第二話 挫折と自己嫌悪
足りない調味料を買いに近くのコンビニに訪れた。
外は怖い。治安の悪い区だから、夜にあまり出歩きたくないのもあるが、一番は俺の不登校が原因だ。もう学校に行かなくなって1ヶ月が過ぎた。仮に同級生と鉢合わせたら、向こうはどう思うだろうか?
社会のはみ出しもの、落伍者、ニート。社会に属さない奴への風当たりは強い。群れで行動するのがそんなに偉いのか? 中身のない会話をして、適当な相槌を打つ方が良いのだろうか?
商品棚に陳列された醤油を手に取りレジに向かうと、ホットスナックコーナーから唐揚げの香ばしい匂いが漂ってくる。俺がまだ選手として”使えた”うちは、油物は自制していたが今となっては関係ない。
「からあげクンの....。レッド一つください」
出稼ぎにきた外国人の店員さんが、素早い手つきで商品をビニール袋に入れる。後ろに人はいない。残金にも余裕があったため、俺は追加でカップ麺を購入した。
♢
家に帰るのは少し気まずかった。意味もなく公園に赴き、湯を注いできたカップ麺を啜った。ブランコに揺られながら、真夏の夜の湿った風を感じた。不意に涙が溢れてくる。
前みたいに動かせなくなった右足と目があうと、余計に辛くなった。負の感情から一刻も早く逃れるため、今は胃に大量のものを入れる。
「あぁ、また君か....。奇遇だね」
「お疲れ様。こんなところで、最後の晩餐てやつ?」
「......」
遊具の前で小石を蹴る彼女と目が合う。ほんの数時間前に会った時より、少しやつれて見えた。
「現実逃避だ」
「それでカップ麺を? 美味しいのそれ?」
「分からない....。味をちっとも感じないんだ」
「ふーん..」
俺をここまで病ませているものは何か。
「さっきから、足ばかり見てるけど怪我でもしたの?」
「......」
前十字靭帯断裂。それが俺の、膝に負った怪我の名前だ。リハビリには最低でも半年かかる。そのせいで、再来月に行われる全国高校サッカーの東京予選には出場出来ない。
「来年もチャンスはあるじゃん..」
「いや..。無理なんだよ....。俺の怪我はクセになって、再発のリスクが高いのと....」
「......」
一昨日、YouTubeでサッカーの試合を見た瞬間に吐き気が止まらなくなった。通常のプレーではなく、問題なのはドリブルによる深い切り返しだ。自分の持ち味でもあったのにーー
「多分、イップスなんだと思う....」
「どういう事..?」
「復帰しても、前みたいな動きは出来ない。プロのサッカー選手になりたいっていう、俺の夢は終わったんだ」
「......」
「さ、俺の話はこれくらいで良いだろう。君にも聞いて良いかな? どうして死にたいのか」
「.......」
長い沈黙が続いた。麺はもう伸び切っている。直立した状態で微動だにしない彼女の顔は、よく分からない。
「私を愛してくれる人が、そうしてくれなくなったから....」
「え....?」
風の音がうるさいせいで、上手く聞き取れなかった。
「なんて言ったの?」
「......。誰からも愛されないのは、辛いよねって....」
「......分かるよ」
「分かる..? 分かるんだったらさ!!」
突然声を荒げ、彼女は俺のいる方へ近づいてきた。
「せめて..、自分のことくらいは愛してよ....。バーカ....」
「それを君が言う意味ってーー」
どこに行ったのか、彼女の姿はもう見当たらなくなっていた。
$\dfrac{1}{1+x^{2}}$の積分を$arctan$使って楽して解いてる奴、ガチで危機感持った方が良い。