無関係ではいられない
これからどうするか、タチアナとロイが2人で会社の事務所で話し合っていた。
この会社は、ロイが代表として、取り仕切っている。さらには、元PMCであったタチアナの一般社会へ復帰させるサポートてして、お目付け役でもある。
「ボスから、連絡が来た『うちに戻るか?』とよ」
「戻ることになりそうかな…」
「なんとも言えん。厄介なことに巻き込まれたのは確かだ。どっかから圧力は間違いなくかかってるな」
その時、事務所の扉をノックする音がする。誰が来たかは察しがつきつつも、ロイが「どうぞ」と声をかける。
少女の声で「失礼」しますと返事が返ってくる。
姿を現したのは、茶髪にウェーブのかかったロングヘアーの彼女だ。
「ハーイ、タチアナ」
「ハーイ、ジェーン…来ると思った…」
「お邪魔だった?」
小首をかしげるジェーンに対して、ロイが返答をする。
「いや、これでやっと話ができることになりそうだ」
ジェーンが2人の前の椅子に座り、持っていたジュラルミンケースを椅子の横に置く。
「いやー厄介なことに巻き込まれたね。あたし的には思わぬ収穫だったけど」
「お前は何者で、あの男らはなんだか早く説明しろ」
ロイは、イラつきを隠さずに問う。
「説明しやすい方からすれば、あいつらは日本人装って、この国の外国人の支援施設を襲うつもりだったのよ」
「つまり、外国人政策に不満を持った日本人がここを襲ったというシナリオを描きたかったってこと?」
タチアナが、だいたい読めてきた様子だった。
「そそ、その悲劇を元に外国人に優位な政策を後押しするために」
「で、お前さんは?」
「この件を処理してこいとこき使われる雑用係かな…まあ、話を続けるけど、日本人の権利を守るぞー派と外国人の人権がー派は、元々争ってる体で活動資金という名のもとにお金を吸い上げてたのよ」
「ありがちよね…」
「基本なあなあにしてるけど、一応実績がいるから、お互いの意見を通しあって、支援者を煽ったりしてたけど、まあ相手の勢力より優位に立つにこしたことないじゃない?まあ、煽りすぎて下のもんが独断で動いてこの有様だけど…」
うんざりした様子で説明を続ける。
「うちのボスの雇い主曰く、売国行為は看過できないとのことで…その勢力の排除をすぐにはできないけど、力を削ぐ必要があるんだって…」
ジェーンがここに来た目的告げた。とある不法滞在者が事実上経営している会社組織を排除することに協力の依頼だ。表向きは外国人雇用の土木建築業だが、中身はマフィア化しており、公的資金により会社の支援や利益を得させるかわりにとある政治家の暴力装置になっている。そのかわりに、警察にも顔が聞く、さるお方が後ろ盾になるとのことだ。
「ほんとは、やる前にあの三人組をなんとかしたかったけど、仕事を急にふられて、襲撃する施設の候補地を下見に来たら、こうなったと…というか、そもそも、暴走して突っ込む鉄砲玉とかどうなの実行役が…計画が短絡的すぎるでしょ…」
愚痴を挟むも最終目的を告げる。
「会社兼経営者の豪邸から、政治家との繋がりとか不正データとかまあ取引材料はあるわけで…それがメインかな…ちなみにこの件は事件化されないよ。外国人が日本人を陥れようとしたのが公になるとやばいし、その外国人犯罪者グループ皆殺しもまずいでしょ?」
「厄介なことに巻き込まれたな…」
「ロイ…もう巻き込まれてる」
タチアナは、思わずため息を漏らした。
「そだねー。話を聞いた以上はね…それに、こちらに来る前にあなたが居たPMCの前のボス。政治上のゴタゴタでえらい目にあったしね」
ジェーンがなにげなく言った話で一瞬にして空気が冷えるのを感じる。
おおよそ感情が感じられない顔で、タチアナはジェーンの顔を見つめている。彼女の逆鱗に触れたのは確かだ。
「どうやら、オレたちのことを調べたようだが、その話題がタブーとは知らなかったのか?」
ロイがジェーンを睨みつける。しかし、ジェーンはどこ吹く風だ。
「だけど、あなたたちはすでに巻き込まれてる以上、今の生活を続けるためにケツ持ちは必要でしょ?警察にも、マスコミにも顔が聞くのはご覧のとおりでしょ」
「おまえらが筋を通す保証は?」
ジェーンは、ジュラルミンケースから書類を取り出して、2人の目の前に置く。
「『商工会』の仕事の契約書を用意したけど、不足?」
自由商工会と言われる、裏社会を統括する組織の名が出る。
「あなたの上って、それほど力のある人なのね…」
「ボスの雇い主がだけどね。どうする?こちらの目的は、ヤクザまがいな会社をそのままクリーンにして、引き継がせることが一つ。二つは、不法滞在者使って悪ささせてる奴に繋がる情報を得て、取引材料にすること。あなたたちはその手伝いをしてくれればいい」