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第二話 挫折と自己嫌悪

 足りない調味料を買いに近くのコンビニに訪れた。


 外は怖い。治安の悪い区だから、夜にあまり出歩きたくないのもあるが、一番は俺の不登校が原因だ。もう学校に行かなくなって1ヶ月が過ぎた。仮に同級生と鉢合わせたら、向こうはどう思うだろうか?


 社会のはみ出しもの、落伍者、ニート。社会に属さない奴への風当たりは強い。群れで行動するのがそんなに偉いのか? 中身のない会話をして、適当な相槌を打つ方が良いのだろうか?


 商品棚に陳列された醤油を手に取りレジに向かうと、ホットスナックコーナーから唐揚げの香ばしい匂いが漂ってくる。俺がまだ選手として”使えた”うちは、油物は自制していたが今となっては関係ない。


「からあげクンの....。レッド一つください」


 出稼ぎにきた外国人の店員さんが、素早い手つきで商品をビニール袋に入れる。後ろに人はいない。残金にも余裕があったため、俺は追加でカップ麺を購入した。



 家に帰るのは少し気まずかった。意味もなく公園に赴き、湯を注いできたカップ麺を啜った。ブランコに揺られながら、真夏の夜の湿った風を感じた。不意に涙が溢れてくる。


 前みたいに動かせなくなった右足と目があうと、余計に辛くなった。負の感情から一刻も早く逃れるため、今は胃に大量のものを入れる。


「あぁ、また君か....。奇遇だね」


「お疲れ様。こんなところで、最後の晩餐てやつ?」


「......」


 遊具の前で小石を蹴る彼女と目が合う。ほんの数時間前に会った時より、少しやつれて見えた。


「現実逃避だ」


「それでカップ麺を? 美味しいのそれ?」


「分からない....。味をちっとも感じないんだ」


「ふーん..」


 俺をここまで病ませているものは何か。


「さっきから、足ばかり見てるけど怪我でもしたの?」


「......」


 前十字靭帯断裂。それが俺の、膝に負った怪我の名前だ。リハビリには最低でも半年かかる。そのせいで、再来月に行われる全国高校サッカーの東京予選には出場出来ない。


「来年もチャンスはあるじゃん..」


「いや..。無理なんだよ....。俺の怪我はクセになって、再発のリスクが高いのと....」


「......」


 一昨日、YouTubeでサッカーの試合を見た瞬間に吐き気が止まらなくなった。通常のプレーではなく、問題なのはドリブルによる深い切り返しだ。自分の持ち味でもあったのにーー


「多分、イップスなんだと思う....」


「どういう事..?」


「復帰しても、前みたいな動きは出来ない。プロのサッカー選手になりたいっていう、俺の夢は終わったんだ」


「......」


「さ、俺の話はこれくらいで良いだろう。君にも聞いて良いかな? どうして死にたいのか」


「.......」


 長い沈黙が続いた。麺はもう伸び切っている。直立した状態で微動だにしない彼女の顔は、よく分からない。


「私を愛してくれる人が、そうしてくれなくなったから....」


「え....?」


 風の音がうるさいせいで、上手く聞き取れなかった。


「なんて言ったの?」


「......。誰からも愛されないのは、辛いよねって....」


「......分かるよ」


「分かる..? 分かるんだったらさ!!」


 突然声を荒げ、彼女は俺のいる方へ近づいてきた。


「せめて..、自分のことくらいは愛してよ....。バーカ....」


「それを君が言う意味ってーー」


 どこに行ったのか、彼女の姿はもう見当たらなくなっていた。








 

$\dfrac{1}{1+x^{2}}$の積分を$arctan$使って楽して解いてる奴、ガチで危機感持った方が良い。

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