行き先
「あくまでビジネスで来日したから、人員が足りていない以上手が借りれればはやくはなるが…ドローンが追いついたみたいだ。相手の車発見して、マーキングした。一旦離脱しろ」
「了解」
そのままバイクを脇道に入り、追跡を中断する。
「端末に追跡データを送ったけど、見れる?」
「ヘルメットのバイザーで見てます」
タチアナのかぶるヘルメットのバイザーの右側にドローンの位置と車の位置がマップ上に映し出されている。
「便利なモン持ってるじゃない。どうやら港の方面に向かってるようね。軽くドライブすることになりそうだから少し話そうか」
脇道を使ってわざと遠回りをして、追跡を再開する。
「ターニャのしたいことは、単刀直入に言えば子供たちの心と身体を助けることでしょ?」
一呼吸おいてエレンは続けて話す。
「あたしらは、あくまで子供たちの身体的な自由を取り戻すまでが仕事だ。状況によっては子供であったとしてもこちらの身を守る為に殺さざるおえない時がある。そして、メンタルケアは財団の仕事だ。それは、あたしらにはできず、逆に財団は荒事に向かない。まあ、役割分担だ」
「それは理解しています」
「親父と母さんを見て、暴力からの脱却と社会復帰の手助けがしたいと思ったのでしょ?自分が社会復帰しないといけないと思いつつ、できずにご覧の状況だ」
「はい」
指摘されたことに対して、ただただ自分が情けなくなる。
「こういう選択肢はどう?一旦自分の社会復帰を諦めるかわりに、紛争こそはない国だけど、裏社会に苦しめられている子供たちもいる。そういう子たちを自由にして送り出すこの国でのあたしらの活動しての民間警察。この国で活動できるようになったのはターニャがきっかけだ。やることは変わらないが、あたしらより制約がある。財団の社会復帰活動にも近い立ち位置になる」
C&Sの仲間は彼女にとって家族も同然だ。少し年下のタチアナも妹のように思っている。だからこそ、いじわるしながらも気にかけている。そして、彼女は選択肢を与える。
「暴力からしばらく離れられず、社会復帰はできないが、子供たちを自由にし、社会に出る助けをしながらいつかは暴力を捨てられるようになるかもしれない。社会復帰が難儀な奴らと共に学べばいい。なにも社会復帰成功の前例が送り出す役目でなくてはいけない訳じゃない。社会復帰を目指したいのを一旦置いて、しばらく勉強する選択肢もあり何じゃない?」
「…はい」
「今回は責めてるわけじゃない。あくまで選択を聞きたい。今回は作戦に参加するとして、考える時間はあるからあたしの意見に従うのではなく、自分が納得できる答えを見つけなさい」
「わかりました」
幾度も自問自答を繰り返す。やりたいことと現実。自分の行き先は果たしてどうなるか不安を覚えながらバイクを走らせた。




