコンと揶揄う。
羞恥したけど気持ちよさの方が勝って、いつか同期していた。
スーと気が抜けて、男人界の様子が浮かんできた。
そこは雲の大地に毛氈のような草が足元を支え、
踏み込むたびに発光して、
足の気持ちが分かるらしく飛び跳ねたいと思えばポーンと放り上げてくれる。
行きたいところに雲の大地が出来て、これこそ3次元だな人間界は2次元だ、
と高次元を体験出来たような気分に陥った。
要するに面を意識したらそれは2次元だ。ハウルの城も2次元だ。
落下という概念は無い。
数学で虚数空間を見せてもらったけど、高次元には足りないように思う。
誰もいない、誰かいないかな、と頭に浮かぶと、おや、先に誰かいる、若だ。
変な方向を指したベクトルだ。
やれやれ素っ裸だ。
僕も素っ裸だった。
もちろん病気ではない。
スーと動き向き合った。
抱き合って挨拶した。
肌が密着して鼓動が直に伝わってくる。
僕の鼓動は男人界のそれになっていて、
直ぐに若とシンクロして大いなる安心に包まれ、
人間界の挨拶はサイの角の突き合いだな、と、或いは蚊のすれ違いだな、
と僕の超然は人間界を飛び出たと不埒に思って、若の心臓にたしなめられた。
挨拶が長く続くわけないから起こされて、
どうだった? と聞かれたから、
「面倒くせえ」
と人間界を代表した。
同時に姫と挨拶していない、とふと思い、姫めとなぜか呪った。
さっそく、姫と挨拶した。病気で抱きつかないで、と怒られた。
そうだったのか、病気じゃ挨拶できない。
こんど治まっている時挨拶しよう。




